第81話 一斉掃射
――マオが最初に編み出した「
この次に作り出した「氷弾」は氷刃よりも氷の大きさが小さく、その分に回転を増す事で貫通力を高める事に成功した。単純な攻撃速度は氷刃よりも上回り、その反面に一度撃ち込めばマオでも攻撃の軌道を変更する事はできない。しかし、逆に言えば氷刃以上の攻撃速度を誇る事を意味していた。
(やるしかない!!)
接近してくる魔獣に対してマオが複数の氷弾を作り出して攻撃を行ったのは理由があった。それはたった一つの氷弾では魔獣を仕留める事ができても、魔獣の突進自体は止めれられない可能性がある。
最初に氷弾で攻撃を仕掛けた時にマオは魔獣を仕留められると確信した。急所を適確に狙い撃ちすれば魔獣を倒す事は不可能ではない、そう悟ったマオはどのように攻撃をするか考えた結果、一番相手が隙を生みやすい突進を行う時に反撃を仕掛ける事にした。
(あの突進、確かに凄いけど……真っ直ぐにしか突っ込んでこないから対処しやすい)
魔獣の突進の威力の恐ろしさはマオも理解しているが、彼は2度も突進を避ける事に成功している。その理由は魔獣の突進攻撃は直進しかできず、最初から十分な距離があれば避ける事も容易い。
正面から突っ込む事が分かれば反撃も難しくはなく、事前にマオは複数の氷弾を作り出す。そしてこれまでは試した事はないが、それぞれの氷弾が攻撃する箇所を意識して別々の部位に攻撃を仕掛ける。
(狙いが定めていればきっとできるはずだ!!)
これまでの練習でマオは氷塊を敵に当てる練習は何百回と繰り返しており、一度攻撃を行えば攻撃の軌道を曲げる事ができない氷弾であっても、最初から狙いが定まっていれば当てられる自信はあった。
日々、積み重ねてきた努力は決して裏切らず、マオは絶対の自信をもって5つの氷弾を魔獣に目掛けて発射させる。放たれた氷弾はそれぞれが魔獣の別々の部位に目掛けて突っ込み、マオは叫び声を上げる。
「いけぇええええっ!!」
「フガァッ――!?」
マオが放った氷弾は魔獣の「眉間」「両前脚」「牙」に的中し、頭を貫かれて両脚の骨と牙が折れる音が鳴り響き、そのまま魔獣は地面に倒れ込む。マオは後ろに下がると、魔獣の勢いは止まって彼の前に倒れ込む形になった。
「はあっ、はあっ……!?」
身体を震わせながらもマオは倒れている魔獣に視線を向け、小杖を構えながら様子を伺う。魔獣は眉間に撃ち込まれた一撃で確実に死亡しており、前脚が折れた事で突進を止める事に成功した。
槍のように尖っていた牙も氷弾を正面から受けた際に折れてしまい、それを拾い上げたマオは自分が勝利した事を確信する。そして改めて魔獣を見下ろし、握り拳を作って勝利を実感した。
「か、勝った……!!」
絞り出す様にマオは声を上げると、その場に座り込んでしまう。強敵を倒した事で緊張感がほぐれてしまい、しばらくは身体を休める事にした――
――誰の力も借りず、自分の力だけで魔獣を倒したマオの様子を少し離れた場所で確認する影があった。それは先に森を出たはずのバルルとミイナであり、実を言えばこの二人は今まで隠れてずっとマオの様子を伺っていた。
「あ、あの馬鹿……まさか、たった一人でボアを仕留めるなんて、なんて奴だい!!」
「……凄い」
バルルとミイナは「ボア」という名前の魔獣を倒したマオに驚愕し、彼女達は彼が一人で行動していた時から尾行をしていた。実を言えばバルルはマオに単独行動するように言いつけたが、実は先に帰ったのは護衛として雇ったトムとヤンだけである。
トムとヤンは先に帰るようにバルルは促し、彼等には来た道とは違う道順で森の出口を向かうように指示を出す。二人はこの森に何度か足を踏み入れた事があるので森へ抜け出す道は知っており、目印を残して先に脱出しているはずだった。
そしてバルルとミイナがどうして隠れてマオの様子を伺っていたのかと言うと、今回の試練はバルルもマオの度胸を試すために課した試験であり、本当に彼を見捨てたわけではない。もしもマオが危ない目に遭いそうになれば助けるつもりだった。しかし、二人が動かずともマオはオークやファングよりも恐ろしい魔獣を一人で倒してしまった。
「たくっ……とんでもないガキを預かったね。もしかしたらあいつなら本当にお坊ちゃまと肩を並べられるかもしれないね」
「……お坊ちゃま?」
「おっと、なんでもないよ。あんたは気にしなくていい事さ……さてと、そろそろ迎えに行こうか」
「姿を見せていいの?」
「もう試練の必要なんてないからね……」
ボアを単独で倒したマオを見てバルルはこれ以上の試練は不要だと判断し、緊張感が抜けて座り込んでいるマオの元へ向かう。ミイナも彼女の後に続き、二人はマオと合流してその後に森を出た――
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