第92話 質も量も

「はあっ、はあっ……これ、かなりきついな」



10個の氷塊を部屋の中で造り出したマオは汗が止まらず、思っていた以上に複数の魔法を同時に維持し続けるのは精神力を使う。連続で10回も魔法を使用するのは今のマオには身体の負担も大きく、それでも彼は作り出した氷塊の形を変形させる。


氷刃の時と同じ要領でマオは氷塊を円盤にさせると、ひとまずは大きさを確認する。円盤の大きさは彼がぎりぎり立てる程の大きさは存在し、確認を終えたマオは窓を開けた。



「よしっ、やってみるか」



覚悟を決めたマオは自分の両頬を叩き、円盤型に変化させた氷塊を窓の外に移動させると、それぞれを空中で固定させる。地面の上から50センチほど浮いた状態で停止させた氷塊の円盤を見つめ、マオは意を決して片足を踏み込む。



「おっとっと……よし、乗れた」



空中に浮かんだ氷塊の円盤にマオは乗り込むと、氷塊は地面に向けて落ちる事もなく、空中に停止し続けたままだった。試しにマオが氷塊を何度か蹴りつけたり、思い切ってジャンプして飛び乗っても空中に浮かんだ円盤は僅かに揺れる程度で壊れる事も地面に落ちる事もなかった。


魔法で造り出したマオの氷塊は空中に浮かばせる事ができるため、それを利用してマオは「足場」を作り出す。小さい頃に川を渡るために川の途中にある大きな石の上を跳び移って遊んでいた事をマオは思い出し、空中に作り出した氷塊を利用してマオは移動を行う。



「よっ、ほっ、おっと……よし、渡りきれた!!」



合計で10個の氷塊の円盤を作り出したマオは全ての氷塊を渡り切ると、握り拳を作って喜ぶ。移動した距離は数メートル程度だが、自分が渡った後の氷塊を操作して前方に移動すれば延々と空中を移動する事ができる。



(よし、これに慣れる事ができれば僕も空中を移動して他の建物に移動する事ができる!!)



ミイナは自分一人で賞金首を探すといったが、マオは彼女だけに危険な真似を押し付けるつもりはなく、自分も彼女と行動を共にする方法を編み出す。マオの身体能力では建物の屋根の上を飛び移る事はできないが、それを補うための魔法だった。


氷の円盤を利用してマオは渡り道を作り出し、建物の屋根の上から他の建物へ飛び移る。但し、もしも足を踏み外したり、少しでも集中力が途切れて魔法が解除されればマオは地面に落ちてしまう。



「あいてっ!?くそっ……まだまだ!!」



しかし、何度足を踏み外して地面に倒れようとマオは練習を繰り返し、諦めずに氷の円盤を渡り歩く練習を行う。氷は滑りやすくて足場にするのは不安定ではあるが、それでもマオは練習を続ける。



「うぐっ……いててっ」



何度も氷塊から転げ落ちてしまい、身体が汚れてしまうがマオは諦めずに練習を続ける。しかし、流石に体力の限界を迎えて座り込んでしまう。



「はあっ、はあっ……駄目だ、流石に休もう」



10個の氷塊を維持するだけでもかなり精神力を使い、しかもそんな状態で動き続ければ体力がすぐになくなるのは当たり前の事だった。マオは休憩をするために魔法を解除して建物の壁に背中を預けると、頭を抑えながら考える。



「やっぱり、この方法は無茶があったかな……」



氷塊を足場にして空中を移動する案自体は悪くはないが、問題なのはマオの魔力と体力だった。魔力量が少ないマオが連続で魔法を発動する事も問題だが、まだ子供のマオでは体力的にも問題があり、この移動法は危険度リスクが高い。


しかし、他に建物を飛び移る方法をマオは思いつかず、彼は空を見上げた。空には雲が浮かんでおり、子供の頃に読んだ絵本を思い出す。



(そういえば昔、雲に乗って旅をするおとぎ話を見た事があるな……)



青空に浮かぶ無数の雲を見てマオは絵本の主人公のように自分も雲に乗れたらと考えてしまうが、この時にマオはある事を思いつく。



「待てよ?質と……量?」



立ち上がったマオは自分の持っている小杖に視線を向け、バルルに言われた「質と量」の話を思い出す。先ほどのマオは「量」を重視して複数の氷塊を作り出してしまったが、今回は質にも拘ってみる。


両手の小杖を構えたマオは意識を集中させ、今回は二つだけ氷塊を作り出す。マオは作り上げた氷塊に視線を向け、今まで試さなかったある事を行う。



「形を変える事ができるなら……きっと、できるはずだ」



冷や汗を流しながらもマオは二つの氷塊を近づけさせ、悩んだ末に形を変える。それは奇しくも漢字の「凹凸」を想像させ、二つの氷塊を重ね合わせると通常よりも大きな氷塊が誕生した。



「……で、できた」



通常よりも大きな氷塊の足場を作り出す事に成功したマオは恐る恐る踏み込むと、二つの氷塊が組み合わされた足場は崩れる事はなく、むしろ連結した時点で一つの氷塊へと変わっていた。マオは2回分の魔力を消費して通常よりも大きな氷塊を作り出せる事が発覚した。

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