第10話 休憩がてら
ギルドまで帰ってきた3人。集めた薬草を持って、依頼の報告をする。
「足りません」
「えっ」
「あと10倍ぐらい持ってきてほしいのですが・・・・・・」
カゴから溢れそうなぐらいあったのにも関わらず、全く足りなかったらしい。
「そんな集めてどうするのよ」
「え、えっとですね、どうしてもギルドの方で必要でして・・・・・・」
「そんなにですか?」
「は、はい」
「えぇー」
「お、お願いします!」
受付嬢は頭を何度も下げてお願いした。
さすがにそこまでお願いされると断りづらい。断っても罪悪感が残りそうだ。なので仕方なく、今日集めた分は渡して、また明日採集をしにいくことにする。
「でも今日中じゃなくてもいいのよね?」
「はい、薬草は1か月後までに集めてくれれば問題ありません」
「え、でもこの依頼書には明日までって書いてあるわよ?」
シュリィは依頼が書かれた紙を受付嬢に見せる。そこには確かに期限は明日までと書かれていた。
受付嬢はその依頼書を手に取り、じっくりと見る。そして明日までと書かれていることを見つけた受付嬢は3人に向かって頭を下げた。
「す、すいません! これ間違いです! この依頼が貼られた当初はこの日だったんですけど、受注されなかったのでそのままだったんです! 今すぐに再発行するので少し待っててもらってもいいですか!?」
慌てて受付嬢は依頼書を持って行った。受付で待たされている間、奥からは受付嬢の必死の謝罪と悲鳴、そしておそらく責任者と思われる人の怒鳴り声が聞こえてきた。
大変な仕事なんだな。そう思いつつ、再発行される依頼書を待った。
そして駆け足で戻ってきた受付嬢から渡された依頼書に書かれていた期限は、1か月後。大幅に伸びている。なんやかんやあったが、とにかく期限が伸びて一安心だ。1か月もあるなら、焦らずにゆっくりとやっていける。
「そんなにあるんだったら、今日だけでこんなに集める必要なかったね」
「確かにそうですね。これからはもっとゆっくりやっていきましょう」
「他の依頼とかとも並行してやっていいのよね?」
「はい、もちろんです! ギルドとしては期日までに量さえ集めてくれればそれでいいので、ゆっくりでも結構ですよ」
だそうだ。
受付で立ち話をしていると他の利用者の迷惑になるので、3人は休憩スペースへと移動してそっちで話を続ける。
「並行してもいいって言われたけど、今は良い依頼があんまないのよね」
依頼に行く前に掲示板を見てきたシュリィが言う。今というよりも最近、良い依頼がないらしい。そもそも依頼の数が減っているのだとか。
「魔物の数が減ったから、それだけ安全になって採取依頼とかも減ってるのよね」
「え、そうなの?」
「噂よ、噂。本当かどうかは知らないわ」
「でも昨日も魔物に出くわすことはありませんでしたし、事実なんじゃないですか?」
冒険者が魔物を狩るのは人々が危険に晒されるからである。人々の日常生活や特別な事情が魔物に侵害された場合、もしくはされる可能性のある場合に依頼が発出され、冒険者は魔物と戦う。
冒険者という職業が誕生する以前は、軍隊や自警団によって魔物は倒されていた。しかし、近年では軍隊はそうした役割を担うことがなくなり、代わりに冒険者が生まれた。
そうした経緯から、魔物の数が減少しているとするのならば、町の人々が活発に活動したために依頼が増え、そのぶん冒険者が魔物を退治していると考えることも出来る。冒険者が働きすぎたために職を失ったとすることが出来る。
しかし、ここの冒険者達がそんなに熱心に働いていたかと言われるとそうだとは答えられない。そのうえ、そもそも多くない依頼が減少している。町の人々も活発なわけではない。
「ここの冒険者の方々は外に出てる方が少ないですもんね」
ニートかよ、と言おうとしたが、それは自分達に返ってくるかもしれない言葉だ。出かけた言葉をグッと堪えた。
「そうね、そもそもこの町はやる気のない奴らが来るような場所だしね」
この町にやってくる冒険者は、冒険者になったはいいものの、あまり危険なことはしたくないという者だったり、前線で活躍していた者が身体に限界を感じて退いてきたりと色々と訳ありな冒険者だらけだ。
「じゃあ2人もそういう理由で来たの?」
「違うわよ! ここら辺は強い魔物もいないから、ここでゆっくりと確実に魔法を覚えようと思って来たのよ」
「私も似たような感じです。強い魔物もいませんし、それに私は人見知りですし・・・・・・。ゆっくりと強くなっていこうかなって」
「ふぅん」
2人にはちゃんとした理由があった。
「あんたはどうなのよ」
「俺? 俺は気づいたらここにいて、そのままヒロナに誘われて冒険者になった」
「何それ。まぁ言いたくないんだったら別にいいわよ」
「言いたくないわけじゃなくて本当に」
「はいはい」
シュリィには信じてもらえなかった。ヒロナには初めて会った時に言ったような気がするが、覚えてたりするのだろうか。あの時、実は信じてもらえてなかったりするかもしれない。それでもヒロナにとっては自分がここに来た理由なんてどうでもいいことだろうし、気にすることのほどでもない。
「それで、これからどうしましょうか」
ヒロナが言った。思い出したように両道とシュリィがヒロナを見る。話が逸れ始め、誰かが軌道を修正してくれることを3人共待っていた。最初に痺れを切らしたのはヒロナだったようだ。おかげで、このまま時間が過ぎるのを待つだけになるのは避けられた。
「そうよねぇ、でも依頼はないし」
「やることないんだったら、宿でゆっくりしてたいんだけど」
両道がだるそうに言う。薬草採取で疲れた体を休ませたかった。
そうした彼の、宿という言葉を聞いてヒロナが、あっ、と口を開けた。
「どうしたの?」
「じ、実はですね。その、宿には期限があったらしくて、最初はどれぐらいここに滞在するのかも分かりませんでしたし、数日だけ取ってたんですけど・・・・・・」
「期限切れになったのね」
「えっ、じゃあもう部屋に戻れないの?」
「もう一度予約しないと駄目みたいですね」
「でも他の冒険者に取られてるでしょうね。この町の宿ってあそこしかないし。今更行ってもどこも借りられないわよ。たぶん」
「そんなぁぁぁ!」
あそこの宿は良かった。部屋は狭いし、ベッドは硬い。食事も出ない。それでもこの町で自分達が利用できる中では1番快適だった。1つしかないのだから当然である。しかし他に宿もなく、泊まれる場所といったらギルドだけ。しかもギルドにはベッドはない。自分達以外にも冒険者はいるので夜でも静かとは限らない。そんな中で宿に泊まれなくなったのは辛いことだった。
「てか、あんた達昨日ここで寝てたじゃない。宿とってたなんて知らなかったんだけど」
「ああ、シュリィには言ってなかったからね。ここで寝てたのは、昨日は疲れてて動きたくなかっただけだし」
「そんなの自業自得じゃない」
そう言われても仕方がない。宿には泊まれなくなった。その事実だけが残る。ヒロナなんか「あはは・・・・・・」と乾いた笑いで誤魔化している。
「それよりも」
シュリィが声のトーンを変える。空気が変わった。そのことを両道とヒロナは察する。おそらく、その話だ。
「遺跡のこと?」
「そ。声を小さくしてね。他人に聞かれたら許さないんだからね」
「どうして?」
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