第二話 暗殺者、雇われる
―――マルクス王国 王城地下独房―――
「いや、こういうところのメシは不味いって聞いてたけど実際に食べると本当に不味いな」
「……不味いです…」
投降した俺たちはそのまま引っ立てられてこの独房に入れられた。
「誰のせいでこうなったんだよ……。ガーリックトーストにうつつを抜かして警戒を怠っていたどこかの誰かさん?」
「悪かったな、いい加減しつこいぞ」
俺らに軽口をたたき合う余裕があるわけではない。
【冥府からの使者】に所属していた暗殺者であることはもうバレてしまっているだろう。
そうであれば、無期懲役の投獄か、死刑は確実だ。
俺らは明日をも知れぬ身なのだ。
「しかし、このまま死ぬのもなんかイヤだな。いっそのこと脱獄にかけてみるか?」
ルカはにやりと笑いながら食べ終わった食器を置いた。
「バカか? 目の前の柵はどうみても鉄格子だろ……。どうみてもこれ切断できないし曲げることもできないぞ」
この独房は地下なので窓はない。
「食ったから寝る」
俺は横になって目をつぶった。
「つまんねーな」
ルカも同じように横になった。
イゼリナは壁によっかかって目を閉じた。
◆◇◆◇
「王女殿下、本当に奴らを登用するので?」
あごひげを蓄えた男がきらびやかなドレスを纏った少女に尋ねる。
その顔は渋いものであった。
「我が子国は諜報部隊が不足している。彼らを雇うのは名案であろう?」
「ですが……他国では【冥府からの使者】に所属していた暗殺者は皆、死刑ですぞ。我が国が登用したことが知れれば、他国からの非難を浴びましょうぞ」
少女は男とは顔を合わせない。
お前の顔は見飽きたと言わんばかりだ。
「他国は他国だ。そもそも彼らは我らのような者達が暗殺を依頼しなければ暗殺はしないのだぞ。彼らが殺される責任の一端は我々にあるとは思わんのか?」
男は苦い顔をする。
かつてこの男は政敵を【冥府からの使者】に暗殺を依頼して秘密裏に殺していた。
あまり知られたことではないが、王女はこの事実を知っていた。
「これは決定事項だ。そしてもう一つ。この諜報部隊関連の話に横やりが国内貴族から入らないよう私の直属とする」
諜報部隊創設の理由は、国内貴族の横行する不正をただすためだ。
不正を知られたくない貴族はもちろん反対するだろう。
だから、王族の直属部隊にし手出しできなくしてしまうのだ。
「以上だ。すぐにかかれ。私は彼らのもとに向かう」
◆◇◆◇
「おい、起きろ」
鉄格子の向こう側から声が聞こえて起きる。
仕事中なら、足音や気配だけで起きるのだが今は捕らわれの身だ。
その必要はないし、そうする気にもなれない。
硬いところに寝たため体のいたるところが痛い。
「なんでしょうか?」
ルカもイゼリナも眠い目をこすっていた。
「んぁ? 誰だよ、ルカ様の眠りを妨げた奴は?」
寝起きのルカは不機嫌なのだが今日は、寝心地が悪かったせいでいつもよりも不機嫌だった。
「おい、お前!このお方になんという口のききようだ!?」
このお方…? 口調から高貴な身分の人らしかった。
「知りませんね……」
イゼリナは横になって目を閉じた。
「貴様ら!このお方は」
「よいよい」
看守が怒鳴るのを少女がなだめる。
「王女殿下、無礼者を咎めなくてもよいので?」
きらびやかなドレスを着ている少女はこの国の王女だったのか……、確か名前は……。
「私の名は、ユリアナ・マリア・オートヴィル。一応この国の王族だ。話が合ってここに来た。彼らとだけで話がしたい。下がれ」
「ははっ!!」
看守はこちらをひとにらみすると帰っていった。
「あなたたちが【冥府からの使者】の暗殺者ですか?」
ユリアナは、こちらに微笑みかける。
「はい、少し前までは。解体後は仲間と過ごしておりました」
隠してもいずれバレてしまうことだから素直に言うことにした。
嘘を言えば、それこそ偽証罪で罪を重ねることになるしな。
「私はあなたたちは死刑にするつもりはありません。私の話への返答によってですが」
「それで、話の内容は何なんだ?」
ガバッとルカが俺の前に身を乗り出し話の続きを促した。
「そう急ぐな、これから話すところだ」
イゼリナも話が気になるのか体をおこした。
誰だって死刑は覚悟しているが死にたいわけじゃない。
「マルクス王国は、現在他国に比べると諜報能力の面において劣っている。それは国外に対してだけではなく国内に対してもだ。そこで私はあなたたちを雇って諜報部隊を組織したい。【冥府からの使者】が解体されたのは、隠密行動を得意とする者たちを雇うのによい機会だった。この話、受けてくれるか?」
ルカ、イゼリナを交互に見る。
二人には反対の意思はないようだ。
俺も可能であれば長く生きたいから諸手を上げて了承するといったところだ。
「その話、受けさせていただきます」
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