第35話 魔法の精度

(人形の数は5つ、そして魔法を使える回数は5回か……人形全部に当てる事ができれば合格かな)



他の生徒から笑われながらもマオは人形に注目し、杖の先端に作り出した氷の欠片を確認する。距離は10メートルは離れているが、それでも今のマオならば当てる事は容易い。


人形の数と位置を把握したマオは杖に視線を向け、新しい氷の欠片を生み出す。これまでの練習でマオは複数の氷の欠片を生み出す事もできるようになっていた。



「アイス、アイス、アイス……アイス!!」

『えっ!?』



マオが連続で呪文を唱えると杖の先端に氷の欠片が5つ誕生し、それを見ていた生徒達は驚きの声を上げる。マカセもマオが同時に5つの魔法を発動した事に驚き、これにはリンダとバルルも驚く。



「5つの魔法を同時に発動させるなんて……」

「や、やるじゃないかい」

「……そうね」



魔法の消耗力が少なく、比較的に扱いやすい下級魔法とはいえ、複数の魔法を同時に維持するのはかなり集中力を必要とする。しかし、マオは汗を流さずに5つの氷の欠片を操り、狙いを定めた。



(動かない的を狙うだけなら簡単だな……)



小杖を構えたマオは5つの人形に目掛けて同時に氷の欠片を放つ。杖を突き出した瞬間に放たれた氷の欠片はの頭部に目掛けて突っ込み、見事に的中した。



「よし、当たった!!先生、当てまし……あれ?」

『…………』



マオは全ての人形の頭部に氷の欠片を当てる事に成功すると、マカセに振り返って当てた事を報告しようとした。しかし、何故か他の生徒は黙り込み、マカセも唖然としていた。


周りの人間の反応を見て自分が何か失敗したのかと思ったが、実際の所は逆だった。マカセは最初に魔法を使える回数は5回と明言したが、彼が伝えようとした授業内容は5体の人形の内の1体を狙い、それに魔法を当てるというだけで5つの人形を狙って攻撃しろと言ったつもりはない。


彼が請け負う生徒の中で人形に魔法を当てた者は何人かいるが、同時に複数の魔法を発動させ、更に全く同時に5つの人形に魔法を当てた者はいない。そもそも魔法を複数同時に発動させる技術は一年生には教えてはいない。



(な、何なんだこの少年は!?魔法を同時に発動させて、しかも全ての人形に当てただと!?)



魔法学園の教師のマカセでもマオの年齢の時に5つの魔法を同時に発動させた事はなく、そもそも試そうと考えた事すらない。彼が同時に魔法を発動できるようになったのは15才の時であり、本来ならば魔法学園のが身に着ける技術を既にマオは習得していた。


いくら彼が扱った下級魔法が魔力消費が少ないと言っても、全く同時にしかも別々の標的に当てるなど並の魔術師では真似できない。



「あの……どうかしました?」

「え、いや……そ、そうだな。中々やるじゃないか、他の皆も彼を見習うように!!」

「そ、そんな……」

「今、同時に当てたの?」

「そんな事できるわけないじゃん……」

「ちょっと格好いいかも……」



先ほどまではマオの魔法を馬鹿にしていた生徒達も、彼が5つの人形を魔法で同時に当てた光景を見て混乱していた。そんな生徒達の様子を見てバルルは内心笑みを浮かべ、一方でマリアは考え込むように腕を組む。



(この年齢で複数の魔法を同時に操れるのは見事だけど、威力の方は残念ながらお粗末ね)



人形に魔法を当てる事に成功したが、氷の欠片は人形に当たった途端に粉々に砕け散った。仮にこの場にいる生徒が魔法を当てる事ができれば人形は破壊されていただろう。


それでもマオの魔法は威力は低い点を除けば精度は高く、複数の魔法を同時に発動して別々の標的に当てた時はマリアも感心した。だが、彼女は既にマオの「魔力量」が低い事を見抜く。



(この子は魔力のが小さいのね。だから魔法を発動してもあの程度の大きさの氷の欠片しか生み出せない……魔術師として致命的な弱点を抱えている)



魔法学園に通う生徒の中にも魔力量が少ない人間はいるが、それらの人間と比べてもマオは極端に魔力が低い。もしもこの場にいる生徒がアイスの下級魔法を使えたら彼よりも数倍の大きさの氷を作り出せるはずだった。


魔力を水で例える場合、人間は水を収める器である。そして魔術師は自分の器に収まっている水を利用して魔法を生み出す能力を持つ。マオの場合は残念ながら器が小さすぎた。



(この子が魔術師として生きていくのは厳しいわね)



率直に言ってマオが魔術師として大成するのは難しく、彼の魔力量では下級魔法以外の魔法は魔力消費が大きすぎて扱えない危険性もある。無理に魔法を使用すれば魔力を使い切って下手をしたら死亡してしまう恐れもある。


しかし、マオの下級魔法の精度を見てマリアは正直に勿体ないと思った。彼の話によればマオが魔法を覚えたのは数日前で有り、たった数日の間にマオは並の魔術師でも真似できない程の下級魔法の使い方を習得した。



(器を大きくする事ができればこの子は……)



魔力量が少ないという弱点がなければマオは魔術師として既に高い技術を持ち合わせており、このまま彼を普通に入学させて他の生徒と共に魔法を学ばせるだけではマリアはと思った。

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