第9話 採集依頼

 翌朝。ギルドで夜を明かした3人。全員、机に突っ伏した状態で寝てしまっており、目が覚めても昨晩の記憶が曖昧だった。

 両道は体を起こして瞼をこする。ヒロナとシュリィがいない。周囲を見渡すと売店の方からヒロナがやってきた。


 「あ、起きたんですね、両道さん」

 「うん。ちょうど今起きたよ」


 売店で買ったであろう干し肉を両手に持ったヒロナが隣に座ってきた。軽めの朝食だろうか。ちょうど腹が減っていた両道は、ヒロナの両手にある干し肉に目がいってしまう。


 「あれ、シュリィは?」

 売店で買い物をしていたヒロナ。しかしシュリィの姿が見当たらない。まだ眠く、視界もおぼつかないせいもあるが、彼女がどこにいるのか分からなかった。


 「シュリィさんなら掲示板で良い依頼がないか見てますよ」

 「朝早くから真面目だなぁ」


 そう呟きながら両道はヒロナの持っている干し肉を見ていた。しかしヒロナは両道のそんな視線なんかには気づかずに干し肉を2つとも食べた。てっきりくれるものだと思っていたので、抱いていた期待への勘違いも含めて少し落ち込んでいると、2人のもとにギルドのカウンターから受付嬢がやってきた。


 「あ、あ、あの!」

 「ん? はい、あれ、たしか受付嬢の・・・・・・」

 「は、はい・・・・・・。どうも」


 受付嬢がペコリと小さくお辞儀をした。両道とヒロナもつられて小さくお辞儀する。受付嬢は何かを言いたそうにしているが、言い出せなさそうにもじもじとしている。気を利かせて両道から話を切り出す。


 「それで、自分たちに何か用ですか?」

 「あっ、え、えっとですね・・・・・・その、頼みたいことがあるんですけど・・・・・・」


 受付嬢が2人に出してきた1枚の紙を受け取る。内容はいたって普通の薬草の採取だ。特別な感じなどは一切しない。何故こんなものをわざわざ頼みにきたのだろうか。


 「これ、普通の依頼ですよね?」

 「そ、そうです・・・・・・」

 「何で自分たちに?」

 「け、掲示板に貼ったのですが、誰も受けようとしなくて・・・・・・。もう半年は経つんですが」

 「俺たちじゃなくても誰かにやってもらえば」

 「皆さんそう言うんです・・・・・・」

 「別に他の冒険者でもいいんじゃ」

 「他の冒険者の方々は露骨に嫌そうな顔をするんです。そんなのは地味で新米のすることだって。皆さん、冒険者のくせに変なプライドがあるんです・・・・・・」


 らしい。受付嬢の気持ちも、他の冒険者の気持ちもなんとなく分かる。冒険者を使って依頼を出来る限り消化させることが受付嬢の仕事だが、冒険者はせっかくやるならもっと華々しいものが良いと考えている。このような地味な仕事をしても、自慢することは出来ない。それに報酬も少ない。強いて言えば魔物や盗賊などを相手にしない分、安全ではある。しかしそれも保証されているわけではない。余るのも当然のことだ。そして、おおよそ断れないであろう、立場の低い新米の冒険者にこのような仕事は押し付けられる。


 「私がいない間に何してんのよ、一体」

 「あ、シュリィ」

 掲示板に依頼を見に行っていたシュリィが帰ってきた。呆れた顔でこちらを見ている。

 「うぅ、もう1人いたんだ・・・・・・。断られたらノルマが達成出来ないよぉ」


 受付嬢がボソッと小さな声でそんなことを吐く。周囲には聞こえないつもりで言ったつもりかもしれないが、割と聞こえている。


 「で、この子は何でここにいるの?」

 「あ、そうそう、この依頼をやってほしいんだってさ」

 シュリイは依頼が書かれた紙を手にして、その内容を見る。


 「別にいいけど、これぐらいの内容だったら誰だってやってくれるわよ?」

 「だから俺たちのところに回ってきたんだよ」


 この依頼は誰でも出来るからこそ放置されてきたのだ。それがシュリイにちゃんと伝わっているのかは分からない。案の定、シュリイは首を傾げている。


 「え、えっと、それで受けてくれるんでしょうか?」

 「私はいいわよ」

 「俺も」

 「私もです」


 会話を聞くだけで加わることのなかったヒロナも返事をした。

 「あ、ありがとうございます!」

 受付嬢は3人に礼を言って、持ち場のカウンターに戻っていった。

 改めて依頼が書かれた紙を見る。


 「この依頼の期限、明日までになってますね」

 「だから押し付けてきてたのか」


 依頼には期限が設けられている。いつまでにこの依頼を達成してほしいかということだ。期限は依頼者が自由に設定出来る。依頼は難易度や報酬が適正かどうかギルドによって審査され、初めて掲示板に貼られることになる。


 「まぁ、簡単だしいっか」

 「そうですね。シュリイさんが持ってきた依頼も無いようですし、今日はこれをやってしまえば問題ありませんね」


 良い感じの依頼が無かったのよ、というシュリイの言い訳を聞いて3人は、さっそく薬草集めに向かった。

 薬草と言っても普通の草花とあまり変わらない。少し効用のある植物というだけで、比較的どこにでもある。草原や森林に行けば簡単に入手も出来る。しかし、こうして依頼になるのは町の外が危険だからだ。いつ何時魔物に出くわすか分からない、その危険性から依頼が発生する。

 そんなわけで3人は町の近くの森に来ていた。


 「このカゴは何?」

 両道が背負っているのは、彼の背中と同じぐらいの大きさのカゴだ。シュリィがギルドから借りてきた物で両道に押し付けた。


 「見れば分かるでしょ。採った薬草を入れるためのカゴよ」

 「何で俺なんだよ」

 「荷物持つのは男の役目でしょ?」


 さも当然かのように言う。まぁ薬草なんて言ってもただの葉っぱなんだから、そんなに重くはならないだろうと両道は受け入れる。とくに不満は言わなかった。


 「薬草は私達で探すので両道さんは休んでてくださいね」

 「ヒロナは優しいわねー、それじゃあこの男がダメになるだけよ?」

 「ダメになんかならないからもっと優しくしていいよ」


 2人には知られていないが、両道にはどれが薬草なのか分からない。参加したところではじめから役に立つはずがなかった。

 ヒロナとシュリィが薬草を探しているなか、やることもなく暇になった両道はその場に座り込んだ。2人が採ってきた薬草がカゴの中にどんどん積まれていく。その度に両道の肩にかかる力が強くなる。


 「もうこんなに採ったの?」

 「そうなんですよ! あちこちに薬草が生えてるのでどんどん採れますよ!」

 「この調子だとすぐ終わりそうね」


 その言葉通り、薬草集めは難なく終わった。両道がカゴを持って立とうとする。思ってた以上に重い。

 「魔物が出ないうちに終わっちゃいましたね」

 「それが一番よ」


 魔物が出なかったと聞いて両道は、魔物だけでなく鳥などの動物すら見なかったことを不思議に思った。1匹ぐらいいても何も不思議じゃないが、さすがに1匹も見ないとなると、どこか怪しさを感じる。

 町へ帰ろうとした時、両道が何かの気配を感じた。その気配がする方へ行く。


 「どうしたの?」

 シュリィが聞く。両道はその答えを出すかのように、周囲の草木で隠されていた洞窟を見つけた。


 「これ、なんだろ」

 「遺跡、ですかね?」

 「遺跡? なんでこんなところにあんのよ」

 「それは分かりませんが・・・・・・」

 「どうする? 中に入ってみる?」


 この遺跡のようなものの奥に、何があるのかは分からない。危険なものかもしれないし、なんてことのないものかもしれない。


 「今日のところは一先ず帰りませんか? 暗いですし、来るなら明日にした方がいいと思いますよ」

 「そうね。そっちの方がいいわ。依頼の報告もあるしね」

 「うん。じゃあ、また明日来よう!」

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