第2話 隔世遺伝
――儀式を終えた後、司教はマオの両親に彼が魔法の才能がある事を告げる。その話を聞いた両親は非常に驚いたが、自分達の息子が「魔術師」に成れる素質を持って生まれた事を喜ぶ。
「ほ、本当にうちのマオは魔法を扱えるのですか!?」
「ええ、といっても今の時点では無理でしょう。魔法を扱うには魔法学園で技術をしっかりと学ばなければなりません」
「し、信じられない……まさか、マオちゃんが魔術師になったなんて!!」
「いや、まだ魔法は使えないから魔術師にはなってないよ……」
マオの両親はどちらも若く、20代後半の男女だった。2人ともこの国の成人年齢である15才を迎えた時に結婚してマオが生まれた。
父親も母親も農民の適性であったため、息子であるマオも農民として生まれてくると思われていた。この世界では職業の適性は父母が同じ職業の場合はほぼ確実に子供も同じ職業の適性を持って生まれる。しかし、極稀にマオのように「隔世遺伝」で先祖の職業を受け継いで生まれる場合もあるらしい。
「私も隔世遺伝は初めてでして……もしかしたら御二人の先祖に魔術師がいたのでは?」
「う〜ん、俺の親父も母親も農民だし、そもそもうちは先祖代々農民の家系のはずだが……」
「そういえば子供の頃に母さんが私のお祖母ちゃんは……あ、マオちゃんからすると曾祖母に当たる人ね。母さんの話によると曾祖母はエルフだとか言っていたけど、あれはもしかして冗談じゃなかったのかもしれないわ」
「何!?そうなのかい!?」
「おお、ではマオ君はエルフの血を継いでいるのですか?」
「エル……フ?」
エルフという言葉にマオは戸惑うが、司教は合点がいったように頷く。彼は事情を理解していないマオのために「エルフ」の存在を詳しく教えてくれた。
「エルフというのは人間とは異なる人種なんだ。我々と違い、自然を愛する種族で彼等の殆どは森の中で一生を過ごすと言われている。エルフは魔法を扱うのに長けた種族で生まれてくる子供は殆どが魔法を使う事ができると言われているんだ」
「私はあった事はないけど、もしも母さんの言葉が本当だったらきっとマオちゃんはエルフの血を継いでいるから魔法が扱えるのよ!!」
「そうか!!言われてみればマオはエルフみたいに綺麗な顔立ちをしているしな!!噂だとエルフは美人揃いだと聞いた事があるぞ!!」
「美人なんて言われても嬉しくないよ……」
マオは両親の言う通りに人間の少年にしては顔立ちが整っており、もっと小さい頃は女の子と見間違えられる程だった。マオの容姿と魔法が扱える力は曾祖母のエルフの影響を受けている可能性が高く、司教は話を聞いて納得する。
「エルフの血をマオ君が継いでいるのならば魔法を扱えてもおかしくはありません。しかし、まさか隔世遺伝とは……私は20年も司教を務めていますが、初めて隔世遺伝の子を見ました」
「そんなに珍しい事なんですか?」
「少なくともこの教会で隔世遺伝が発覚した子供はマオ君だけです」
「凄いわ!!マオちゃんはやっぱり天才ね!!」
「うわっ……恥ずかしいよ」
司教の言葉にマオの母親は心底嬉しそうな表情を浮かべるが、当のマオは隔世遺伝やエルフの話を聞かされても納得しきれていない。自分が魔法を使えると言われても、今まで生きてきた中で魔法を扱った事は一度もない。しかし、司教に言わせると彼が魔法を扱えないのは「魔法の使い方」を知らないからだという。
「本当に僕は魔法を使えるですか?」
「今のままだと無理ですね。ですけど、魔法学園に入学して魔法を扱う術を学べばできるはず……さて、ここからが大事な話になります」
「だ、大事な話ですか?」
「ええ、大事な事ですのでしっかりと聞いて下さい」
真面目な表情を浮かべた司教に対してマオの両親は背筋を正し、マオ自身も緊張した様子で司教の話を伺う。彼によると魔法学園に入学するには順序があるらしく、それらを事細かに説明を行う――
――マオ達が暮らす村はヒトノ王国の辺境の地に存在し、王都の魔法学園に入学するためにはマオの家族は村を引っ越すか、あるいはマオだけを王都に送る必要があった。
残念ながらマオの家庭は遠い王都まで引っ越す程の金銭的な余裕はなく、彼一人を王都に送り込むのが限界だった。幸いにも司教の知り合いに王都へ商売へ向かう商人が存在し、その人物に頼めばマオを王都まで連れて行ってくれる事が決まる。
魔法学園には寮も存在するので衣食住に困る事はなく、また魔法学園では学費を支払う必要もない。それどころか優秀な成績を残した生徒の場合は親元に援助金が送り届けられる仕組みになっていた。
もしもマオが魔法学園に入学して優秀な成績を残せば両親に仕送りする事もできる。また、魔法学園の卒業後の進路に関しても国が決めるらしく、就職先に困る事はない。
両親はマオと離れる事に不安を抱くが、彼の才能を開花させるには魔法学園に入学させるしかないと判断する。二人は最愛の息子と別れる覚悟を決め、早々に彼を王都へ送る決心をした。
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