異世界運命記
@dodokan
序章
第1話 始まり
ある日ある場所にいた少年の1人が自ら命を絶った。その少年はそのことに対して無自覚であったが、生きている者が自ら命を絶つというのは重い罪にあたる。罰としてその者は、その者が生きていた世界とは異なる世界で姿形はそのままに、もう一度生きることを迫られた。
「うーん。うん?」
目を覚ますと、見たこともない草原が広がっていた。仰向けになっていたその体を起こし、周りを見渡した。戸惑う。
「えっと、俺は確か・・・・・・」
目を覚ます前のことを思い出す。あまり思い出せない。
もう一度、周りをキョロキョロと見渡す。
「ん?向こうの方に道があるな・・・」
見つめる先にそこだけ草が生えていない場所がまっすぐ続いていた。多分、道だろう。
「ここにいる必要がないな。せめて、誰かに会えるといいんだけど」
立ち上がり、先程見つけた道に近づき、左か右かどちらに進もうかと左右を見渡した。右の方には雄大な山々が続く山脈があった。雲の上まで続く・・・・・・というわけではないが、山頂をこの目に映すには見上げる必要があった。
「う~ん。左に行くか」
そう言って、左の方へ進むことにした。山の向こう側へ行こうなどとは一切思わなかった。
全く変わらない景色を歩き、疲れてきたために喉が渇いた。唾液を飲んで渇きを誤魔化す。
再び道を歩き始める。平坦で真っ直ぐな道だ。つまらなささえ感じる。しかし歩かなければならない。歩かなければどこへも辿り着けはしないからだ。しばらく歩いたところで、道のすぐ近くに生えている1本の樹を見つけた。まぁまぁ大きなその樹は、草原の真ん中に1本だけ生えており、まるでここに訪れた者の疲れを癒すためにあるようだった。
樹の影に座る。日は暑く、この影の中はとても心地よかった。ずっとここにいたいほどだった。
しかし、そうはしていられない。何故だかは分からなかったがそのような気がした。なので立ち上がり、また道に戻ることにした。この樹にはまた立ち寄れるだろうか。気持ち良かったので、そんなことを思いながら先へ進んだ。
歩いている途中に1人の少女と出会った。こちらから見つけたのか、それとも見つけさせられたのか。あまり自然に思える出会い方のようには思えなかったのだが、それよりもここに来てから初めて出会った人なので、話しかけた。
「あの」
「はい?」
その少女は背が高かった。とても高い。綺麗な肌で、茶色の長い髪。顔がかなり整っており、美人である。そして青くしっかりとした、丈夫そうな服を着ていた。服は半袖で実に動きやすそうだ。さらにその背中には重そうな、大きな剣を背負っている。何故そんなものを背負っているのか、分からなかったが、ここではとくに気にすることもなく話をした。
「ここがどこだか知っていますか?」
「知ってはいますけど、何でそれを聞くんですか? 道はあるんですから、歩けば分かると思いますけど」
「いえ、本当に分からなくて。このままこの道を歩いても、多分知らない場所に着くんですよ」
「はぁ、そうですか。ところで名前を聞いてませんでしたね。失礼でなければ聞いてもよろしいですか?」
名前。どんな名前だっただろうか。不思議と思い出せない。しかし、そんな時に急に頭の中に名乗るべき名前が思い浮かんだ。
「自分の名前は両道 颯です」
「私の名前はヒロナです。道はこのまま歩けば、人のいる町に着きますよ。私も行こうと思ってるんですけど」
「けど?」
「1人で行く勇気がどうしてもなくて」
「何か怖いところなんですか?」
「いえ、そういうわけではないんですけど・・・・・・。そうだ! 一緒に来てくれませんか?」
「え、まぁ、いいですけど」
そこから少し歩いて町へと入る。
そこはヨーロッパのような町並みだった。建物はレンガのようなもので出来ている。窓はガラスだろう。ドアのあの感じはきっと木だ。道路は舗装されておらず、土がむき出しになっている。
町を歩きまわってみる。人の数はまぁまぁってところだ。すれ違う人に色々と聞こうと思ったが、聞かなかった。
第一印象では物騒だなとは思った。筋肉モリモリのごつい男と柄の悪い女。そして耳の遠そうな老人。町ですれ違った9割はこのどちらかと言っていい。今にも老人はボコボコにされそうだ。しかし、ここは爽やかな風の吹くのどかな田舎町で、この町にいる人は皆、似たような雰囲気だった。物騒なのは見た目だけで、雰囲気はかなり違う。柄の悪そうな人達がまだこの雰囲気に馴染めていないだけなのかもしれない。
ある程度の感覚で建ち並ぶ家屋と道の真ん中を歩く家畜。そんな中を2人も歩く。
ヒロナに教えてもらったのだが、ここは「フィリッツ」という国の「コダ」という町らしい。何もない田舎の町とも言っていた。実際その通りだ。しかし、そんな何もない町に両道とヒロナは来たわけで、さらにヒロナはここに来ようとしていたのだ。何か目的があったはずだが、それは何なのだろうか。まるでその疑問に答えるように、ヒロナはある建物を指差した。
「あそこですね。冒険者ギルド」
「ギルド?」
「えぇ、あそこに行きたかったんです」
彼女が指差したその建物が、この町で一番大きい建物だった。どういった場所なのかがよく分からないが、他に行く場所もなかった両道はそのまま付いていくことにした。
「あっ、そういえば両道さんは、冒険者ですか?」
「え?」
「じゃないみたいですね・・・・・・。それなら特技とかってありますか? 剣とか弓が得意とか、魔法を使うことが出来るとか」
「いや、とくには、そういうのはないと思います」
「そ、そうですか。まぁ、いいです。はい。行きましょう」
彼女の質問がよく分からなかった。冒険者という聞き慣れない言葉に、特技として求めてきたことが剣や魔法というのも、理解出来なかった。両道はおそらくヒロナの求めるような技能を持ってはいなかったが、持っていたとしたら彼女はどのような反応をしたのだろう。
それはともかくとして、分からない言葉をそのままにしておくのはいけないと思い、両道はヒロナに逆に質問をした。冒険者や魔法などについてである。
「え、知らないんですか? 本当に?」
「あ、はい」
ヒロナは一瞬、困った顔をする。手で頭を抱え悩み、しばらく考えた後に答えた。
「冒険者というのは、冒険者ギルドに登録した人のことを指します」
説明はさらに続いた。彼女によれば、冒険者はギルドに来た依頼、もしくはクエストを受注し、それをこなし報酬を受けとることで日々の生計を立てる人達らしい。依頼は多種多様にあり、冒険者によって向き不向きや得意不得意がある。必ずしも1人で受ける必要などなく、多人数で受けても構わない、むしろそれが普通なのだそうだ。そして、多人数で受ける冒険者達をまとめて「パーティー」と呼ぶことも教わった。
「まぁ、簡単に言えばそんな感じですかね」
「へー、そんなのがあるんですね」
「それでですね、ここで相談、というかお願いなんですけど、冒険者になって私とパーティーを組んではくれませんか?」
彼女が微笑みながら聞いてきた。どうしようかとは思ったが、もしここで断ってしまえば、両道には目的もやることもなくなり、途方に暮れるだけだ。彼女の言うかぎりでは、とくに損なことはないように感じたので、両道は冒険者というものに登録することにした。
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