第91話 賞金首の捜索

「でも、賞金首を捕まえると言ってもまずは居所を見つけないといけない」

「そうだね、でもどうすればいいかな……」

「人探しなら私は得意、だから私が探してくる」

「えっ!?でも、危険じゃ……」

「大丈夫、私はあのバルルからずっと逃げ続けてきた事を忘れた?」



マオはミイナに言われて確かに彼女の身体能力の並の人間とは比べ物にならない事は知っている。しかし、今回の相手は彼女と同じく「獣人族」の犯罪者でしかも大人が相手だった。



「でも、この犯罪者も獣人族だし……」

「大丈夫、この男は角を生やしている。という事はきっと牛型の獣人族……犬型や猫型の獣人族より早く動けるはずがない」

「そ、そうなの?」



ミイナによると獣人族は多種多様らしく、例えばミイナのような猫型の獣人族は本物の猫のように身軽で動きも素早く、犬型の獣人族は足が速くて嗅覚が鋭いという特徴を持つ。牛型の獣人族の場合は力は強いが動きはそれほど早くはないらしく、仮に見つかったとしてもミイナは逃げ切れる自信があるという。


牛型の獣人族はめったにおらず、もしも見かけたら目当ての犯罪者の可能性が高い。しかし、相手もそれを承知して外見を誤魔化している可能性があり、簡単に見つけられるとは思えない。それでもミイナは見つけ出す自信があった。



「私は目も良いから建物の上からでも道を歩く人の顔を確認できる。だから賞金首が通りがかったら見つける自信はある」

「な、なるほど……でも、それだと僕はどうしたらいいの?」

「賞金首もきっと何処かに隠れていると思うから、私がこっそり後を尾行して居場所を探す。マオはそれを偶然発見した風に兵士に報告して、あとは兵士の人達に任せればいい」

「えっ!?でも、それだと僕は何もしていないんじゃ……」

「でも、この方法が一番安全」



話を聞いていたマオはミイナの提案だと彼女ばかりに苦労を掛ける事になり、抗議しようとするがミイナは言葉を続ける。



「この方法は私にしかできない。それともマオは他の建物に飛び移る事ができる?」

「……いや、無理だけど」

「だったら私に任せてほしい。大丈夫、普段から城下町にはよく行ってるから見つける自信はある」



ミイナは普段から城下町の建物の上を跳び移って行動しているらしく、彼女ほどの身体能力を持ち合わせていないマオではミイナのように建物を飛び移る事などできない。


確かに彼女の優れた身体能力と視力ならば賞金首を見つけ出せる事はできるかもしれない。しかし、それだとマオはミイナに面倒事ばかりを押し付けて自分は兵士に報告していい所を持っていく事に罪悪感を抱き、どうにか自分も役立てないのかを考える。



(ミイナに全部任せるわけにはいかない。僕だって役に立たないと……)



作戦自体は悪くはないがミイナだけに苦労を掛ける事にマオは納得がいかず、自分もどうにかミイナと共に役に立てる方法がないのかを考える。この時にマオはミイナから建物を飛び移る事ができるのかと言われた事を思い返し、そして先日にバルルに言われた「質と量」の話を思い出す。



「……あ、そうだ。もしかしたら……」

「……?」



マオはある事を思いつき、そんな彼にミイナは不思議そうな表情を浮かべた――






――ミイナと別れた後、マオは彼女の考えた作戦を実行する前にとある練習を行う。今までマオは魔法を発動する時は常に一つの氷塊しか生み出してこなかったが、魔力操作の技術を身に着けた今ならば複数の魔法を同時に発現できるのではないかを試す。


学生寮の自分の部屋でマオはリオンから受け取った小杖と、学園から支給される小杖を両手に握りしめる。以前にマオは二つの杖で同時に魔法を発動できないのか試した事はあったが、当時は失敗に終わった。



(今ならきっと……)



しかし、前の時はマオは碌に自分の魔力を操作できなかったが、バルルとの訓練で彼は魔力操作の技術を身に着け、以前よりも巧みに魔力を操れるようになった。彼は両手の小杖に意識を集中させて魔法を発動させる。



「アイス!!」



魔法を唱えた瞬間、二つの小杖の先端から氷塊が誕生した。マオは二つの杖で同時に魔法を発動させる事に成功して安堵するが、喜んでばかりではいられない。



「よし、成功した……なら次はもっと数を増やさないと」



最初の頃は二つの杖で魔法を発動するのが失敗した理由は単純に魔力の操作が上手くできず、両手に同時に魔力を送り込む事ができなかったからである。しかし、厳しい訓練を経て自分の魔力を操作できるようになったお陰でマオは二つの杖で同時に魔法を発動できるようになった。


これを利用してマオは二つの杖を使用して次々と魔法を作り出す。これまでマオは発現できる氷塊の数は「5つ」が限界だったが、今の自分ならばもっと数を増やす事ができる自信が彼にはあった。



「はあっ、はあっ……10個目」



魔法を連続で使いすぎてかなりの魔力を消耗したが、マオは二つの杖を利用して次々と氷塊を作り出し、最終的には10個の氷塊を作り出せる事が判明した。これ以上に魔法を使おうとすると精神力が持たず、現状では10個の氷塊を発現させて操作するのが限界だと判明する。

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