第90話 賞金首

「お兄さんは見回りをしていたんですか?」

「ああ、それもあるけど……実は上司からこれを街で張り出してくるように言われてね」

「これは……?」



兵士は鞄を掲げており、その中には羊皮紙の束が入っていた。兵士は羊皮紙の1枚を取って中身を見せると、そこには獣人族の男性の絵が記されていた。



「君もこいつを見かけたらすぐに僕達に連絡をくれ。この男は凶悪犯罪者なんだ」

「この人、何をしたんですか?」

「殺人だよ。確認しただけでも10人以上は殺されている……最も被害があったのはこの城下町じゃないけどね」



羊皮紙に記された「賞金首」の男性は王都とは別の街で犯罪を犯したらしく、先日にこの男を王都で見かけたという報告が届いた。王都の警備を行う兵士達は賞金首の似顔絵が描かれた羊皮紙を城下町に張り出す様に指示を受けたという。


賞金首の顔はマオも見覚えがなく、兵士の話によると彼が先日に捉えた通り魔よりも危険な男らしい。通り魔は力の弱い子供を狙って犯罪を繰り返していたが、この男の場合は傭兵や冒険者も殺している。



「この男の名前はガイルと言って銀級の冒険者さえも殺している。殺人現場を目撃した人間の話によると、どうやら魔拳士の可能性がある」

「魔拳士?という事は魔法が使えるんですか?」

「ああ、そういう事になる。君も魔法が使えるからと言って油断しない方が良いよ。今日の所は用事を済ませたら早く帰りなさい」

「は、はい……あの、それ一枚貰えませんか?」

「ん?ああ、別に構わないが……」



兵士はマオに羊皮紙を一枚差し出すとその場を離れ、残されたマオは羊皮紙を確認する。彼が羊皮紙を受け取った理由は賞金首の顔と名前を覚え、記されている金額を確認して冷や汗を流す。



(捕まえたら金貨10枚……凄い大金だ)



この世界における金の価値は「紙幣」「銅貨」「鉄貨」「銀貨」「金貨」の5つに別れ、一番下の紙幣にもいくつかの種類が存在する。金貨10枚は日本円にすると100万円ほどの価値がある。


賞金首という事は捕まえて兵士に引きだせば賞金が支払われるため、子供であるマオだろうと捕まえる事ができれば大金を受け取れる。マオは年齢的に働く事も難しいが、もしも賞金首を捕まえる事ができれば大金を手に入れて親に仕送りもできた。



(捕まえれば金貨10枚か……けど、相手も魔法使いか)



通り魔を捕まえた時はマオは魔法の力でどうにかできたが、相手が魔法を使えるとなると慎重に行動しなければならない。しかも相手がどの系統の魔法が使えるのか分からずに挑むのは危険過ぎる。



(もう少し詳しく話を詳しく聞いておけば良かったかな……)



羊皮紙に記された賞金首の顔を確認し、緊張した様子でマオはこの犯罪者を捕まえるために行動するべきか悩む。正直に言って危険過ぎる相手だが、過去に通り魔を捕まえた事、そして魔物との戦闘を経て自分の魔法の力に自信を身に着けたマオは今の自分なら犯罪者を捕まえられるのではないかと思う――






――悩んだ末にマオは一旦学園へと帰還すると、他の者に相談する事にした。そして彼が真っ先に会いに向かったのは屋上であり、そこにはいつも昼寝しているミイナが待っていた。



「……なるほど、話は分かった。私達でこの賞金首を捕まえて賞金を山分けするの?」

「えっと……まあ、そうなるかな?」



色々と迷った末にマオは自分一人では賞金首を捕まるどころか探し出すのも難しいと思い、学園内では一番親しい間柄のミイナに相談する。彼女は話を聞いても特に驚かず、むしろ興味深そうな表情を浮かべていた。



「賞金首を捕まえる……ちょっと楽しそう」

「その、無理にとは言わないけど……やっぱり、危ないし辞めた方がいいかな」

「でも、お金が欲しくないの?」

「それは……欲しいけど」



ミイナの言葉にマオは否定できず、彼の家は正直に言って裕福とは言えない。マオを王都へ旅立たせるために両親は村の人間から借金までしてしまい、それを考えるとマオは一刻も早く両親に仕送りをしたいと常日頃から考えていた。


だが、現実に子供のマオではお金を稼ぐ手段が限られ、彼の年齢ではまともに働ける場所もない。そこで子供の彼が大金を手に入れるためには賞金首を捕まえるしか方法はないが、自分のためにミイナを巻き込む事に罪悪感を抱いたマオは彼女に謝罪する。



「ごめん、やっぱりさっきの話は忘れて……これは師匠に渡してくる」

「待って」



マオは自分の師であるバルルに羊皮紙を渡そうとするが、そんな彼の腕を掴んでミイナは引き留める。彼女は年齢の割にはかなり大きな胸を張って鼻息を鳴らす。



「むふっ……私は先輩だから、後輩の頼みは断らない」

「え、でも……」

「それにマオは友達、友達が困っているなら力を貸すのは当たり前」

「けど、危険かもしれないのに……」

「大丈夫、犯罪者を相手にするのは初めてじゃない。私も何回か悪い人を捕まえた事がある」

「そ、そうなの?」



ミイナは過去にマオのように犯罪者を兵士に引き渡した事があるらしく、彼女は高額の賞金首を捕まえる事に協力する事を約束した。しかし、今回の一件はとてもバルルには相談はできず、彼女には内緒でマオとミイナは高額賞金首を捕まえる算段を相談する。

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