第12話 再会
「そちらのお2人は・・・・・・」
「ヒロナとシュリィだよ」
「今は、そういう名なのですね」
「ずっとこの名前よ」
ファヴニールが2人のことを把握する。ヒロナとシュリィのことも、彼は予め知っていたかのようだ。
「背、高いね」
「ヒロナほどじゃないわね」
「それで、ファヴニールはどうしてここにいたの?」
「それはもちろん、そういう約束をしていたからです。来たるべき時が来るまで、ここで眠りにつけと!」
「約束間違えてるわよ。それ」
「えぇっ!? そうなんですか!?」
「私達に言われても・・・・・・」
戸惑うファヴニール。彼のした約束が具体的にどういったもので、それが本当に正しいのかどうかについては3人は知る由もない。確かめる術すらないのである。
「とりあえず、ギルドに行けばなんとかなるかな」
「他に思い浮かびませんしね」
そういうわけで、ファヴニールはギルドまで3人が連れて帰ることになった。連れていったところでどうにかなるとは思えないが、3人がそこを拠点としていて、彼のために何かを用意出来るほどのお金があるわけでもない以上はファヴニールもそこに連れていくしかない。
「ちょっと待って! 財宝は!?」
「そういえばそれが目的だったんだっけ」
「そうよ。ここまで来て手ぶらで帰るなんて嫌よ!」
「でも、どこにも見当たりませんし・・・・・・」
この部屋にあったものは、ファヴニールが入っていた棺のみで、他に何かあるわけではなかった。ただシュリィが思い描いていたものは金銀などの財宝だったので、理想との落差も相まって納得いかないのだろう。
「財宝、ですか? それならこの下に埋まってますよ」
ファヴニールがそう言った。
「ほんと!?」
「あ」
シュリィが目の色を変えて話に食いつく。そして彼女は、この部屋の床の脆そうな部分を探し、そこを杖や足を使って掘った。少しするとそこからは、彼女が思い描いていた通りの金銀財宝が山のように出てきた。喜びの絶叫をあげながら彼女は、輝く財宝を両手に掬い上げる。
「これ全部、私の!」
「でもこれどうやって持ち帰るの?」
「全部持ち帰る必要なんかないわよ。ちょっとずつ持って帰ればいいの。で、必要になったらまたここに来ればいいわ」
財宝を両手いっぱいに抱えるシュリィ。しかしそんな彼女に、あまりよろしくない予感をさせる音がどこからか聞こえてくる。石と石が擦れる音が部屋に鳴り響き、それが終わったかと思えば、この部屋に通じる道、つまりは3人が通ってきた道にファヴニールほどの大きさの土人形が立っていた。
「なにあれ」
「ゴーレムです。ここの財宝を守るために置かれたものなので、何もしなければ害はありません」
「でもシュリィが財宝いじったから絶対何かしてくるよね」
「あんなのがあるんだったら最初に言いなさいよ!」
「言おうとはしたのですが、それよりも前にシュリィさんが・・・・・・」
そうこうしているうちにゴーレムはこちらに向かってくる。通路を塞がれたままではここから出ることは出来ない。幸いにもゴーレムは1体。なんとかして倒さなければならないが、痛覚のない非生物であるゴーレムは、機械的に攻撃をしてくる厄介な相手である。
「ど、どうする? 結構強そうだけど・・・・・・」
「それなら僕が、あのゴーレムを相手しますよ」
ファヴニールが、持っていた剣を抜きゴーレムの方を向く。規則的な動きでこちらに近づいてくるゴーレムに対し、ファヴニールは一瞬で間合いを詰める。そして剣でゴーレムの胸の中心を勢いよく突き刺した。
次の瞬間、ゴーレムは活動を停止し、バラバラに砕ける。ファヴニールが一撃で戦いを終わらせた。
「す、すごいね!」
3人はファヴニールの圧倒的な強さに驚く。もし3人だけでゴーレムと戦えばかなり苦戦を強いられていたように思う。
「はい! このバルムンクさえあれば、どんな相手でも倒せますよ!」
「へぇぇ」
ファヴニールがバルムンクと言った剣は、パッと見てもあまり変わっているようには見えない。しかし実際にバルムンクを使ったファヴニールが言うからには、何か特別なものがあるのだろう。
「では、ギルドへ帰りましょうか」
「そうね。まぁまた来るけど。それと、ギルドにこの遺跡のことは報告しないでよ」
「なんでさ」
「当たり前でしょ!? ここの財宝を独り占めできなくなるじゃない!」
「あー、なるほど」
シュリィの言う通り、ギルドに報告してしてしまったら多くの人にこの遺跡の存在が知れ渡ることだろう。そうなった時、自分達は何を受け取ることが出来るだろうか。風化する名誉か、その場限りの感謝か。財宝の存在を秘密にしておくことは、シュリィだけでなく、両道とヒロナにとっても都合が良かった。
「言わないだけで、嘘をつくわけじゃないわ。いいでしょ?」
そんなこんなでギルドへと帰ってきた3人。ファヴニールにとって、ギルドは初めてだ。
「あ、お疲れ様です。お帰りになられたんですね。ってあれ? 1人、増えてませんか?」
ギルドへ帰ってきて早々、受付嬢に質問される。財宝は隠せても、生きた人間は隠せない。遺跡と財宝のことは隠しつつ、事情を話す。
「依頼に行ってたら途中で倒れてるとこを見つけて。行くあてもないらしいので、何とかならないかなとか思って、一応連れてきたんですけど・・・・・・」
「ファヴニールです。よろしくお願いします」
ファヴニールが受付嬢に笑顔で挨拶をする。彼女は一瞬黙った後、照れくさそうにし始めた。
「あ、は、はい。よろしくお願いします・・・・・・。えっと、そうですね、あの、冒険者登録とかすれば、最低限、身分証とかになりますし・・・・・・」
「教えてくださって、ありがとうございます」
受付嬢の顔がどんどんと紅くなり、ファヴニールに礼を言われるなり早足でギルドの奥に去ってしまった。
「ファヴニール。お前・・・・・・」
「落ちたわね、あれは」
「え、え? どういうことですか?」
「自覚がないんですね・・・・・・」
受付嬢は先程の会話でファヴニールに恋をした。彼女の顔がそう語っていた。ファヴニールは顔がいい。背も高いし、体格にも恵まれている。ヒロナとシュリィがなんてことなかったので見落としていたが、一般的に女性ウケの良い要素がファヴニールにはかなり詰まっている。
そういえばさっきから人々の視線がこっちに向けられている。おそらくファヴニールを見ているのだろう。老若男女関係なく注目を集めるファヴニール。田舎の閑散とした人間模様の中では刺激が強い。
「注目されるのってさ、恥ずかしいね」
「自意識過剰になってんじゃないわよ。皆ファヴニールのことが気になってるだけで他はどうでもいいと思ってんのよ」
「僕は両道さんのこと、どうでもいいなんて思ってませんよ」
「ファヴニール・・・・・・」
ファヴニールの目には曇りが一切ない。本心から思って言っているのだろう。そして、これを先程の受付嬢にもやったのだ。彼は自覚をしていないようだが、これをやられるとおそらく大抵の人は年齢や性別関係なく落ちる。人心を掌握されるというか、心を開かざるを得なくなる。
そうした空気を断ち切り両道を自分の方へ寄せた後、溜息混じりにヒロナが言う。
「ファヴニールさんの冒険者登録、済ませましょうか」
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