第108話 旧学生服と退魔のローブ
「……なにこれ?」
「こ、これは?」
「どっちも昔、あたしが着ていた服さ。捨てるのも勿体なくてずっと持ってたんだけど、今のあんた達に必要な物だと思ってね」
バルルは自分が学生時代に着ていた制服をミイナに渡し、冒険者になった時に身に着けていたローブをマオに渡す。いきなり服を渡された2人は戸惑い、どうして自分達に服を渡してきたのかを尋ねる。
「どうしてこれを私達に?」
「その制服もローブも普通の服じゃないからさ。こう見えてもそこいらの兵士が着こんでいる鎧よりも頑丈で役に立つよ」
「え、この服が……?」
二人に渡した制服もローブも単なる服ではないらしく、バルルによればどちらも特別な素材で拵えた服だという。その性能は街を警備する兵士が着こむ鎧などよりも高性能らしく、特にマオの渡したローブは昔の時代の魔術師は誰もが着こんでいた物だという。
「あんたに渡したのは「退魔」の効果を持っているんだよ」
「退魔ですか?」
「名前の通りに魔法を退ける力を持つのさ。ひよっこの魔術師の魔法程度なら傷一つ付かないし、衝撃に強い素材で構成されているから魔法以外の攻撃を受けても簡単に敗れる事はない優れものさ」
「へ、へえっ……」
「昔の魔術師はよくそれを着てたんだけどね、だけど最近の魔術師は見栄え重視で着飾る事が多くなって、地味な見た目のそいつを着る奴は居なくなってきたね……これも時代なのかね」
退魔の効果を持つローブは性能面では優れているが、外見が地味なために最近の時代は着込む事はなくなったという。だが、マオの受け取ったローブは地味過ぎるために男女どちらが身に着けても違和感はなく、男性のマオが着ても特におかしくはない。
冒険者時代のバルは15才の時に購入した代物であるため、12才のマオが着こむには少し大きすぎた。だが、成長期の彼ならばこれから身体も大きくなっていくのでいずれ着こなせるようになるだろう。
「バルル、こっちの服は?」
「そいつはあたしが学生時代の時に着ていた制服さ。そいつは今の魔法学園の生徒が着こんでいる制服と違って色々な機能があるよ」
「機能?」
「その制服の胸の部分に水晶が嵌め込まれているだろう?そいつを着込んだ状態でその魔石を回せば服が伸縮して着込んだ人間の体型に合わせた大きさになるのさ」
「……これ?」
ミイナは制服に嵌め込まれた水晶に視線を向け、試しに彼女は実際に着替えて見る事にした。マオとバルルを外に出させて彼女は制服に着替えると、二人を呼び戻す。
「……ぶかぶか」
「まあ、あたしが三年生の時に着ていた服だからね。ちょっとデカいのは仕方ないね」
「でも胸元の部分はちょっときつい」
「そ、そうなんだ……」
15才の時のバルルが着こんでいた制服のため、まだ13才のミイナには服が大き過ぎた。但し、胸元の部分だけは15才時のバルルよりも大きいらしく、少しきつそうな表情を浮かべる。
「あんた、本当に13才なのかい?まあいい、それよりも水晶を回してみな」
「こう?」
ミイナが制服の胸の部分に嵌め込まれている水晶を回した瞬間、唐突に制服が縮み始めてミイナの体型に合わせた大きさへと変化した。ミイナは驚いた様子で自分の制服を眺め、胸元の部分もきつくなくなった。
バルルが通っていた時の学生服は体型に合わせて服が伸縮する機能が備えられており、原理は彼女も分かっていないが胸元の水晶を操作する事で身に着けた制服の大きさを変更できるらしい。しかも他にも機能があるらしく、マオの受け取った退魔のローブと同じく魔法に強い耐性を持つらしい。
「その学生服は魔法学園の生徒のために作られた代物だからね。だから魔法に対して強い耐性を持っている」
「そうなんですか?あれ、でもそれならどうして今は制服が違うんですか?」
「今の時代の制服も魔法耐性は高い素材で作られてはいるさ。但し、昔のと違って体型に合わせて伸縮する機能はなくなったけどね」
「これ、気に入った。今の制服よりもこっちの方が動きやすい」
現代の時代の制服は魔法耐性が高いという点を除けば昔の学生服よりも機能がいくつか失われており、ミイナは今の制服よりも昔の制服の方が気に入った。バルルは自分の制服を着こなすミイナを見て昔を懐かしみ、マオにも早くローブを着るように促す。
「ほら、あんたもさっさとそれを身に付けな。今から課外授業を行うよ」
「えっ……課外授業?」
「また何処かへ出かけるの?」
「昨日も言っただろ、今日は子供のあんたらでも金を稼げる方法を教えてやるのさ」
課外授業という名目でバルルは二人を外へ連れ出し、王都の外へと出向いた――
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