第107話 二又の杖

「バルル、ここで魔法を使ってもいい?」

「あんたね、いい加減にあたしの事は師匠か先生と……ああ、もういいよ。店に迷惑をかけるんじゃないよ」

「分かった」

「おい、何を勝手に……」



ドルトンが止める前にミイナは腕輪を装着すると、その場で両手を前に伸ばしていつも通りの感覚で「炎爪」を発動させようとした。だが、いつもと同じように魔法を使おうとした瞬間、彼女の身に着けた腕輪が輝いて通常時よりも大きな炎が両手に包み込む。



「にゃうっ!?」

「あちちっ!?ちょ、この馬鹿!!やり過ぎだよ!!」

「ミイナ、抑えて!!」

「おいこら!!店を燃やす気か!?」



皆に怒られてミイナは慌てて炎爪を解除すると、彼女は炎が消えた両手を見て驚いた表情を浮かべる。今まで使用していた学園支給の魔法腕輪と比べ、新しく作って貰った魔法腕輪はこれまで以上に魔力を引きだせるようになっていた。



「これ、凄い……気に入った」

「たくっ、危うく店が燃えるところだったろうが!!お前等、もう帰りやがれ!!」

「お、落ち着きなって……実際に魔法を使ってみないと具合も分からないだろ?もしも不具合があるなら調整してもらう必要があるんだからさ」

「たくっ……次に騒ぎを起こしたら叩きだすぞ」

「……ごめんなさい」

「悪いね、本当に……ほら、あんたも試してみな。但し、魔力は抑えるんだよ!!」

「は、はい……」



怒ったドルトンをなんとか宥めながらバルルはマオにも新しい杖を試すように促すと、マオは緊張した様子で二又の杖を構える。


新しい杖を使用する事に若干の不安はあるが、同時に期待感も抱いていた。先ほどのミイナの魔法を見てドルトンが作り出した装備品の性能を思い知り、自分の新しい杖もどれほどの事ができるのか試してみたかった。



(店に迷惑を掛けないように気をつけないと……)



二又の杖を掴んだ状態でマオは意識を集中させ、無詠唱で魔法を発現させようとした。しかし、この時にマオはいつも以上に魔力を杖に吸い込まれる感覚を覚えた。



(うっ……前より魔力を使うな。それもそうか、この杖は二回分の魔法を一度で発動させるんだから)



これまでは両手で魔法を使ってきたマオだったが、今回の二又の杖は両手で使用するのと同じぐらいの魔力を消費する。つまりは今までの倍の魔力を消費しなければ魔法は発動できない。だが、逆に言えば



「はあっ!!」

「うおっ!?」

「これは……」

「はっ……大したもんだね」



気合の込めた声を上げてマオは杖に魔力を送り込むと、二又の杖の両先端から二つの氷塊が誕生した。両手を使用せずに二回分の魔法を同時に発動する事に成功したマオは感動を覚えた。


試しにマオは作り出した氷塊を操作しようとすると、どちらの氷塊もマオの念じた通りに動かす事ができる。これを利用すればマオは一度の魔法で二つの氷塊を作り出し、それを利用して相手に攻撃を行う事もできる。その代わりにこれまで二倍の魔力を毎回消費する事になるが、今のマオならばその程度の魔力消費量は大きな問題ではない。



「これ、凄い……ドルトンさん、本当にありがとうございます!!」

「へへっ……気に入ってくれたなら何よりだ」

「なるほど、見た目はともかく大した性能だね」

「お前は一言うるさいぞ!!ほら、用事が終わったのなら出ていきやがれ!!」



バルルの余計な一言のせいでドルトンは気分を害してマオ達を追い出すが、彼のお陰でマオとミイナは新しい装備を手に入れた。二人は早速学校に戻って新しい杖と魔法腕輪で魔法の練習を行いたいと思ったが、そんな二人をバルルは引き留める。



「おっと待ちな、あんた等が行く場所は学校じゃないよ」

「え?」

「……何処に連れていくの?」

「いいから付いて来な、そしたら良い物をくれてやるよ」



意味深な表情を浮かべながらバルルはマオとミイナに付いてくるように促し、不思議に思いながらもマオとミイナは後に続く――





――マオとミイナを連れてバルルが向かった先は彼女が経営している宿屋だった。現在は教師を勤めているが、バルルは元々は宿屋の主人である。今は宿屋の方は従業員に任せているらしいが、どうしてここへ連れてきたのかとマオとミイナは疑問を抱く。



「ここってバルルさんの宿屋ですよね。どうしてここに?」

「分かった、ここで私達をお祝いしてくれるの?」

「まあ、半分は当たりだね。あんたらのために贈り物を用意してあるんだよ」

「え?贈り物?」



バルルは宿屋に戻って自分の部屋へ帰ると、二人を廊下で待たせておく。しばらくの間は部屋の中で何かを探すような物音が聞こえたが、やがて彼女が部屋から出てくるとその手には思いもよらぬ物を手にしていた。



「あんたらにこれをやるよ。昔、あたしがガキの頃に着ていた服さ」

「これは……学生服とローブ?」

「でも、私が着てるのと違う」



彼女が持ち出してきたのは現在の魔法学園の制服とデザインが異なる学生服とローブだった。この二つは若い頃のバルルが着ていた物らしく、彼女は学生服をミイナに押し付け、マオにはローブを渡す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る