第2話 冒険者として

 木製の壁に三角屋根の建物。その屋根の下に分かりやすいように冒険者ギルドと書かれた看板が飾ってあった。扉を開け、中へ入る。土地だけはあったのか、結構な広さがある。鎧や武器などを身につけた男女が疎らにいた。男性の方が圧倒的に多く、女性は少ししかいない。正面にはカウンターが設置されており、カウンターの上には受付と書かれた看板が飾ってある。カウンターには黒い衣服の上にエプロンのようなものを着た若い女性が座っている。ヒロナによると、あの女性は受付嬢と呼ばれているらしい。カウンターの右側には人々から出された依頼が書かれている紙が貼られている掲示板が設置されている。その掲示版の前では、冒険者達が依頼を吟味していた。左側は小規模な売店がある。売店では、冒険や依頼で役に立つ道具などが購入できるそうだ。他にも日常で使う雑貨なども置いてあるらしい。そして中央には休憩スペースがあった。長机の左右に長椅子がそれぞれ並んでいる。日がな一日ここにいる者もいるそうだ。実際、今もいる。


 「それでは、まず登録をしてしまいましょうか」

 ヒロナが両道に提案する。

 「そうだね。・・・・・・でもどうやるの?」

 「やっぱりそれも・・・・・・ですよねぇ・・・・・・」


 既に冒険者であるヒロナはギルドへの登録の方法を知っているが、そうでない両道は何も知らない。ヒロナは予想はしていたものの、頭を抱えてしまった。

 「まぁ、聞けば教えてくれますよ」

 ヒロナがそう言ったので、両道は受付へと向かった。受付嬢が1人、カウンターにいる。受付嬢を務めている女性は小柄な体格をしており、女性というよりも女児という方が表現としては合っているかもしれない身長だった。あまり人のいない田舎町においては、こういった場所を利用する人も少ないのだろう。彼女は暇そうに本を読んでいた。そんな彼女に声をかける。


 「あのー」

 「ひゃ、ひゃい! な、なんでしょう! あ! こ、ここは冒険者ギルドです! よ、用件をお聞きします!」

 その受付嬢は両道の声に驚いたのか、本を落としてしまった。緊張しているのであろうか、拙い応対だ。


 「えーっと。冒険者の登録、ってやつをしたいんですけど」

 「と、登録ですね! 少々お待ち下さい!」

 両道が用件を伝えると受付嬢は走って受付の奥の方へと行き、数分後に戻ってきた。奥から戻ってきた受付嬢は、紙切れのようなものを手に持っていた。冒険者が持つことを義務付けられているカードだそうだ。


 「それでは、こちらの冒険者カードにお名前のご記入をお願いいたします!」

 「それだけでいいんですか?」

 「もしよければ身分を証明するものも提示していただけると有り難いのですが、お持ちでしょうか?」

 「いえ、持ってないです」

 「あ、そ、そうですか・・・・・・。なら、お名前のご記入だけお願いします」


 受付嬢に言われた通りに両道は自分の名前を書く。このカードは、身分証の代わりにもなるらしく、無くさないようにしてくださいと言われた。

 「そしたら、これで登録は完了です! これから頑張って下さい!」

 受付嬢は元気よく言う。励まされた気分だ。発破をかけられたところで、後ろで待っていたヒロナのもとへ戻った。


 「登録出来たんですね! 良かったです! では、さっそくクエストに行きましょう!」

 「え、もう行くの?」

 「はい。それとも他に何かやることでも?」

 「いや、別にないけど」

 「ですよね! 暗くなるまで時間はまだありますし、1個ぐらい依頼を受けましょう!」


 ヒロナは両道に早速、クエストに行こうと誘ってきた。冒険者になったばかりで、いきなりというのはあまり乗り気でない様子の両道だったが、せっかく冒険者になったのだから行こうとも彼は思った。そしてヒロナと2人で掲示板に貼ってある依頼を眺める。依頼の内容は掲示板に貼ってある各紙に書いてある。


 「思ってたよりたくさんあるんだね」

 掲示板を見ると様々な依頼が張られている。薬草や落とし物を探してきてほしい、というものから町の外に現れるモンスターを討伐してほしいという依頼まで。何でも屋のよう、というより冒険者とはそういうものである。


 数ある依頼の中からヒロナが1枚の紙を指さす。

 「ゴブリンの退治とかどうですか!」

 「ゴブリンって何?」

 両道が疑問を抱いた。


 ゴブリンとは緑色の小柄な人型のモンスターだ。基本的には群れを成しており、大きな群れとなると社会的な仕組みが見られる場合がある。1匹では大の大人が倒せる程の弱さなのだが、群れを成したゴブリンは時折、村などに大きな被害をもたらす。


 「森にいるゴブリンの群れが、近くの畑を荒らしたりしているらしいですよ。手強い相手でもありませんし、初めてにはちょうどいいんじゃないですか?」

 「じゃあ、それにしよう」

 ヒロナが依頼の書かれた紙を掲示板からはがし、受付に持っていき受注した。カウンターで受付嬢がヒロナに話し始める。


 「ゴブリン討伐に行かれるんですね」

 「はい」

 「ありがとうございます」

 「え、あの、何が?」

 「この依頼、ずっと避けられてきてたんですよ。ゴブリンだからって」

 「ゴブリンだと何かダメなんですか?」

 「ほら、ゴブリンって人に似てるじゃないですか。だから嫌がられるんですよ」

 「あー、まぁ、仕方ありませんよ。戦争のこととか、思い出す方もいるでしょうし」

 「えぇ、本当に。すいません、依頼を受けてくれたのに。こんなんじゃやる気も出ないですよね」

 「大丈夫ですよ。必ず、達成してみせますから」

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