第6話 スライム退治

 「スライムってあのブヨブヨしたやつですよね。弾力がありすぎて、剣が通らないから苦手なんですけど・・・・・・」


 金髪の女の子が持ってきた依頼は、スライム7匹の討伐。ここに描かれているスライムとは、基本的な丸く弾力性のある魔物だ。ゼリーのような、一見生物とは思えないような見た目だが、れっきとした生物、あるいは魔物と認識されている。体に含む水分が非常に多く、熱や暑さに圧倒的に弱い。中には水分を取り込みすぎて体が液状化してしまっている種も存在する。どんな物質を含んでいるのか定かでなく、時には強力な毒を吸収していることもある。弾力性があるという特性から剣や弓はあまり有効ではなく、魔法による対処が一般的だ。


 「そんなに強くないんでしょ? なんとかなるんじゃない?」

  不思議と両道には余裕があった。

 今回の依頼対象であるスライムは前回のゴブリンとは違い、森ではなく草原に出現している。3人は町の北側でスライムが目撃された地帯へ向かっていた。攻撃能力はあまり高くはないが、その体を伸縮させ、家畜を丸呑みにしてしまうこともあるそうだ。また、近くの土壌や川から水を吸い上げ、辺り一面を乾燥地に変えてしまうらしい。町の北側は農耕地帯になっており、もしスライムを放っておけば大きな被害が出てしまう。そうなる前に手を打たなければならない。




 「私の名前はシュリィ。魔法使いよ!」

 スライムが目撃されたという場所まで行く途中、3人はそれぞれ自己紹介をした。

 最初に自己紹介したのは金髪の女の子だ。名前はシュリィというらしい。自らを魔法使いだと言う姿は堂々としている。


 「じゃあ、次は私ですね。名前はヒロナといいます。よろしくお願いしますね」

 「よろしく。で、あんたは?」


 自己紹介していたヒロナの方を向いていたシュリィが向きを変えて両道に聞く。

 学校での自己紹介とかで自分のことを上手く伝えることは苦手だった。


 「えっと、両道です。昨日、冒険者になったばかりで、色々とよく分かってないから、そのつもりでよろしくね」

 「ふぅん。じゃあまだ新人なのね。ふふん、いいわ! 私が色々と教えてあげるから、覚悟しなさい!」


 シュリィは両道の前で腕組みをしながら、先輩風を吹かせていた。ギルドでもリーダーを自らが名乗り出ていたし、何かと前に立ちたい性分なのかもしれない。人によっては彼女のその言動を迷惑と思う者もいるだろうが、本当に何も知らない両道にとってはありがたかった。


 「本当? ありがとう!」

 両道はシュリィの手を掴んで感謝した。まだ何も教えてもらってはいないが、前払いのようなものだ。両道のその態度に気をよくしたのか、シュリィは何やら満足そうな顔で笑った。


 「あの、とりあえずクエストに行きませんか?」

 ヒロナが横から言葉を挟んだ。思い出したかのように2人は口を開けていた。

 「そ、そうね。そうしましょう! それじゃあ、行くわよ!」

 シュリィが先頭を歩きながら、3人は目的の場所へ向かった。



 コダの町周辺には草原が広がっている。そこを歩き続け、目的のスライムを探す。しかし、中々見つからない。風景に溶け込むような魔物でもないので、すぐに見つかるはずなのだが。


 「全然見つかんない・・・・・・。そもそもスライムってどんな形をしてるんだよ」

 「なに? 哲学?」


 両道の愚痴にシュリィが返す。スライムは不定形の生物だ。定まった形などない。しかし見たら、あれがスライムだと分かる。そんな存在だ。3人は周囲を見渡し、スライムの捜索を続けた。


 「スライムっていうのは、なんというか・・・・・・うーん、丸っこい、いやでも形を変化させる時もあるし・・・・・・」

 ヒロナが説明しようとする。しかし頭を悩ませているヒロナを見るかぎり、説明をするのが難しい形をしていることだけは分かる。


 「まともに説明したところで余計に分からなくなるだけでしょ。見るのが1番理解が早いわ。まぁ一応? それっぽい場所にいるはずなんだけど」

 「いないですね。どこにも」

 「うん。そうなのよ」

 「・・・・・・もうちょっと探しましょうか」

 スライムを探し続けるヒロナとシュリィの横で、両道が立ち止まり、遠くを指差す。


 「ねぇ、スライムってあれ?」

 彼が指差した方にいたのは、成人男性ほどの大きさの青い球体だった。草原の真ん中で複数で集まっている。地面から水分を少しずつだが巻き上げているようだ。


 「いたーーーー!」

 シュリィが叫ぶ。あれがスライムだ。

 「いち、に、さん、よん、ご・・・・・・8匹いますね」

 「あれ、1匹多い?」

 「分裂したのよ。きっと」


 スライムって分裂するのかと驚く両道を無視してシュリィが手に持っていた杖を前に出す。スライムはまだこちらに気づいていない。倒すのにこれ以上のチャンスはない。

 「そこで見てなさい」


 シュリィが小声で何かを唱え始めた。杖にはめ込まれた水晶が赤く光る。その光はどんどん強さを増し、やがて辺りを照らすほどの光になった。

 スライムが何やら活発に動きだした。


 「スライムがこっちに気づきましたね」

 「「ファイア」!」


 シュリィがそう言った瞬間、スライムの体に炎が現れ、スライムが次々と燃え始めた。体内の水分が抜け、スライムが徐々に小さくなっていく。


 「後は待つだけね」

 「何が起こってるの?」

 「見て分からない? 私の魔法でスライムを倒してるのよ」


 シュリィが唱えた「ファイア」という魔法は、術者自身、今回はシュリィが指定した位置を発火させるものだ。彼女はスライムの表面に遠くから「ファイア」の魔法を放つことで手を触れることなく、スライムを討伐した。


 やがてスライム徐々に小さくなっていき、見えなくなる。スライムを燃やしていた火も消えた。ヒロナとシュリィがスライムがいた場所に行く。両道も後に続く。


 スライムがいた場所にはコイン程度の大きさの玉が転がっていた。綺麗な水色の玉だ。両道がその玉を手に取る。


 「この玉って何?」

 手に取った玉をシュリィに見せる。

 「その玉はスライムの核ね。その玉がスライムの本体のようなものよ」

 「壊した方がよかったりする?」

 「そうした方が良いわ。またそれに魔素が溜まったらスライムになるわけだし」


 シュリィが杖でコツンと両道の持っていた玉を軽く叩く。玉にひびが入り、割れた。他に玉があるか周りを見ると全ての玉が割れていた。巨大な剣の先でちょっと突けば簡単に割れてしまうので、ヒロナが全部割ってくれたみたいだ。


 「終わったし帰りましょ」

 「今回出番なしでしたね・・・・・・」


 ヒロナが少し落ち込んでいる。シュリィが遠くから魔法を使う様を見ていただけの簡単なクエストだったのだが、ヒロナとしてはサボってしまったような、そんな罪悪感があったようだ。


 「そういえばスライム1匹多く倒したけどいいの?」

 「いいんじゃない? あそこで1匹だけ残しても、また増えて困るだけだし」

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