第42話 魔力操作の技術

――バルルが立ち去った後、マオは何度か吸魔石に触れて調べてみたが彼女のように常に触った状態で水晶玉を無色にする事ができなかった。



「くっ……また失敗か」



指先で軽く触れただけでも吸魔石は反応してしまい、マオの魔力を吸い上げて青色に染まる。彼が手を離すとすぐに元の状態へ戻るが、何度も魔力を吸い上げられたせいでマオは頭痛に苛まれる。


魔力を失いすぎると頭痛に襲われ、更に魔力を失うと意識を保つ事もできず、そこからさらに魔力を消耗すれば死んでしまう危険性もあった。魔力を回復させるには身体を休ませる必要があり、頭痛に襲われた時はマオは休憩を挟んで魔力を回復させる。



(流石にきつくなってきたな……けど、だんだんと分かってきた気がする)



幾度も吸魔石に触れた事でマオは今回の授業の本質を理解し、既に彼はバルルが吸魔石に触れた状態にも関わらずに吸魔石が変色しなかった理由を悟っていた。



(バルルさんは吸魔石に触れた状態で、吸収されそうになった魔力を体内に)



バルルが吸魔石を触れた時に赤色に変色したのは彼女の魔力を吸い上げたからである。しかし、その後にバルルが触れた状態でも吸魔石の色が元に戻った理由、それは彼女が吸い込まれる魔力を体内に留め、吸収を拒んだからに過ぎない。


今回の授業の本質は自分のであり、魔力を吸収する吸魔石から自分の魔力を奪われないように留める事ができればマオは魔力を操作する術を身に着けられる。



(ちょっとずつだけど感覚が掴めてきたような気がする……もう一度やろう!!)



何度も諦めずにマオは吸魔石に触れ、奪われそうになる自分の魔力を感じ取ってどうにか留めようとした。最初の内は苦労したが、何度も繰り返す事に少しずつ感覚を掴めてきたような気がした。


既に授業が開始されてから何時間も経過しており、いつの間にか時刻は夕方を迎えようとしていた。マオは昼食も夕食も抜きで訓練を続けた。



(あと少し、あと少しでできそうな気がする……!!)



最初の内は吸魔石に触れ続けるのも辛かったが、何度も繰り返す内にマオは吸魔石に触れられる時間が伸びていく。これはマオが吸収される魔力を少しずつではあるが奪われないように抵抗できるようになったからであり、朝の時は一瞬触れただけでも気分は悪くなったが、夕方を迎える頃にはマオは吸魔石に10秒以上も触れ続けられるようになった。



「ううっ……はあっ!?」



しかし、吸魔石に触れられる時間は長引く事はできたが、どうしてもバルルのように完全に魔力を吸収するのを防ぐ事はできなかった。途中で途中で何度か挟む事で訓練を続けてきたマオだったが、遂には限界が訪れてしまう。



(さ、流石にもう無理だ……身体が動かない)



結局はマオは魔力を殆ど使い切ってしまい、教室の床に倒れ込む。この時にマオは意識が薄れ始め、このままでは気絶してしまうと思われた時、教室の扉が開いてバルルが中に入ってきた。



「おっ……丁度良かったね、どうやら随分頑張ったようだね」

「はあっ、はあっ……バルル、さん?」

「ほら、起きな。良い物を持って来たよ」



バルルが戻ってきた事に気付いたマオは起き上がろうとすると、彼女はマオの身体を抱き上げて椅子に座らせる。そして彼の机の上に青色の液体が入った瓶を置く。



「こ、これは……?」

「いいから飲んでみな、楽になれるよ」

「は、はい……」



意識が朦朧としているマオは疑いもせずに瓶を手にすると、蓋を開いて口の中に流し込む。マオは飲み物か何かかと思っていたが、口の中に入った途端に違和感を覚える。



(な、何だこれ……ぬるっとしてる?)



液体というよりはゼリー状のような感触が口の中に広がり、どうにかマオは瓶の中身を飲み込むと、急に薄れかけていた意識がはっきりして身体が楽になった。



「あ、あれ!?」

「どうだい?凄い効き目だろう、この魔力回復薬マナポーションは」

魔力マナ回復薬ポーション?」

「その様子だと飲んだのは初めて見たいだね」



バルルが持って来た青色の液体の瓶は「魔力回復薬」と呼ばれる薬らしく、彼女は詳しい説明を行う。魔力回復薬とは文字通りに魔力の回復を促す薬であり、この薬を飲むと魔力を回復させる肉体の機能が一時的に強化され、短時間で魔力が回復する。


魔力回復薬は魔術師の間でも人気が高い代物だが、作り出すためには特殊な素材を用意しなければならず、調合する手順も複雑のため薬学に精通した人間でければ作り出す事はできない。そのために価値も高く、高値で取引されている。



「そいつは学園長に頼んで給料の前払いをして買ってきた奴さ。お陰で今月の給料はすっからかんだよ」

「えっ!?そんな大切な物をなんで……」

「まあ、別にいいさ。あたしが教師になったのは金もうけが目的じゃないからね……といっても、何本も魔力回復薬を飲まれると困るからね。あたしが破産しないように頑張って魔力操作の技術を身に着けるんだよ」

「魔力操作……」

「あんたも気づいているんだろう?今回の授業は自分の魔力を操作するために必要な事なのさ」



マオの予想通りにバルルが課した授業は自分の魔力を完璧に操作するために必要な技術だと告げた。

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