第106話 両利き
「マオ、あんたもしかして両利きなのかい?」
「あ、はい。昔は左利きだったんですけど、お父さんとお母さんから右利きに矯正されました」
「なるほど……あんたが両手で魔法を使えたのはそういうわけかい」
「マオ、私も両利き。だから両手で魔法を使える」
「え、そうだったの!?」
「そういや獣人族は割と両利きは多いと聞いた事があるな」
ミイナもマオと同じく両利きらしく、言われてみれば彼女は両手で魔法を使っていた事をマオは思い出す。先日に戦った牛型の獣人族のガイルは右腕に鉤爪を装着して魔法を使用していたが、もしかしたら彼の場合は右利きだったから左手では魔法を使えずに片方の鉤爪しか装着していなかった可能性もある。
左利きだと生活に色々と不便が出るかもしれないという理由でマオの両親は子供の頃に彼を右利きにさせたが、偶然にも両利きとなったマオはどちらの腕でも魔法を使えるようになったのが判明した。
「まさかあんたが両利きだとは驚いたね……だけど、二つの杖で魔法を同時に発動させるなんて器用な真似ができるね。あたしでも無理だよ」
「えっ!?師匠はできないんですか?」
「人間の中で両手で魔法を使える人は滅多にいないと思う」
「そうだな、そういう魔術師は聞いた事がないな」
獣人族はともかく、人間の魔術師の中で両利きで有名な者はおらず、バルルでさえもマオのように両手で同時に魔法を発動させる事はできないという。練習を行えば彼女もできるようになるかもしれないが、わざわざ両手で魔法を発現させるという発想が思い浮かばなかった。
「あんたが両手で魔法を使えるなんて驚いたね……だけど、それは一度に二回分の魔法を使う事になるんだよ。きつくないのかい?」
「最初の内はちょっときつかったけど、慣れたら割と平気です」
「なるほど、あんたが扱えるのが下級呪文だけだからね……元々魔力消費が少ない魔法だし、両手で扱っても大した問題じゃないか」
単純に考えれば両手で魔法を使用するという事は魔力消費量が倍になるという事だが、マオの下級魔法は燃費という点では他の魔法よりも最も低い。だからこそ問題はなかったが、今のマオは欲しいのは「一度の魔法で二回分の魔法を使える杖」だった。
「あの、片手でも二つの魔法を同時に出せる杖を作る事はできますか?」
「まあ、できなくはないが……それだとお前さんにも負担が掛かるぞ?」
「大丈夫です、お願いします!!」
「……仕方ねえな、それなら作ってやるか」
ドルトンはマオとミイナの要求を引き受け、彼は金貨を受け取ると二人の要望した杖と腕輪の制作を開始する――
――制作を依頼してから翌日、ドルトンから呼び出されたマオ達は彼の店に訪れると、彼は既に依頼されていた新しい装備品を用意していた。
「おう、遅かったな。ほら、まずは嬢ちゃんからだ」
「わあっ……綺麗、それに可愛い」
「言われた通りに猫の模様も刻んでやったぞ。たく、面倒な手間を賭けさせやがって」
「あははっ……悪かったね」
ミイナの新しい魔法腕輪は彼女の要望通りにこれまで使用していた腕輪よりも細く、重量も軽くなっていた。しかも腕輪の表面にはミイナの要望通りに可愛い猫の顔の模様が刻まれている。
新しく受け取った腕輪をミイナは嬉しそうに装着し、そんな彼女を見てマオは微笑ましく思うが、今度はその彼にドルトンは頼まれた物を渡す。
「坊主にはこれだ。正直、嬢ちゃんの腕輪よりもこいつを作るのに一番手間がかかったぞ」
「あ、ありがとうございま……えっ?」
「こいつは……」
ドルトンの言葉を聞いてマオは期待した表情で彼に振り返るが、差し出された物を見て戸惑う。バルルはドルトンが差し出した物を見て不思議に思い、彼の作り出した新しい杖は変わった形をしていた。
――マオの新しい小杖は一言で言えば木造製の「二又の槍」を想像させ、これまでに見た事もない形をした小杖だった。
外見はお世辞にも格好いいとは言えないが、ドルトンはマオの要望を聞いた通りの品物を作った結果、このような形になったという。
「こいつがお前さんの新しい杖だ。これなら片手でも一度の魔法で二つの魔法を作り出せる」
「あ、ありがとうございます……」
「何だかへんてこな杖だね……」
「うるせえ!!見た目よりも機能重視だ!!文句があるなら出ていきやがれ!!」
「い、いや!!そんな事ないです!!これはこれで味があると思います!!」
「……そ、そうか?」
ドルトンはマオの言葉を聞いて途端に気分が良くなり、彼もこの杖のデザインは色々と思う所はあったようだが、マオの要望を叶えるにはどうしても小杖の形を変える必要があったらしい。
改めてマオは二又の槍ならぬ「二又の杖」を手にすると、とりあえずは新しい杖で魔法を試す必要があった。ミイナも早く新しい魔法腕輪の性能を確かめたいらしく、早速二人は魔法の練習を行う。
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