第3話 いざ、依頼へ
2人は、依頼対象であるゴブリンが住んでいるという近くの森へと向かっていた。森は町から出て西の方にある。町から森までは平原が続いている。野生の生き物を見ることが出来るが、警戒心が強くどれも遠くから見ることしか出来ない。たまに吹く風が草木の音を鳴らす。
数時間ほど歩き、森が見えてきた。横と奥に広がっている森を、この世界の人々は「コダの森」と呼んでいる。依頼書にもそのように書いてあった。
この森はとにかく広く、どこまで行っても同じ光景が続いている。気をつけなければ、迷ってしまいそうになる。土の上に雑草が生い茂り、薄い影に包まれるこの森では、木々の間から射す光の存在が当たり前のものでは無い。まるで暗い闇が広がっているかのような森の中を歩いていく。
「ちなみにあの町の名前も、町を作った人がコランダーソンなんて名前の人だったからってことらしいです」
森の中を歩きながらヒロナが話し出す。他愛もない会話、つまりは雑談だ。ただ歩くだけでは暇で仕方がないから、こうやって会話をすることで色々と紛らわせることが出来る。
「ふぅん、詳しいね」
「そうですか?」
「うん、多分」
「多分って・・・・・・まぁいいです」
「冒険者とかやってると、そうやって詳しくなってくものなの?」
「え、さぁ?」
「さぁ? って今までやってきたんじゃないの?」
「いえ、実を言うと私も冒険者になったばかりで」
「そうなの?」
「はい。だから色々と心細くって」
どうやらヒロナも冒険者としては駆け出しのようだ。町の情報は、耳に入ってきたことをそのまま言っただけらしい。
「じゃあ、これから助け合わないとね」
両道はヒロナの方を見て、明るく笑顔で言った。
「はい、そうですね!」
ヒロナは両道のその言葉に大きく頷きながら返事をした。
そうこう話をしながら、2人はかなり奥の方に来ていたようだ。
前を歩いていたヒロナが急に立ち止まる。
「静かに」
そしてヒロナは腕を両道の前に出し、両道がこれ以上前に行かないようにする。姿勢を低くして前にあるものをジッと草むらから見ている。
「なに見てんの」
「あまり声を大きくしないでください。あそこにゴブリンの群れがいます」
確かに今、両道達が隠れている草むらの前に緑色の人間の子供ほどの大きさの生物がいる。人によく似た姿をしている。緑色の小人という表現がピッタリだ。
「大体5匹ぐらいみたいですね」
「多いの?」
「ゴブリンならこれぐらいだと思います」
ゴブリンは基本4~8匹程度の群れを作ると言われている。単独でいることは稀らしい。逆に100匹以上の群れを成しているという事例も過去には報告されている。姿だけでなく、群れで生きるという点においても人に似ている生物だ。
2人はこのゴブリン達にまだ気付かれていない。そのことを利用し、一気にあのモンスター達の目の前に出て、一瞬で決着をつける。反撃のチャンスを与えずに掃討するのだ。
「それじゃ、行きますよ」
「うん」
ヒロナの目が真剣なものになっていた。緊張しているのだろうか。
打ち合わせ通りに隠れていた草むらから2人は飛び出した。ヒロナは背中に背負っていた大剣を抜き、ゴブリンに向かって勢いよく走った。その剣は1匹のゴブリンの肩から腹にかけてを一気に切断した。血と肉が飛び出し、辺り一面に散らばる。2匹目、3匹目と次々に切り殺していく。
「a、aaaaaaaaa!!」
切られたゴブリンが叫ぶ。痛がっている。吹き出す血と飛び出る内臓を見て、両道は腰を抜かした。
「う、うわぁぁ」
弱弱しい声が出てくる。初めて生々しい殺し合いの瞬間をこの目で見た。ゴブリンの、人に近い見た目が、より見ていて気分を削いでくる。両道は立ち上がることすら出来ずにいた。残りの2匹の内、1匹はヒロナに立ち向かっている。もう1匹は、動けずにいる両道の方に狙いをつけた。
こちらに向かってくるゴブリンの足音がだんだん大きくなってくる。恐怖だった。この殺し合いの場に自分がいることを初めて理解した。一歩も動けない。死ぬのも、痛いのも嫌だ。それしか頭になかった。相手が止まることなどない。死の恐怖がぢりぢりと迫ってきている。
「両道さん!」
両道の方にゴブリンが向かっていることを見たヒロナは目の前で戦っていた1匹のゴブリンの胸をバッサリと切って、急いで両道の方へと向かった。
「gya!」
ヒロナに切られたゴブリンは地面に横たわった。
「うわぁぁぁぁ!」
「aaaaaaaaa!!」
残りの1匹のゴブリンが両道に飛びかかろうとジャンプした。
「はああああ!」
両道の目には涙が溜まりだし、ヒロナは後ろから大剣を大きく振ってゴブリンの背中を切り裂いた。
「a!」
空中で切り裂かれたゴブリンの死体は両道に降ってきた。血まみれの死体は両道の着ていた服も赤くした。
「うわ、うわぁぁぁぁ!」
両道は胸で死体の感触を初めて味わった。叫び声をあげる。グッチョリとしたものが胸の上に乗っかっていて、気持ちが悪い。生暖かさも感じる。
「大丈夫ですよ。もう死んでますから」
ヒロナが優しい声で教えてくれる。剣とそれを握っていた腕。着ていた服も血で赤く染まっていた。息切れも少ししているようだった。
「立てますか?」
こちらに手を差し出してくれたヒロナの手を見る。
「む、無理」
腰を抜かしている両道はその場から少しも動くことは出来なかった。
「仕方ないですね・・・・・・」
ため息をつきながらヒロナが両道の腕をグッと引っ張り上げ、態勢を起こさせる。体を支えて両道が倒れないようにする。
「これで大丈夫ですか?」
「な、何とか」
産まれたての子鹿のようにまだ足は震えていたものの、何とか立てるようにはなっていた。
ヒロナは大きく息を吸ったあと、手を後ろで組んで少し顔を前に出し、殺し合いが終わった後とは思えない程の眩しい笑顔で言った。
「じゃあ、帰りましょっか!」
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