王都へ向けて

第3話 魔物

――マオは両親と別れて王都へ向かう商団の馬車に乗せてもらい、王都へ目指す事になった。王都へ辿り着くまでの間はマオは商団の仕事も手伝い、働いている人間達から色々と教えてもらう。



「王都はどういう場所なんですか?」

「そうだな、とにかくとんでもなく人が多い場所だ。俺も最初に来た時は祭りでもあっているのかと勘違いしたぐらいに人がにぎわってるんだ」

「王様の住む都なだけはあって他の街や村と比べてもデカい建物が多いぞ」

「お城も凄く立派で初めて見る時は本当に驚くぞ」



旅の道中でマオは商人の護衛の傭兵達から色々と話を聞き、彼等によると王都はこれまでマオが訪れた街や村とは比べ物にならない程に凄い場所だと語る。


ここまでの旅路でマオも色々な街や村を訪れたが、それらを上回る程の凄い場所だと聞かされて緊張感を抱く。その一方でマオは期待感も抱き、そんな凄い場所にこれから自分は魔法学園の生徒として暮らせる事に嬉しくも思う。



(王都に魔法学園か……いったい、どんな場所だろう)



旅に出たばかりの頃はマオも不安はあったが、商団の人間や護衛の傭兵達は優しい人ばかりであり、子供のマオを気遣って色々と教えてくれる。彼等の話を聞かされる度にマオは期待感が強まり、早く王都に到着する事を祈る――






――しかし、商団が王都に到着するまであと一週間という所、彼等は森の中を移動していた。この時の商団は何故か視界が明るい時間帯ではなく、夜間の間に馬車を動かす。


どうして視界が悪い時間帯に馬車を動かすのかとマオは疑問を抱くが、移動の際中は出来る限り音を立てないように全員が注意する。今夜のうちに森を通り抜けなければならないらしく、御者は緊張した面持ちで周囲の様子を伺う。



(……なんでこんな夜中に移動するんだろう?)



馬車の中でマオは毛布にくるまりながら不思議に思い、大人達が夜の間に森を抜けようとしている事に彼は疑問を抱く。いつもならば優しい傭兵達も森に入った途端に緊張感を抱き、とてもではないが話しかけられる雰囲気ではない。



「おい、様子はどうだ?」

「今の所は順調だ……このまま通り過ぎられればいいんだがな」

「馬鹿野郎、甘い事を言ってんじゃねえ。警戒だけは忘れるな」



傭兵達の会話が聞こえたマオは疑問を抱き、どうも彼等は警戒している様子だった。しかし、その何かはマオには分からず、彼等が何を怯えているのか理解できなかった。



(何をそんなに怖がっているんだろう……?)



マオは毛布にくるまった状態でも外の様子が気になって眠りに付ける事ができず、大人達の会話を盗み聞きしながら身体を休ませる。しかし、唐突に馬車が停止して御者が悲鳴を上げる。



「ひぃいいいっ!?で、出たぁっ!?」

「ちぃっ!?」

「馬鹿野郎、大声を上げるな!!」

「もう遅い!!行くぞ、お前等!!」

「えっ……!?」



御者の悲鳴を耳にした傭兵達は即座に外へ飛び出し、慌ててマオも何が起きたのかを確認するために馬車の窓から外の様子を確認した。




――プギィイイイイッ!!




一番前を走っていた馬車の前方から豚や猪のような鳴き声が響き渡り、その声を耳にしたマオは身体が無意識に震える。いったい何が起きているのか分からず、マオがいる馬車からでは詳しい様子は分からない。


しかし、傭兵達は先頭の馬車の前に移動している事は間違いなく、どうしても鳴き声が気になったマオは外に飛び出す。そして彼は他の者に気付かれないように先頭の馬車の下に潜り込むと、鳴き声が聞こえた場所を確認する。



「プギィイッ……!!」

「ひいいっ!?た、助けて……ぎゃああっ!?」

「や、止めろ!!」

「馬鹿、近づくな!!もう手遅れだ!!」



馬車の下からマオは外の様子を伺うと、そこには異様な光景が映し出されていた。先頭の馬車を動かしていた御者の男が猪と人間が合わさったような生物に掴まっており、頭を噛み千切られる光景がマオの視界に映し出される。



(ば、化物……!?いや、違う……こいつ、確か絵本に出てくる!?)



猪の頭部に全身に毛皮を生やし、それでいながら人間のような手足と二足歩行の生物の登場にマオは唖然とする。こんな生物を直で見た事は初めてだが、その存在はマオもよく知っていた。


この生物の正体は「魔物」と呼ばれる種であり、動物や人間とも異なる生物だった。豚や猪と人間が合わさったような生き物の名前は絵本では「オーク」と記され、マオは生まれて初めて魔物という存在を目にした。



(こ、これが魔物!?まさか、本当にこんな生き物がいるなんて……!!)



マオが暮らしていた地域には魔物の類は生息しておらず、そもそもヒトノ王国では魔物は滅多に見かけない。生まれて初めて魔物を目にしたマオは恐怖のあまりに動けず、今にも失禁してしまいそうだった。しかし、商団の護衛として雇われた傭兵達は武器を構えるとオークを取り囲む。

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