第82話 試験当日

――そして三日後、マオは学園内に存在する特別な訓練場へ赴く。こちらの訓練場はいつもマオが使用していた学校の裏にある訓練場ではなく、本来ならばだけが使用を許可されている訓練場だった。


こちらの訓練場は最も設備が整っており、その中には魔物と相手に訓練するために作り出された「闘技台」が存在する。この闘技台は地面に石畳が敷き詰められ、更に至宝には4つの柱が建てられ、この柱には特殊な魔石が設置されている。


マオは闘技台の上に立ち、集中力を高めるために瞼を閉じていた。闘技台の周囲には学園の教師陣が集まり、その中にはバルルやカマセの姿があった。



「お、おいバルル……お前、本気であんな子供に試験を受けさせる気か!?」

「今更何を言ってんだい、あいつはただの子供じゃない。あたしのよ」

「一番弟子って……お前な、あんな子供に魔物を相手にさせるなんて正気じゃないぞ!?悪い事を言わないから試験を中止するように伝えろよ!!」

「…………」



カマセはマオの身を心配してバルルに今からでも試験を辞める様に説得するが、そんな彼の言葉を無視してバルルはマオを見つめる。見た限りではマオは落ち着いており、三日前に魔物との戦闘を経験してから彼は自分の力に自信が付いていた。



「ふふふ、随分と余裕があるではないか。これから自分の教え子が大変な目に遭うかもしれないというのい……」

「タ、タン先生!!」

「……またあんたかい」



二人の前にタンという名前の教師が現れ、彼は三年生の担当教師である。以前にバルルとマオにちょっかいを掛けてきた教師であり、実を言えばバルルが教師になる事を反対したのは彼である。


ここに集まった教師の中で一番にバルルが教師になる事を反対したのが彼であり、そもそも彼は入学したばかりのマオに月の徽章を与えた学園長の判断も納得していなかった。彼にとってはバルルもマオも気に入らず、他の教師を煽って学園長に抗議を行った結果、今回の試験が急遽行われた。



「ふん、学園長に取り入って教師になって調子に乗るなよ……この試験が終われば貴様は学園から出ていく事になる。カマセよ、今後はお主があの子供の面倒を見る事になる。しっかりと教育しておけ」

「は、はあっ……」

「調子に乗ってるのはどっちなんだい?まるでうちの弟子が最初から試験を突破できないみたいに聞こえるね」

「ふん!!その余裕、何処まで続けられるのか見ものだな……」



タンはバルルの言葉を聞いて鼻を鳴らし、そのまま立ち去るとカマセは安堵した。しかし、一方でバルルはタンの背中を睨みつけ、改めて闘技台の上に立つマオに視線を向ける。



(遠慮はいらない、ここにいる教師共の度肝を抜かせてやりな)



心の中でバルルはマオに声援を送り、彼女だけは信じていた。マオがこんな試験など楽々と突破する事を――






――闘技台の上に立つマオは他の教師の視線を浴びている事を意識し、緊張しながらも心を落ち着かせるために瞼を閉じる。そして遂に試験開始の時刻を迎えると、学園長のマリアが姿を現わす。



「時間が来たわ。マオ君、準備はいいかしら?」

「……はいっ!!」



マリアの言葉にマオは瞼を開いて返事を行うと、彼が準備を既に整えている事を知って学園長は微笑む。そして彼女は杖を取り出すと、闘技台に向けて先端を構えた。


今回の試験は魔物を相手に戦う事はマオも聞かされていたが、肝心の魔物の姿は見えない。どうやって闘技台に魔物を運び込むのかと彼は思っていたが、マリアが杖を構えた瞬間、闘技台の床の一部が光り輝く。



(これは……!?)



自分が立っている闘技台に魔法陣の紋様が浮き上がった光景を見てマオは驚くが、更に魔法陣からが誕生する。そのあまりの光の強さにマオどころか他の教師たちも目が眩みそうになるが、マリアは杖を下ろすと光の柱は消えて代わりに魔法陣の上には檻が存在した。



「これが貴方の対戦相手よ」

「こ、これは……!?」



マリアが使用したのは「転移魔法」と呼ばれる聖属性の魔法であり、この魔法は遠方から物体を呼び寄せる、または逆に遠方に転移する魔法である。今回の場合はマリアは事前に用意していた魔物を閉じ込めた檻を闘技台に転移させた。


闘技台に突如として出現した魔物を閉じ込める檻を見てマオは驚愕し、彼の視界に映し出されたのは灰色の毛皮で覆われた狼のような生き物だった。深淵の森でマオは「ファング」と呼ばれる魔物を思い出すが、今回の敵はファングと似てはいるが体型が異なる。



「なっ……先生、本気かい!?」

「ま、まさか子供にあんな魔物を!?」



檻の中に閉じ込められている魔物を見てバルルとカマセは驚愕し、この二人も他の教師も今日マオが戦う魔物に関しては何も報告を受けていなかった。しかし、タンだけは檻の中の魔物を見て笑みを浮かべ、彼はすぐに闘技台の四方の柱に立っている教師に声をかけた。

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