第83話 試験開始

「結界を発動させよ!!」

「えっ!?し、しかし……」

「何をしている、早くせんか!!」



タンの言葉を聞いて柱の前に立っていた教師たちは困惑し、彼等は闘技台の上に設置された檻と中に眠っている魔物を見て戸惑う。そんな彼等にタンは舌打ちし、仕方なく学園長に許可を求めた。



「学園長!!結界を作動させても構いませんな!!」

「ええ、構わないわ」

「学園長もこうおっしゃっておられる!!さあ、早く結界を作動させよ!!」

「は、はい!!」



学園長が許可を出すと教師たちは柱に杖を構えた瞬間、何事か口元で呟く。すると闘技台の四方に設置された柱が光り輝き始め、やがて柱の上に設置された緑色の水晶玉が光り輝き、闘技台全体がドーム状の光の膜につつまれる。


闘技台の四方に設置された柱には「結界石」と呼ばれる特別な魔石が埋め込まれ、この魔石を作動させると闘技台全体が結界と呼ばれる魔力で構成された障壁に包み込まれる。この結界は魔法や物理攻撃に対して強い耐性を誇り、魔物であろうと簡単には破壊できない。



(これが結界……もう逃げ場はなくなったのか)



結界が闘技台を包み込むと周囲の音が聞こえなくなり、結界に閉じ込められた時点でマオは外界から隔離された。これで外からの音は聞こえず、バルルが彼に助言する事もできない。また、マオが窮地に陥ってもすぐに助けに向かう事も不可能だった。



(こいつが今回の試験の対戦相手……ファングと似てるけど、あの手足はいったい……)



闘技台に設置された檻を見てマオは小杖を構え、檻の中に閉じ込められている魔物の様子を伺う。魔物は今の所は檻の中に閉じこもっているが、その瞳は既にマオの姿を捕えていた。


この時にマリアが懐中時計を取り出し、時間を確認する素振りを行う。すると檻の出入口を塞いでいる錠に紋様が浮き上がり、勝手に鍵が開いてしまう。それを見たマオは檻自体が「魔道具」だと知り、時間を迎えると鍵が勝手に開いてしまう仕組みだと気付く。




――ガァアアアアッ!!




狼のような鳴き声を上げながら出てきたのはファングよりも一回り程大きな魔獣であり、その外見は狼と人間が合わさったような姿をしていた。頭部は完全に狼で全身に毛皮を生やしているが、その手足に関しては狼よりも人間に近く、二足歩行の状態で檻から抜け出す。



(そうだ、思い出した……こいつはだ!!)



マオは自分が子供の頃に読んだ絵本の中に出てきた魔物を思い出し、狼と人間のような特徴を持つ「コボルト」という魔物を思い出す。コボルトはファングやオークを上回る危険種であり、しかも獰猛で自分よりも格上の相手であろうと躊躇なく襲い掛かる。



「グゥウウウッ……!!」

「うっ……」



コボルトはマオに視線を向けると牙を剥きだしにした状態で睨みつけ、口元から大量の涎を流す。そのコボルトの迫力にマオは気圧されそうになるが、彼は小杖を握りしめて向き合う。


先日に魔物との戦闘を経験したマオだが、コボルトと対峙するのは初めてであるため、敵がどのような能力を持っているのかは知らない。しかし、絵本に記されていた内容が確かならばコボルトは足が速く、その爪と牙は鋼鉄をも切り裂くらしい。



(絵本の内容が何処まで本当なのかは分からないけど……やるしかない!!)



怯えていても仕方がないと判断したマオは小杖を取り出すと、で魔法を発動させて氷塊を作り出す。この時に闘技台の外で見守っていた教師たちは彼が無詠唱で魔法を発動させた事を驚く。



「い、今のを見ましたか!?あの子供、口元を開かずに魔法を発動させましたぞ!!」

「まさか、あの年齢で無詠唱を!?」

「むむっ……」



結界内に閉じ込められたマオは教師たちの言葉は聞こえないが、闘技台の外にいる教師たち中の様子を伺える仕組みになっていた。彼等はマオが無詠唱で魔法を発現させた事に驚き、いくら燃費が低い下級魔法といえど、マオの年齢で無詠唱で魔法を発現させる生徒はこの学園にはいない。



(その程度の事で驚いてるんじゃないよ、馬鹿共め……)



教師たちが無詠唱で魔法を発動させたマオを見て驚いてる姿にバルルは笑みを浮かべ、ここから彼等が更に驚く事になる事を彼女は確信していた。その一方でマリアの方はマオに視線を向け、彼の行動を見逃さないようにする。


マオは無詠唱で魔法を発動させた時、彼は最初から「氷刃ブレイド」の状態で魔法を生み出していた。最初から丸鋸のような形をした氷塊を作り出す事で氷塊を変形させる無駄な時間の浪費を抑え、彼は躊躇せずに攻撃を仕掛けた。



「喰らえっ!!」

「ガアッ……!?」



高速回転させた氷刃をコボルトに目掛けて放つと、コボルトは自分に迫る氷の刃を見て危機感を抱き、即座に頭を伏せて回避を行う。しかし、避けた所でマオの攻撃は止まらず、彼はミイナとの戦闘の時と同じく、氷刃を操作して追撃を行う。

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