第11話 謎の男
「あれから考えてたのよ。あの遺跡、もしかして財宝が眠ってるんじゃないかって」
「財宝?」
「よく考えてみなさいよ。あんな森の奥に、ああやって隠されてたのよ。人も寄り付かないような場所に置くものなんて1つしかないわ」
「人目に付いてほしくないもの、ですか?」
「そう!」
シュリィの目の奥に、なにかギラギラしたものを感じる。彼女の頭の中で財宝が眠っているかもしれないという可能性が出てきた瞬間に、それに囚われてしまったかのようになってしまったのだろう。
「明日、遺跡の探索に行くわよ」
「薬草は?」
「そんなの後でいいわ! 大事なのは財宝よ!」
「声が大きいですよ」
「・・・・・・聞かれてないわよね?」
周囲の様子を窺うシュリィ。他の冒険者達の声に混ざって、先程の話は聞かれていなかったようだ。胸を撫で下ろし、彼女は話を続ける。
そこからは、シュリィが遺跡を怪しむ理由とあるかも分からない財宝をあるものと決めつけて両道とヒロナをその気にさせる推論と演説をかけ合わせたようなものを延々と聞かされ続けた。日が沈んでも続いた話は夜になって彼女が眠くなってくると、「明日のためにちゃんと寝ておいて」などと一方的に打ち切られた。既視感のある話を聞くことほどつまらないこともないので、2人はシュリィよりもとうの前に眠くなっており、シュリィの話にとくに愚痴を言うこともなく、可能な限り即座に眠りについたのだった。
次の日の朝。あまり良い場所で寝ていたとは言えないため、少し体の調子が落ちている。気怠い体のまま、さっそくシュリィに連れられ、朝から遺跡の近辺までやってきた。
「えぇっと、どこだったかしら」
シュリィがあちこちを探し回るが、それらしいものは見つからない。前は確かに今いる周囲にあったはずで、ちゃんと探せば見つかるはずなのだが。
「あ、これじゃないかな」
両道が昨日と同じ遺跡の入口を見つける。急いで駆け寄るシュリィ。
「間違いないわ。これね」
「中に入るんですか?」
「当然よ! 財宝を逃す私じゃないわ」
威勢よく叫ぶシュリィだが、一向に先に進まない。
「行かないの?」
「いいわよ、先行って」
「いやいや、シュリィが行くんじゃないの?」
「もちろん行くわよ。安心しなさい。ちゃんと後ろから付いていってあげるから」
先は暗く、中は狭い。遺跡には不気味な雰囲気もある。苦手な人には苦手だと感じられる場所かもしれない。
「怖いんだったら先行くね」
「ちょっ、怖くないわよ!? 先に行っていいわよって! ヒロナも私を置いていかないで!」
両道、ヒロナ、シュリィの順で遺跡の中へと入っていく。
遺跡の中は暗く、前も先が見えないほどであるが、両道はまるで地図が頭の中にあるように軽い足取りで進んでいく。
「よくそんな速く進めますね。もしかして何か知ってたりするんですか?」
「いや、初めて来たけど、なんでだろう、直感っていうのかな。呼ばれてるような気がするんだよね」
「呼ばれてるって、変なものじゃないでしょうね!」
「さぁ?」
「さぁ? ってどういうことよ!」
遺跡の中を進んでしばらくして、広い空間へと辿り着いた。天井からわずかに光が差し込み、幻想的な秩序をそこに生み出している。その部屋は人が管理していなかったのか、いたる所に苔が生え、澄んだ空気が充満していた。
部屋の端に人の骨らしきものを見つけた。
「ひぃっ! スケルトンとかじゃないわよね!?」
スケルトン。骨の魔物だ。ただ今回は違う。両道が近付き、確認したため分かる。
「この体の持ち主の魂は感じられない。もう動くことはないよ」
「そ、そう。え、感じ? ねぇ一体何を感じないの? もしかして感じることもあるの!?」
「シュリィさんは幽霊が怖いんですか?」
「そ、そんなわけないじゃない!」
スケルトンでもないただの人骨にビビるシュリィをよそに、両道は部屋の中央に目を向けた。棺のようなもので、人が入れるほどの大きさをしている。
「なんでしょうか、これは?」
「開けてみないと分からないんじゃないかなぁ」
「変なものじゃないでしょうね」
とにかく開けてみようということで、ヒロナが棺の蓋をどけようとする。しかし、棺の蓋はびくともせず、全く動かなかった。次に両道が蓋に手をかける。するとさっきまでとは違い、簡単に開いてしまった。
「力持ちなんですね」
「え? いや、別にそんなことはなかったはずだけど・・・・・・」
「それよりも中身よ! 中身! 財宝が眠ってるんだから!」
食い気味に開けられた棺の中を覗きこむシュリィ。しかし中身がどうやら財宝でないことは、彼女の顔を見れば分かる。
「なに、これ」
「人、ですね」
「カッコいい顔してんね」
中で眠っていたのは財宝ではなく、褐色肌の逞しい体つきの男性だった。整った顔に白い髪がよく似合う。眠れる森のイケメン。衣服と少しばかりの鎧を身に纏っている。
「私の、宝は・・・・・・?」
「このイケメンじゃ駄目なの? 見方によっては財宝より収穫かもよ」
「駄目。金にならないもん」
「厳しいですね・・・・・・」
「うーん。それにしたってこのイケメンどうしよっか」
「やっぱ財宝とかじゃないと見つけたって意味ないわね」
「とりあえず、ギルドに連れて帰ってみては? 遭難者とかそういう類でなにかあったりするかもしれませんし」
そういえば、と両道は棺の中の男性の首元に手を当てる。もし生きていたら脈が分かるはずだが、この男性の体からは感じ取れなかった。
「脈がないな」
「えぇ・・・・・・。やめてよね、そういうの。見たくないんだけど」
「ど、どうするんですか? これ」
「うーん」
脈がない。つまりは死体である。多分そう扱うべきだろう。医者ではないので詳しいことなどは全く分からないが、多分そうだ。
しかしそうなると、一体この死体をどうすればいいのだろうか。持って帰ってもどうすることも出来ないし、このままここに放置しておくのもまずい気がする。
「てか、こいつが入ってたのそもそも棺じゃない! また蓋をしておけばきっと本人も浮かばれるわ」
「・・・・・・まぁ、そういうことにしておくか」
シュリィの言う通りだ。そもそもなんで棺なのか。棺なんてもともと死体が入るためのものであって、ここに来た時から分かっていたようなものである。
それで一先ずの納得をすることにした両道が棺の蓋をもとあった場所に戻そうとした時、棺の中で眠っていた男性の手が、両道の手を掴んだ。
「え?」
棺の中で眠っていた男性は上半身を起こし、両道の方を見た。
「あなたですね?」
「な、何がでしょう?」
「いえ、答えずとも分かります。ついに僕を目覚めさせてくれた!」
そう言うと、男性は棺の中から出てきて、両道の前に跪く。
「我が名は・・・・・・」
「ファヴニール」
「はい。そうです」
真っ直ぐで凛々しい、その目を持った男の名を、両道は何故だか言うことが出来た。出会うのは初めてであるはずなのに、まるで最初から知っていたかのように頭の中にファヴニールという名が思い浮かんだ。
「両道颯。それが今のあなたの名前。間違いないでしょうか?」
「あ、うん」
ファヴニールは両道の名前を知っている。もしかしたらそれ以上のことを知っているかもしれない。
光が射し込む静寂な空間の中、2人はおそらく再会をした。
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