第三話 初任務
「フォルクス・メルラン伯爵様、ドゥーム王国内でのブツの販売ルートを確保いたしました。あとは船に乗せて運び込むだけです」
ヴェゼール商会は、マルクス王国貴族のフォルグス・メルランの指示のもと麻薬の密輸出の準備を進めていた。
マルクス王国の隣国、ドゥーム王国は麻薬の取り締まりが厳しく、ほぼ国内では手に入らないため裏では高値で取引されていた。
陸路を運ぶのでは国境の検問所で積み荷の確認をされてしまう。
それでは、麻薬を運び込むことができない。
メルラン伯爵家領地は、これといった産業がなく裕福とは言えない貴族であった。
フォルクス・メルランは、この機会に財を得るため麻薬の密輸出を画策していたのだった。
そこで彼が協力を依頼したのがメラーム海沿岸で影響力の強いヴェゼール商会であった。
「荷のほうは五日後の深夜、ソーウェン港に運び込む。その日に合わせて船を用意してくれ。詳しいことはおって連絡する」
ヴェゼール商会の男は、その場で頭を下げ退室していった。
「あと残り五日。最低それまでは隠し通さねばな……。麻薬さえ手元になければ罪にも問えまい」
◇◆◇◆
「レナード、ルカ、イゼリナの三名。あなたたちは今日よりマルクス王国王家直属諜報部隊の隊員となった。早速だがお前達に最初の任務を与える」
この部屋にはユリアナ・マリア・オートヴィル王女しかいない。
諜報部隊の目的からすれば、国内貴族に知られたくはないからだろう。
「今、国内では裏商人や一部貴族どもが麻薬を集める動きがある。もしかしたら麻薬の密輸出が目的なのかもしれん」
王女はマルクス王国国内の地図を広げた。
地図には赤い印が各所に付けられていた。
「これは、麻薬関連の情報あった場所や裏商人が捕まった場所などに印をつけた地図だ。見てくれればわかるが沿岸部に集中している」
赤い印は沿岸部の小貴族たちの領地や都市部に多い。
「これらの分布をみてもおそらく密輸出をするつもりであることが推測できる」
「なんで密輸出をするんだ?」
ルカは地図を覗き込んだまま、王女に尋ねる。
こいつは、相手が王女であることをわかっているのだろうか。
「隣国であるドゥーム王国は、麻薬の取り締まりが厳しいためドゥームでは麻薬を簡単には手に入れることができないのだ。そこに麻薬を持ち込んで売れば高値で売れるからなのだろう」
「そもそも、なんで麻薬を厳しく取り締まるんだ?」
「麻薬は中毒性があり依存してしまえば、麻薬なしの体では生きていけなくなる。すると、もともと高値の麻薬を買うために国民は大枚をはたくだろう。そうなれば購買力は落ち経済は回らなくなる。やがて国勢も落ちる」
国力の低下につながるのだ。
「この地図は借りてもいいですか?」
「あぁ、構わん。というわけで、麻薬の密輸出を防いでくれ。裏商人どもは殺して構わん。必要なものがあれば可能な限りこちらで用意する。武器も情報も資金もだ」
何でも用意してくれるとは太っ腹だ。
【冥府からの使者】のころはすべて自費で用意していた。
「押収した麻薬はどうしますか?」
「燃やすか、海に流せ。人の手にわたっては同じことの繰り返しになるだけだろう」
◇◆◇◆
一度、マルクス王国に奪われたものの諜報部隊隊員になったことにより再び俺らが住むことになった家で三人は策を練ることにした。
「漠然としすぎてんな」
「そうですね」
ルカとイゼリナは、地図を覗き込みながらそういった。
「広範囲だな。海岸線と言ってもかなりの距離があるぞ」
具体的に策を練れるような有力情報はないからとりあえず行ってみるしかないんじゃないか?
「腹が減って考えられねー」
ルカはソファーにひっくり返った。
お前の場合腹が満たされてても考えることなんてしないだろう。
「何か作ってきます」
イゼリナはキッチンへと向かった。
本当に何も得られる情報はないのか…?
俺は、とりあえず各貴族の領地ごと丸で囲んでみた。
そして、囲まれた中にある印の数を数えて多い順にしてみる。
とりあえずメルラン伯爵領が一番多い。
しかし、メルラン伯爵領には港はないので貿易ができない。
次に港のあるエルメス侯爵領が多い。
陸路が使えないなら海路を使う―――港は絶対に使うはずだ。
「ルカ、見ろ」
俺はソファーにひっくり返っていたルカを起こす。
「んぁ? なんだよ」
「いいからこれを見ろ」
「さっきの地図のままじゃんか」
「いいからよく見ろ。書く貴族の領地を丸で囲んでみた。するとメルラン伯爵領やエルメス侯爵領内の印の数が多い。印は麻薬関連だって女王が言ってただろう?」
ルカはしばらく地図を見て俺の言ったことに気づいたらしい。
「ああ!! そういうことか!!」
「飯を食ったらとにかく現地へ急ぐ。とりあえず港のあるエルメス侯爵領へ行こう」
「ああ」
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