第一話 暗殺者、捕まる
国際的暗殺組織【冥府からの使者】通称オルクスが解体されてから数か月。
この組織は内部抗争がもとで分裂したことにより所在が
【冥府からの使者】は、どの国にも属することはなくただ暗殺の依頼を受けその報酬をもらうという組織であった。
どの暗殺者たちも暗殺をするための知識を幼いうちから徹底的に仕込まれておりその仕事は一流だった。
各国には、拠点となるアジトがあり世界的に幅広く活動していた。
◆◇◆◇
―マルクス王国王都クラディウール某所―
「おーい、食いもんと飲みもん買ってきたぞ。ちなみにこのガーリックトーストは焼き立てだぞー。食わねぇのか? 早くしねぇと全部食っちまうぞ」
目深にフードをかぶった少女はそう言うなり早くもガーリックトーストを食べようと口を大きく開いた。
「誰が食べないと言った?」
「んぁ? お前らも食うのか。チッ……量が減っちまったか……」
青年と銀髪の少女がダイニングルームに入ってきた。
かじりつこうとしていたガーリックトーストを目深にフードをかぶった少女が切り分けた。
「おいしいですね」
銀髪の少女はそのおいしさに頬が緩んでいる。
「美味いなこれ」
青年は、はむはむとあっという間に食べてしまった。
「食うの早えーなぁ。味わって食えよ。そういえば、こんな話を小耳にはさんだんだが、この国にも【冥府の
金髪の少女はもぐもぐしながら話をする。
「食べるかしゃべるかどっちかにしろ……。それでその残党は誰なんだ?」
「私たちの可能性が高いですね……おいしいこれ」
自分たちの存在が漏れていることは、かなり重大なことではあったが銀髪の眼中にはガーリックトーストしかないらしい。
「まあ……俺らにしろそうじゃないにしろ、この国からは残党がまだ見つかってない。潜伏してるって考えるのも当たり前だろうな」
「そろそろここから去るか? 名残惜しく感じるな」
フードを脱ぐと金色の髪が見えた。
目深にかぶったフードの姿ではこれは想像できないだろう。
「そうなるかもしれないな」
【冥府からの使者】解体後この街に三人は流れ着いて家を借りて暮らしていた。
生活するための蓄えは三人とも暗殺者として実力のある者たちだったのでそれなりにはあるから心配しなくてもよかった。
「ところでよー、なんかきな臭い雰囲気がさっきから漂ってねーか?」
言われてみれば人の気配の輪が狭まっている風に感じられる。
「お前に追手がかかってたか?」
金髪はぶんぶんとかぶりを横に振る。
「この『フェルカーモルト』とまで呼ばれたルカ様が追っ手を撒けないとでも思ってんのか?」
金髪は、【冥府への使者】に所属していたときの任務中に暗殺目標を暗殺した後、数十を超える暗殺目標の護衛たちをすべて切り裂いたのだ。
それから彼女は、メラーム海沿岸公用語(マルクス王国を含むメラーム海周辺諸国の共通言語)で大量虐殺を意味する〝フェルカーモルト″と呼ばれている。
彼女の二つ名でもある。
「追手がかかっていたのか。どのあたりで気づいた?」
「たしか……ガーリックトーストの試食をしておいしいから二つ目を口に入れたころからだったか……」
はぁ……と青年がため息を漏らす。
「イゼリナ、ちょっと外を覗いてくれないか?」
銀髪は大事そうに食べていたガーリックトーストをごくりと飲み込んで小窓のほうへとかけて行った。
「……玄関の前方に十二人いる。武器はスピアーが八の短銃が四。気配から察して裏口にもいる」
「多勢に無勢だな。しかも装備が向こうのほうが良いときてる。持てるだけの物をもって逃げるか」
青年は、財布をポケットにしまい金庫を開けて札を取り出し財布と同じようにポケットやパンツの中などの服の内側に詰め込んでいく。
「いっそのこと突っ込もーぜ!! そのほーが楽しぞ―だからよ」
金髪も服の内側に青年をまねて札や金貨を詰めてながらそんなことを言う。
「短銃の有効射程距離まであと二十m」
「イゼリナ、お前も逃げる準備しとけよ」
青年は納戸を開いた。
そして納戸の中からマスケット銃や短銃を取り出した。
その数十五丁。
「殺る気になったか? こっちにもよこせ」
青年はさらにいくつかの銃を取り出して金髪に投げ渡した。
「久しぶりだぜ、わくわくすんな」
「イゼリナ、準備はいいか?」
「はい」
青年は不敵に笑んだ。
「ルカ、小窓から銃を携帯してる奴から順に狙って撃て、イゼリナは玄関から敵の飛び道具なくなったら撃て。俺は裏口の方の奴らを殺る」
「こっちは任せろ、ウへヘヘッ、死にな!!」
金髪は、小窓を叩き割りそこから銃を撃ち始めた。
青年は、裏口のほうへと向かい躊躇なく外扉を開けた。
そして、リボルバー式の拳銃から無情の一撃を次々と撃ち出す。
ダンッダンッダンッ!!
半円状に裏口の扉を囲み今まさに突入しようとしていた敵は次々と倒れ伏していき庭を赤く染めた。
青年が金髪と銀髪のところへと戻ると二人は空になった弾倉に弾を込めていた。
「今の銃声でこいつらの仲間か、軍か治安維持隊のどちらかが来るだろう。さっさと逃げるぞ」
「あいよ」
三人は扉を開けて風のように走り出した。
が、それもつかの間だった。
前方にマスケット銃で武装した百余りの部隊が展開していた。
「いや…まいったな……」
「これはどうしようもねーわ」
「……降参…」
三人は武器をすべて下に投げ出して、両手を上にあげた。
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