第4話 蹂躙

「怯えるな!!これだけの数がいればオーク1匹ぐらいなんとかなる!!」

「だ、だけど俺達の武器は……」

「弱音を吐くな!!行くぞ、俺に続け!!」



傭兵の頭の言葉に仲間の一人が何か口にしようとしたが、頭は聞く耳持たずにオークに突っ込む。彼は手にしているのは鋼鉄製の長剣ロングソードであり、頭は勢い果敢にオークに刃を振り下ろす。



「うおおおっ!!」

「プギィッ!?」



オークは自分に迫る傭兵の頭に対して驚いた表情を浮かべるが、自分に目掛けて振り落とされた刃に対して避けもせずに腕で受け止める。その結果、オークの腕に刃が叩き付けられるが、攻撃を仕掛けた傭兵の頭の方が腕が痺れてしまう。



「プギィッ!!」

「うわぁっ!?」

「か、頭!?」



頭が手にしていた剣はオークの腕に叩き付けた際に弾き返され、鋼鉄製の刃が刃毀れを起していた。その一方でオークの方は毛皮が少し切れた程度で出血すらしておらず、掠り傷程度の損傷しか与えられていない。



「やっぱり駄目だ!!魔物を倒すにはじゃないと無理なんだ!!」

「ひ、火だ!!火で追い払えっ!!」

「馬鹿、その前に頭を助け……ひいいっ!?」

「う、うわぁあああっ!?」

「プギィイイイッ!!」



オークは自分に向かってきた傭兵の頭を掴みかかると、片腕で頭を持ち上げる。傭兵の中でも一番の大柄で体重も重いはずの頭をオークは軽々と持ち上げ、力ずくで投げ飛ばす。


投げ飛ばされた傭兵の頭は数メートルほど離れていた場所に生えていた樹木に叩き付けられ、衝突の際に樹木がへし折れて傭兵の頭と共に地面に倒れ込む。



「がはぁっ……!?」

「か、頭ぁっ!?」

「う、うわぁあああっ!?」

「逃げろぉっ!!」



傭兵団をまとめていた頭が倒された事で他の者たちは混乱パニックを引き起こし、全員が馬車を守る事を辞めて逃げ出してしまう。その様子を見ていたマオは身体を震わせ、自分も逃げようとしたが恐怖のあまりに身体が震えるだけで動こうとしない。



(に、逃げなきゃ……殺される!!)



頭では理解していても身体が言う事を聞かず、オークは逃げ惑う傭兵達を次々と襲い掛かる。外見に見合わずに素早い動きでオークは逃走する傭兵を次々と捕まえ、恐るべき腕力で彼等を一方的に叩き付ける。



「プギャアアアッ!!」

「うぎゃあああっ!?」

「た、助け……ぐああっ!?」

「頼む、誰か!!助けてくれぇっ!!」

「っ……!?」



次々と殺されていく傭兵達の悲鳴を耳にしてマオは震える事しかできず、ここまでの道中で親しくなった人たちが次々と殺されていく。しかも殺されているのは傭兵だけではなく、馬車に隠れていた商人や従業員の声も聞こえてきた。



「も、もう駄目です!!逃げましょう、ここに居たら殺されますよ!?」

「馬鹿を言うな!!この馬車の積荷を王都に送り届けなければ儂の商会は終わりだぞ!?」

「そんな事を言っている場合ですか!!ほら、行きますよ!!」

「くっ……仕方ない、馬を出せ!!」

「……えっ?」



マオの隠れている馬車にどうやら商人が乗っていたらしく、傭兵達が襲われている間に傭兵は馬を出してしまう。慌ててマオは身体を伏せると彼が隠れていた馬車が走り出してしまい、そのまま逃げ去ってしまう。


今まで隠れていた馬車がいなくなった事でマオは姿を晒してしまい、そして運の悪い事にオークは傭兵の最後の一人を殺してしまう。傭兵を皆殺しにしたオークが次に標的として定めたのは、当然ながら姿を現したマオになるのは必然だった。



「プギィイイイッ!!」

「う、うわぁあああっ!?」



自分の存在に気付いたオークに対してマオは無意識に身体を動かし、恐怖よりも生存本能が勝った。彼は真っ先に森の中に逃げ込み、木々を上手く利用してオークから離れる。


マオにとって幸運だったのはオークの背丈が2メートルを超え、体格も肥え太っている。そのお陰で木々を潜り抜けながらの移動は不得手としており、一方で身体が小さくてすばしっこい子供のマオは木々を巧みに潜り抜けて逃げ出す。



「プギィイイッ……!?」

「はあっ、はあっ、はあっ……!!」



必死に森の中をマオは駆け抜け、オークの声がどんどんと小さくなっていく。運が良い事にマオの住んでいた村の近くにも森が存在し、小さい頃は他の子供達とよくマオは森の中で遊んでいた事から森の中を移動する事は慣れていた。



(走れ、走れ、走れ!!足を止めるな!!)



自分自身を叱咤しながらマオは走り続け、遂にオークを振り切る事に成功する。彼はオークの姿が見えなくなると、自分が隠れられる程の大きさの樹木に背中を預けて息を整えた。



「に、逃げ切った……?」



オークの声が聞こえなくなった事でマオは安堵するが、すぐに彼は周囲の光景を見て顔色を変える。ここまで逃げるのに夢中で考えも無しに走り続けた結果、彼は森の中で迷子になってしまう。


周囲を警戒しながらもマオは緊張した様子で自分が走ってきた方向を確認し、一先ずは覚えている限りの道順を引き返す事にした。馬車に戻った所で誰も居なくなっているかもしれないが、それでもこんな森の中で子供が一人で迷子になって生き残れるはずがない。

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