第109話 魔除け柱

――王都の外は辺り一面に草原が広がっており、動物以外にも魔物が多数生息していた。但し、王都付近には魔物が近寄ってこれないように仕掛けが施されており、マオ達はバルルに連れ出されて外に出向くと彼女は説明を行う。



「ほら、あそこに柱が立っているだろ?あれには魔物除けの効果があるのさ」

「あ、本当だ……何ですかあれ?」

「魔物だけが嫌がる魔力の波動を放つ効果を持つ柱さ。一般的には魔除け柱とも言われているね」



王都の周囲には一定の感覚で柱が立っており、バルルによれば「魔除け柱」と呼ばれるこの柱には滅多に魔物が近寄る事はないという。この魔除け柱の傍にいれば大抵の魔物は近づく事もできずに立ち去るらしい。


魔除け柱は内部に魔石が埋め込まれているらしく、この魔石から放たれる魔力の波動を感じ取った魔物は嫌悪感を抱き、柱に近付こうともしない。但し、全ての魔物を退ける効果があるわけではなく、必ずしも魔除け柱の傍は安全とは言い切れない。



「この柱の傍は比較的に安全だけど、油断はするんじゃないよ。魔除け柱といっても必ずしも魔物を追い払ってくれるとは限らない。前に魔物から逃げている途中で魔除け柱に逃げ込んだけど、その魔除け柱の効果が切れていて魔物に襲われた人間もいるからね」

「そ、そうなんですか……」

「魔除け柱が効果を発揮しているのかどうかを確かめる場合、柱の上に立っている水晶玉の輝きと色で確認しな。ほら、この魔除け柱は白く光ってるだろう?これは魔除け柱にまだ魔力が残っている事を示しているのさ」

「へえ~っ」



バルルに言われてマオとミイナは魔除け柱に視線を向け、言われてみれば柱の一番上の部分には水晶玉が設置されていた。白く光り輝いている間は魔除け柱は効果を発揮しているらしく、水晶玉の光で魔除け柱が作動しているのか確認する事が簡単にできた。



「もしもあんたらが魔物に襲われて逃げる場合、この魔除け柱がある場所に向かいな。但し、大抵の魔物は魔除け柱に近付く事もできないけど稀に魔除け柱の効果を振り切って近付いてくる魔物もいる」

「そんな魔物もいるんですか?」

「ああ、一番有名な奴はトロールだね。トロールは感覚が鈍くて魔除け柱が放つ魔力の波動も全く影響を受けない。まあ、この地方にはトロールは生息していないから襲われる心配はないけど、あんまり油断するじゃないよ。魔除け柱の傍にいれば絶対に安全なんて保障はないからね」

「分かった」



珍しく教師らしい説明をしながらバルルは王都周辺に配置されている魔除け柱を通り過ぎ、二人を連れて草原に出向く。今回は馬車などの乗り物の類には乗り込まず、二人を連れてどんどんとバルルは歩いていく。


どうしてバルルが草原へ連れ出したのかとマオとミイナは疑問を抱くが、彼女は課外授業という名目で二人を連れ出し、今日のうちにお金を稼ぐ方法を教えるといった。マオとミイナは例の賞金首を捕まえて得た報酬で装備を整えたため、あまり手持ちの金はない(残った報酬は両親の仕送りとして送った)。



「今日教える方法はあたしが暇な時にしかできない金稼ぎだからね。魔法の練習代わりに金も稼げる、正に今のあんた達にとっては打って付けの方法さ」

「師匠、まさかここって……」

「嫌な予感がしてきた……」



草原にある丘の上に3人は立つと、周囲の光景を確認してマオとミイナは冷や汗を流す。その後ろに立つバルルは笑みを浮かべ、3人の視界には草原を行き交うの姿が映し出された。



「今日の授業は実戦方式だよ。あんた達の魔法で魔物を倒してみな」

「え、ええっ!?」

「……魔物と戦う授業は3年生になってからのはず」

「それは他の教師の教育指導だろう?あたしには関係ないね、あたしの教育方針は実践で育てる!!これが一番のやり方さ!!」



バルルは授業という名目でマオとバルルに魔物と戦わせるためにわざわざ外に出向き、二人は草原のあちこちに存在する魔物の姿を見て呆然とする。


二人とも魔物との戦闘は既に体験しているが、まさか新しい装備を整えた当日に魔物と戦わされる羽目になるとは思わなかった。しかもこれまでは魔物との戦闘の時は屋内や傍に護衛となる冒険者がいたが、今回はバルルが付き添っているだけで他に二人を守る存在はいない。



(い、いきなり魔物と戦う事になるなんて……いや、落ち着け。大丈夫、僕はもう戦える力を持っている)



マオは取り乱しそうになる自分自身を落ち着かせ、彼は自分がもう魔物を前にして怯えていた頃とは違うと言い聞かせる。いきなり魔物と戦わされると知って緊張してしまったが、マオはたった一人で魔物が巣食う深淵の森を渡り歩いた事を思い出す。


これまでの魔物と戦闘経験を思い出した途端、マオは身体の震えを止めて頭が冷静になった。魔物が恐ろしい存在である事は間違いないが、それでも今の自分ならば魔物に対抗する力を持っている。そう思った途端にマオは緊張が解れ、バルルに話しかける。

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