ぼんやり原田くん

 卒業後、僕はぼんやり自室でテレビを見ていた。


2LDK、小さく古ぼけたアパート。奥の日当たりの悪い部屋がぼくに宛がわれた場所だ。


 母親は、とにかく慌てなくていいからバイトからでも始めなさいと僕をせっつく事も無く自分はパートに向かっていった。


僕もそんお言葉に素直に従い週三回ほどコンビニでバイトしている。


わざわざバスに乗らなきゃいけない隣町までだ。遠いコンビニを選んだのはもちろん同じ学校の奴等に会いたくなかったからだ。


その望みは叶っているのか今のところ知り合いにはひとりも出会っていない。


 あの教室に置きっ放しにしている荷物についてくらい電話とかあるかも、なんて考えていたが別に誰からも何も言われない。



たった一月たったくらいで僕は僕が高校生だった事を忘れてしまいそうになる。



 窓から見える桜の街路樹も青葉だけが繁り春めいた物は一切なくなっている。


母が作っておいてくれたおにぎりを食べながらテレビを見ていると漠然とした焦燥感に襲われ人生がこのまま、アルバイトのまま終わりそうで指が震えてくる。



それでも何かその何かが僕にはわからない。

おにぎりを食べ終わりパックに入った漬け物を指で掴んで頬張って居るときにこんなニュースが流れる。 

 


『日本初の快挙!有名ゲーム実況者!登録百万人スーパーチャット三億円!』


三億円。金額だけが僕の耳に残る。




ゲーム実況者がどんなものかだけは知っている。有名な人だと何百、何千万と稼ぐらしい。


高校生の頃、ゲーム実況を見たことがある。別に面白いとは思えなかった。ゲームをしながらギャアギャア騒いでいるだけ。それでお金を稼いでいる。



僕はテレビの下に鎮座しているプレステ4を眺めた。



一時期クラスでネトゲが流行し全員が同じチームで何かをしていた。


僕も誘われたことが嬉しくて夜中にバイトし買った。


買いはしたが少し参加が遅かったのかクラスのほとんどは飽きていて僕も何時間かプレイして辞めた。



 たしかプレステさえあれば配信は出来たはず。アパートにはWi-Fiが来ているし始めようと思えばいつでも始められるわけだ。



もしも。


もし僕が人気者になれば大金が手に入る。


このままここでお母さんのおにぎりを食べながら腐っていくよりもいいのかも知れない。



いやそんな何百万と稼げなくてもいい。月に何万円か稼げれば家計も楽になるんじゃないか。


早速スマホで配信のやり方を調べる。


 部屋が暗くなり母が


「ご飯食べなさい」


と呼びに来てくれるまで検索に没頭していた。



 晩ご飯を食べながら頭の中はグルグル。


思ったよりも簡単だった色々なサイトに登録するのだけが面倒だったがそれもクリアした。これでいつでも配信できる。


しかもゲームは無料でダウンロードできる、すごい時代だ。 


明日はアルバイト。でも夜には配信を始めてみようと思う。 


 朝起きて母はいつものパート。僕もアルバイトに行く。



バイト中もそわそわで休憩中は早速ツイッターを始め自分の配信があると表示された人たちに送って廻った。


まだ始めたばかりでフォロワーはひとりもいないが兎に角手当たり次第配信のおしらせをした。


これで今夜は一人くらい見に来てくれるだろう。



謎の満足感でニヤニヤしていたら同じシフトのおばさんから



「何ニコニコして、何かいいことあるの?」

言われてしまった。


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