第5話 金髪の魔法使い

 「あの、あの両道さん・・・・・・。起きて下さい、両道さん」

 日が昇り、朝を迎えてから数時間後。両道はまだ寝ていた。ギルドで両道が来るのを待っていたヒロナは、あまりにも遅いと感じ、部屋にやってきて両道を起こそうとする。しかし両道はなかなか起きなかった。


 「いいかげん起きてください!」

 耐えきれずに大きな声を出すヒロナ。その声に反応して、やっとのことで目を覚ます両道。

 「ちゃんと起きてください! ほら早く!」

 「待って、起きてる、起きてる」


 どうやら両道はかなりの時間を寝ていたようだ。当の本人は重いまぶたをこすり、あくびをした。どっと疲れが押し寄せていたため、その分寝ていた。しかしおかげで、ある程度の疲れは取れたようだ。


 「私がギルドでどれだけ待ったと思ってるんですか!」

 「そんなに待ってたの?」

 「かなり待ちましたよ! 1人でギルドにいるの緊張したんですからね!」

 「そうかぁ。ごめんね」

 「いいから早く行きますよ!」

 顔を赤くしながらヒロナは両道を部屋からひっぱりだした。




 目覚めたばかりのふらつく体をヒロナに引っ張られ、ギルドに到着した。

 「なんで寝坊なんかしちゃうんですか」

 「仕方ないよ。昨日は凄く疲れてたんだし」


 両道は朝食にギルドの売店で販売されているビスケットを軽く食べる。味は薄いが、腹には溜まる。ヒロナは両道が食べ終わるのを待っていた。

 「あ、両道さんの部屋の手続きは済ませてきたので大丈夫ですよ」


 ヒロナがそんなことを言った。泊まる時の手続きもヒロナに任せてしまっていた。何から何までやらせてしまい、さすがに申し訳ない気持ちになってくる。むしろ、ヒロナは出来すぎなのかもしれない。顔は良いし、性格も良いし、色々な面で支えてくれる。少し頼りすぎかもしれないが、それだけ彼女が優秀だということでもある。


 「ありがとう。・・・・・・手続きってなに?」

 「昨日、一泊分までしか予約していなかったので、一応その分の代金を支払っておきました。勝手に予定を決めてしまうのも悪いかなと思って、まだ今日の分の予約はしてません。もし、またあの宿に宿泊するなら、もう一度部屋を取る必要がありますね」


 「そこまでやってくれてたのか。本当にありがとう。宿代、今返すよ」

 「いえ、大丈夫ですよ。一応、いくらか持ってますし、たった1日の宿代で困ったりはしません。それに同じパーティーですし、そういうこともありますよ」

 「うーん、そうかぁ。あ、そういえば、朝はどうやって俺の部屋に入ったの? 鍵かけてた気がするんだけど」

 「普通に開いてましたよ、鍵」

 「え」

 「不用心なんですね・・・・・・」

 「それだけ疲れてたんだよ」


 ヒロナは苦笑い。部屋に来てくれたのがヒロナで良かった。もし泥棒に入られでもしていたら、今頃どうなっていたか分からない。今度からちゃんと戸締まりをしておこうと両道は思う。


 「ところで、今日はどうするの?」

 「そうですね、まぁまた依頼やって終わりですね。それ以外にすることもとくにありませんし」


 また、依頼。昨日と変わらない今日。まぁ、何か劇的なことが起こっているわけではないし、それは当然のことだ。この町は穏やかで、流れる風は昨日と変わらない。今自分達が出来ることは、あの掲示板に貼られた依頼をその日の気分でこなすことだけ。ただ過ぎていく時間をなんとなく感じる。


 ヒロナが依頼を探しに掲示板へ向かった。両道にはどんな依頼が良いのか、自分達に合っているのかが分からないため、どんな依頼を受けるのかをヒロナに決めてもらうことにした。ここでもまた、ヒロナに頼ってしまっている。しかし、依頼は多種多様で物探しもあれば、採取や昨日やった討伐や退治までさまざまだ。その中から自分達の実力にあったものを見つけるには、運と自分達を客観視することの出来る力が必要だ。そしてそれが出来るのもヒロナである。もう一体彼女は何者なのかと思わざるを得ない。


 ヒロナが掲示板で依頼を探している間、両道は長椅子に座りながら待っていた。彼がボーッと暇そうにしていると、後ろの方から大きな音がした。まるで何かを床に打ち付ける音。


 「そこのあんた!」


 女性の高い声が誰かを呼んでいる。声からその女性はまだ若い少女であることが分かる。両道は自分ではないだろうと変わらずヒロナを待っていた。この町にヒロナ以外の知り合いなどいない。自分とは関係ないと思い、目を向けることもしなかった。


 「ちょっと! 振り向くぐらいしなさいよ!!」


 両道は右肩を掴まれ、そしてようやく呼ばれていたのが自分だったのだということに気が付く。

 「うおっ」


 振り向くとそこには金髪の背の低い小柄な女の子がいた。その子から見て右の方にサイドテールをしており、手には木で出来た杖を持っていた。その杖は足から肩までの長さで、下は丸く潰されいる。先程の打ち付ける音はこの杖で床を叩いたものだったのだろう。杖は下にいくほど細くなっている。杖の上はくり抜いたのか変形させたのか、大きく円を描いており、その円の中心には赤い水晶のようなものがセットされている。さらに彼女は半袖の整った服を着て、スカートを履いていた。マントを羽織り、少し気合の入った特徴的な服だ。


 「私が呼んでるのよ! なんで無視するの!?」

 「いや、えっと。まさか俺だとは思わなくて・・・・・・」


 金髪の女の子からの質問に驚きをもって答える両道。その言葉を聞いた彼女は、毅然とした態度で喋る。


 「成る程。この私から声をかけられるなんて、光栄なこと過ぎて、まさか自分だなんて思わなかったってことね!」


 その自信がどこから湧いて出るのか、疑問になるくらいの自信過剰っぷりであった。会ってから圧倒されっぱなしの両道であったが、それでもこちらから話題を切り出す。


 「えっと、俺に何か用でもあるの?」

 「ふふん。いいわ、答えてあげる。この私の仲間になりなさい!」

 「仲間っていうのは、パーティーを組めってこと?」

 「そうよ! 早く仲間になるって言いなさい!」


 大声で答える少女。体を前に突き出し、両道に対して少し威圧的に話す。

 「うーん。でもなぁ、ヒロナの意見も聞かないとなぁ」

 「ヒロナ?」


 両道には既にヒロナという仲間がいる。こういったことを、1人で勝手に決めるわけにはいかない。なのでヒロナの意見を聞きたい、と両道が思っていたところに、ちょうどヒロナが帰ってくる。噂をすれば、というやつだろうか。


 「あ、ヒロナ! 相談なんだけどさ」

 「ふぇ?」


 ヒロナを見て、少女は気の抜けた、それが予想外だと言わんばかりの声を出す。両道に話しかけてきたその少女の背は、両道よりも少し小さいぐらいだが、ヒロナの身長は圧倒的に高い。しかも背中には大剣を背負っている。よくよく考えてみれば、突然ヒロナが目の前に現れでもしたら、腰を抜かしてしまうこともあるかもしれない。それぐらい背が高い。普通に大男ぐらいある。少女にとってヒロナは、率直に言えば、恐怖に思えたのかもしれない。


 「どうしたんですか、両道さん。その女の子は?」

 「今さっき俺に声かけてきてさ。パーティー組みたいんだって。俺は別に良いと思うんだけど、1人は決めるのはあれかなって思ってさ」


 「え、いや、えっと」

 「私も別に構いませんよ。頼れる仲間が増えるのはいいことですし」

 「頼れる・・・・・・」

 「うん。じゃあ、これからは3人で」

 「はい、よろしくお願いしますね!」

 「い、いいの?」


 少女は不安そうにこちらを見る。さっきまでの元気はどこへ行ってしまったのか。おそらく、ヒロナに怯えているのだろう。ただ、少し話して怖くはないというのは、十分に分かったはずだ。少女に再び元気が戻っていく。


 ちなみにパーティーというのは、目的を同じくする冒険者同士が組むチームのようなものだ。ギルドで登録している訳ではないが、その存在はギルドも認めている。協力して依頼に当たれば、それだけ出来ることは増えるので、パーティーを組んでいる冒険者は多いらしい。


 「じゃあパーティーリーダーは私ね! 依頼もじゃんじゃん受けてーじゃんじゃん稼いでー」


 急にさっきの調子を取り戻し、声を大にして次から次へと発言する。少女は自らが受け入れられたとして、強気に出始めたのだ。彼女の中では既に計画は決まっていたのか、1人、勝手に想像を膨らませているところに両道が待ったをかける。


 「ちょっと待ってよ。やることはともかくとしてさ、まずパーティーリーダーって何?」

 「そんなの決まってるでしょ。このパーティーで、一番偉いやつのことよ。私で良いでしょ」

 「いいの?」

 「まぁ、あくまで形式的なものですし、はっきり決めるものでもないんじゃないでしょうか」

 「とにかく! 依頼に行くわよ!」

 「いいけど、どれにするの?」

 「もう決めてあるわ! これよ!」


 少女はそう言って、机にドン! と依頼書を置く。どんな依頼なのか、両道とヒロナがに置かれた依頼書を見る。

 「スライム7匹の討伐、ですか?」

 「そうよ!」

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