原田爆発


いつもの如く直帰し早々に晩餐をすませ、もう一度ツイッターに告知。



 そして人生初のゲーム実況を始めた。



ゲームをしながら日頃の自分のバイトの様子や高校生活をマイクに向かい只管喋った。



もちろんコメントも反応も無い。



それでも第一回の放送、もし自分が有名になった時伝説になる放送だと自分を鼓舞し独り言を言い続けた。


 楽しいことなんか一つも無く声は涸れただへとへとに疲れる。


 何の山も落ちも無くあれだけ宣伝していたのにひとりも視聴者は来ず配信を切った。


シャツはしっとりと汗で濡れ、喉はカラカラ。

台所に行きつくりおきの麦茶を飲む。



 その日は泥の様に眠った。



翌朝、朝食の時母親に



「昨日は誰と仲良く喋っていたの?」


と聞かれまさか独り言とも言えず高校生の時の友達だと答えて置いた。


そう答えていればこれからの配信もやりやすいと思ったからだ。


何故か嬉しそうな母親を見て僕は胸が苦しくなった。


それから数ヶ月、三日とおかず配信したが本当に誰ひとり視聴者は増えなかった。


ツイッターもフォローばかりが増えフォロワーが増えることは無い。



最後はフォロバもこなくなり変なアダルトサイトに誘導するようなDMばかりがくるように鳴った。



喉の調子も悪い。


ひとりでわあわあ喋っている所為だろう。



それでも諦めずに配信。


季節はいつの間にかジメジメと嫌な梅雨になっていた。



 今日も夜に配信で独り言を言い続ける。


外はしとしとと老婆が泣いているような静かな雨。


高校を卒業して三ヶ月。週三回のバイトしかしていない。


学校のクラスメートから連絡がくることもない。



 配信も、もちろん0人。

ツイッターでもなんでも僕に関係したあらゆる物に人が寄ってこない。



こんなにも頑張っているのに視聴者がひとりも来ないなんて事があるのだろうか。


知人も友人も居ないので誰かに尋ねる事もできない。


外はしとしと雨の音。


 


その夜の配信中、ぼくの独り言がとまった。もう何も話すことはない。



もう無理だ。



雨音が次第に強くなる。安普請のトタン壁を叩きつけるような大雨に変わった。



ぴちょん。


顔に水滴。



この安普請大雨になると少しだけ雨漏りするのだ。


そんなアパートひ母子二人これからも住み続けるのだろうか。


雨漏りがしない家に引っ越すべきだ。



僕は、僕はこんなことしている場合じゃないんだ。


お母さんに親孝行しなければ。


雨漏りに打たれて目が覚めた。


この配信で最後にしよう。潮時だったんだ。


僕はマイクに向かって話しかける。



「今日で配信やめることにします」



あの卒業式よりも情けなくて惨めで涙が零れた。

僕はなんて惨めで馬鹿なんだろう。


電源ボタンに手を伸ばしたその時である。

画面に始めてコメントが表示された。



「やめちゃうんですか?」



僕は驚きで声も出ない。



「あれ?本当に終わりですか?」



僕は左手でマイクの位置を確認してから声を振り絞る。



「じょ冗談ですよ!人生で嫌なことがあったものですから。あははは」



コメントがまた返ってきた。



「あいかわらず面白いですね」


人生で初めて他人から面白いと言われ僕は舞い上がる。


それからひとり喋りに喋った。いつも一時間ほどで切り上げる配信も今日は二時間越えの長丁場となった。


また明日もやりますと言うと、打てば響くようにまた見に来ますとのコメント。



人生で初めて本気の驚愕、そして充実感。


終わって布団に倒れ込みツイッターを覗くとフォロワーがひとり増えていた。




 翌日のバイトは気もそぞろ。晩ご飯はかき込むようにして食べ早速配信開始。


 なんと昨日のコメントにいたひとが来てくれている。


友達にも見るように言ってくれたとかで何と三人もの視聴者が僕の配信を見ている。


流れてくるコメントに僕が言葉で返答すると


「草」「W」とコメント。


これはネットスラングで笑い声を表しているらしいがこのキーワードが頻出すると笑いが起きている証拠だ。


僕が面白いってことだ。


なんて事だ、コメントが来るだけで自信が満ちあふれてくる。



こんなにも充実した時間は生まれて初めてだ。


 今夜もまた三時間超えの配信となった。


いつものメンバーがあつまる配信の三日目。コメントにこんどオフ会しましょう。ツイッターにメール送っときますと有りツイッターを見るとDMが来ていた。



「いつも配信楽しみに見ています僕らはEスポーツの男女混成チームです。こんど私のマンションで一緒にゲームしませんか?」


男女、Eスポーツチーム。それだけでぼくの心は早鐘を打つ。


小中高と禄に女子と喋ってない同性の友達すらいない僕にいきなり男女の友人が。



僕はすっかり舞い上がりダイレクトメールの返事は一も二も無くイエスであった。


するとすぐに返答が。



「じゃあ早速!今週の土曜日どうですか?」



もちろんイエス!!



その後待ち合わせ場所や時間を決める。

終わってすぐ僕はベッドに飛び込み枕を口に宛がう。


やったああああ!やったああああああああ!

友達!ともだち!友達!


友達!


友達!


汗が滲むほどベッドで転げ回る。


たまたまバイトのシフトも入っていない何時間でも遊べる。深夜まで!


女の子とも遊べるんだ!


こんなに週末が楽しみだったことは生まれて初めてだ。



僕は土曜日までの数日間ほとんど記憶が無い、ただただ楽しみすぎてふわふわ過ごした。


ずっと夢の中にいるような数日間だった。

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