幕間:触れない気遣い
「流石に少し喋り疲れたわね」
ふぅっと息を吐いたフィリーネが最後の紅茶をゆっくりと飲み干すと、カップをテーブルに置く。
「折角ですので、お茶菓子と紅茶、お持ち致します。少しお休みくださいませ」
目ざとくそれに気づいたアンナはすっと席を立つ。
「ええ。ごめんなさいね」
「お手伝いしますか?」
「お気遣いは不要ですよ。では、ここでお待ちくださいませ」
美咲の申し出に柔らかな笑みを向け、頭を下げたアンナが流れるようにキッチンへと向かう。
その後ろ姿を見ながら、美咲は感心した様子を見せる。
「アンナさんってほんと凄いですよね」
「そうね。私も色々とメイドを見ているけれど、ここまで細やかに気配りまで見せる人を見た事がないわね」
美咲の言葉に同意したフィリーネは、ふとアンナの背を見る彼女の表情が曇ったのを見逃さなかった。
「……ミサキ。何かあったの?」
「え? あ、その……」
突然の問いかけに、思わず美咲は躊躇しながらフィリーネの様子を伺う。
そこにある、少し心配そうな表情。それを見て、彼女は意を決し、小声でフィリーネにこう尋ねた。
「あの……私、アンナさんに悪い事、聞いちゃいました?」
「悪い事?」
「はい。その……故郷のお話を聞いた時、アンナさんが少し言い淀んだ気がしたので……」
何処か申し訳なさそうに、身を小さくして椅子に座る美咲を見て、フィリーネは彼女の洞察力と優しさに自然と頬を緩めた。
「……ミサキ。覚えておきなさい。知らない事を質問するのは当たり前なの。だから気に病まないであげて」
「でも……」
「アンナは貴女が事情を知らない事を知っているからこそ、貴女に気を遣ったの。それなのに、それを悔いて彼女に言葉を掛けては、あの子の気遣いを無にするわ。互いに気を遣い、互いにそれ以上触れないのも優しさ。だから気にしないであげて」
「……はい」
フィリーネの言葉に、美咲は真剣な顔でこくりと頷く。
それを見た彼女は、優しく微笑むと紅茶のカップを手にしたのだが……。
「フィリーネさん。中身が空ですよ」
「あ、あら。そうだったわね」
くすっと笑った美咲からの指摘に、フィリーネは思わず恥ずかしげに顔を赤らめ、思わず目を泳がせるのだった。
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