第41話 吸魔石

――マリアと交渉して教師になったバルルはマオを連れ、他の生徒が使用していない空き教室に入る。昔と比べて魔法学園の生徒の数が減ったために校舎内には空き教室が幾つか存在し、その内の一つをバルルは自分達専用の教室にした。



「この教室なら問題ないね。他の教室から離れているし、あたし達しかいないから魔法の練習も思う存分できるよ」

「あの……他の生徒はいないんですか?」

「いないよ。今のところはあたしが担当するのはあんたと……あと一人だけさ」



マオはバルルが自分の担当教師になった事に驚いたが、彼女が請け負う生徒はマオとあと一人べつにいるらしく、彼女は面倒そうな表情を浮かべる。



「この教室を借りる条件として素行の悪い生徒の面倒を見るように頼まれてね……だからあたしはそいつを迎えに行かないといけない」

「え?じゃあ、授業はどうするんですか?」

「今日の授業はあたしが居なくても一人でできるから問題ないよ。ほら、これを使うんだ」



本日の授業はマオが一人でも問題なく行えるようにマオは特別な魔道具を持ってきていた。彼女が取り出したのは無色の水晶玉であり、マオが座っている机の上に置く。水晶玉を見てマオは不思議に思い、一見はただの水晶玉にしか見えない。



「これは何ですか?」

「吸魔石と呼ばれる特別な魔石さ。普通の魔石は魔法の力を高める効果があるんだけど……こいつの場合はちょっと特殊でね、指先で軽く触れてみな」

「はあっ……」



机の上に置かれた水晶玉にマオは恐る恐る指先を触れると、途端に奇妙な感覚を覚える。まるで魔法を使用した時のように魔力が吸い込まれる感覚に襲われ、反射的にマオは指先を離してしまう。



「うわっ!?」

「あははっ、驚いただろう?こいつは触れた人間の魔力を吸い込む魔石なのさ」

「び、びっくりした……」



マオが触れた指先を覗き込み、水晶玉に再度視線を向けると指が触れた部分が僅かに青く染まっている事に気付く。どうやら水晶玉がマオの魔力を吸い上げて変色したらしいが、すぐに元に無色に戻ってしまう。


この時にマオは水晶玉に見覚えがある事に気付き、適性の儀式の時に陽光教会で触れた水晶玉と似ている事に気付く。教会で触れた水晶玉もマオの魔力に反応して色が変化した事を思い出し、もしかしたら同じ類の魔道具かもしれない。



「こいつは倉庫でほったらかしになっていた物さ。昔はよく、こいつを加工して作り出した腕輪を嵌めて授業させられてたね……たく、嫌な事を思い出しちまった」

「ど、どうしてこんな物を持って来たんですか?」

「そりゃあんた、こいつに触れて魔力を操作する技術を磨くためさ。いいかい、よくみておきな」



バルルは吸魔石と呼ばれる水晶玉に自分の掌を伸ばすと、彼女が触れた途端に水晶玉は赤色に変色した。これは先ほどのマオと同じようにバルルが魔力を吸われている事を表し、色がマオと異なるのは彼女が得意とする属性が「火属性」である事が原因だと話す。



「この吸魔石は触れる人間の魔力を吸い込む事で色を変えるんだよ。風属性の場合は緑、火属性は赤、水属性なら水色……あたしの場合は火属性に適性があるから赤色だね」

「な、なるほど……でも、そんなに触れて大丈夫なんですか?」

「大丈夫なわけないだろ、このまま魔力を吸われ続けたら干からびて死んじまう。だから……こうするのさ」

「えっ!?」



水晶玉に触れた状態でバルルは目を閉じると、彼女の魔力を吸い上げて変色していた水晶玉が無色へと変化する。彼女は掌を水晶玉に触れたままにも関わらず、色合いが元に戻った事にマオは驚く。



「色が戻った!?」

「ふうっ……久しぶりにやるときついね」



触れたままの状態で水晶玉を無色に変化させたバルルは掌を離すと、マオは改めて水晶玉を覗き込む。先ほどまでは赤々と光っていた水晶玉だったが、今現在は元の状態に戻っていた。


マオの場合は水晶玉を離した事で水晶玉は元に戻った。しかし、バルルの場合はずっと触れた状態にも関わらずに水晶玉は途中で無色に戻った。



「い、いったいどうやったんですか?」

「……それは自分で考えな。あたしは他のお優しい先生と違って厳しいからね、何でもかんでも教えるつもりはないよ」

「えっ……」

「それに言っただろう、あたしはこれから問題児を探し出して連れて来なきゃならないんだよ。あんたの面倒を見ている暇はないんだ、こっちも解雇くびにされるわけにはいかないからね……たまに顔を出すから真面目にやるんだよ」

「あ、ちょっと!?」



一方的にバルルは告げると、彼女はマオを置いて本当に教室を出て行ってしまう。いきなり一人取り残されたマオは困惑するが、彼女が置いて行った「吸魔石」に視線を向けた。



(いったいどうやったんだろう……)



マオは吸魔石に試しにもう一度触れると、またもや魔力を奪われる感覚に襲われて手を離す。水晶玉はマオの魔力を吸い上げて一瞬だけ青く染まるが、すぐに元の無色へと戻る。

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