第36話 魔法学園の規則
――マオの下級魔法を見届けたマリアは学園長室に戻り、入学手続きに必要な資料をマオに渡す。彼が名前を署名したのを確認すると、魔法学園の生徒だと証明する徽章を渡す。
「これが魔法学園の生徒を証明する徽章よ。失くさないように気を付けなさい」
「ありがとうございます。これは……数字の1ですか?」
「そう、その数字が学年を表しているのよ」
マリアに渡された徽章は六芒星の形をしており、中心には数字の「1」と刻まれた。この数字が学年を表しているらしく、今年入学のマオは1年生の徽章を渡される。
魔法学園の生徒は徽章を常備する事が義務付けられ、この徽章を失くしてしまった場合は罰則を与えられる。罰則を終えれば新しい徽章を渡して貰えるが、罰則を受ける前に星の徽章を持っていた場合は数に関係なく没収されてしまう。
「この学園では1年生は1年以内に星の徽章を1つ手に入らないと上の学年には上がらないから気を付けてなさい。2年生になったら2つ、3年生の時は3つ……学年が上がるごとに必要な星の徽章の数が増えていくわ」
「徽章で評価ね、まだ続けてたのかい」
「これは魔法学園に伝わる伝統よ」
上の学年に上がるためには年内に必要数の徽章を獲得しなければならず、これらの徽章は次の学年に繰り上がるまでは自分で管理しなければならない。
また、学年が上がると前年度に受け取った徽章は返還しなければならず、新しい学年に上がった場合は再び徽章を集めなければならない。
「ちなみに徽章がなければ入れない教室や訓練場もあるから気を付けた方がいいですよ。徽章は授業で高い評価を残すか、あるいは先生方に頼まれた仕事を手伝うか、課題で最高の評価を残せば受け取れます」
「なるほど……あ、さっきの授業で的を当てた生徒は徽章を貰えると言ってましたよね?」
「残念だけど徽章を貰えるのは正式に生徒と認められた者だけ、あの時の貴方はまだ入学の手順を踏んでいなかったら渡すわけにはいかないの。だけど……」
マリアは机の中から「星」ではなく「月」の形をした徽章を取り出す。それを見たバルルとリンダは驚き、一方でマオは不思議に思う。
「城下町を騒がす通り魔を退治した件を評価して、特別に貴方にはこの月の徽章を授けるわ」
「月の……徽章?」
「ちょ、ちょっと待ちな!!その徽章を受け取れるのは……」
「マリア様!!」
月の形をした徽章をマリアはマオに手渡すと、それを見たバルルとリンダは慌てふためく。しかし、そんな二人をマリアは手で制してマオに注意する。
「その月の徽章は星の徽章よりも特別な物なの。だから無暗に人前で見せたり、持っている事を他の人に話さないようにした方がいいわよ」
「ど、どうしてですか?」
「この月の徽章を受け取った生徒はに学園長……つまり、私に教えを受ける事を許可された生徒にしか与えられない代物なの」
「えっ!?学園長が魔法を教えてくれるんですか?」
「ええ、といっても私の時間がある時だけど……」
魔法学園の学園長であるマリアから直々に授業を受けられる権利は月の徽章を持つ者しか与えられず、言ってみればこの王都で一番の魔術師の教えを受けられる事を意味する。それは学園の生徒にとって何よりも羨ましい権利だった。
この月の徽章を持つ生徒は滅多におらず、マオは通り魔事件を解決したという事で特別に月の徽章を渡された。星の徽章よりも価値がある代物を入学初日から受け取ったマオは戸惑い、失くさないように大事に握りしめる。
「ありがとうございます!!大切にします!!」
「その心意気は買うけど、言っておくけど月の徽章を失くした場合は再発行もしないし、罰則無しの退学になるから気を付けなさい」
「えっ……ええっ!?」
さらりととんでもない事を告げたマリアにマオは驚愕するが、それだけ月の徽章は価値のある代物らしく、慌ててマオは絶対に失くさないように心がける。
「さてと……貴方が入るクラスに関してだけど、この学園では生徒数の問題で1学年に1つのクラスしかないの。だからさっきのマカセ先生があなたのクラスの担当教師になるのだけど……」
「マカセには気を付けな。あいつは頭でっかちだからね、自分の指示に従わない奴は容赦しないからね」
「そ、そうなんですか?」
「マカセ先生は良い方ですよ。生徒を見捨てるような方ではありません」
バルルの言葉にマオは不安を抱くが、リンダは訂正する。バルルが知っているマカセは学生時代の頃の彼であるため、長い時を経て性格が変わっていておかしくはない。
「魔法学園の生徒は寮に住む決まりだから荷物を纏めて学生寮に移りなさい。リンダ、学生寮の案内と荷物運びを手伝ってあげなさい」
「分かりました」
「ありがとうございます……じゃあ、宿に戻ります」
「あたしは残らせてもらうよ。話があるからね」
今日の所はマオは授業には参加せず、一旦宿に戻って荷物を纏める事にした。今日のうちに学生寮に移り住む準備を行わなければならず、マオはリンダと共に学園長室を去る。
部屋の中にバルルとマリアだけが残ると、バルルは真剣な表情を浮かべてマリアと向き合う。マリアはバルルが急に訪れた用件を尋ねた。
「それで……私に何か用があるのかしら?」
「ああ、大事な用さ……マオの事さ」
「あの子がどうかしたの?」
「……ある方からあたしはマオの様子を見るように頼まれている。だから、あいつが目の届かない場所に行かれると困るんでね」
「ある方ね……それは何処の国の王族かしら?」
「……口に気を付けな」
マリアの言葉にバルルは目つきを鋭くさせ、その一方でマリアは余裕の態度を貫く。バルルがマオに同行した理由はマリアと交渉を行うためであり、彼女が仕える人物のためにバルルはある提案を行う――
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