13話 迫る謎、深まる謎


 そんなわけで、私たちはダンジョンへと移動した。


 バドさんたちが先行して、私たちが彼らの後を追いかける。

 その道中で不審な人や魔物──とにかく、普通じゃないものを見つけ次第、証拠をおさえてほしいとのこと。


 先日の様子から察するに、狙われてるのは明らかにバドさん含めたサグズ・オブ・エデンの面々。

 だからあえて、囮になってやろうって作戦だった。


 サグズ・オブ・エデンのメンバーはバドさん、リーゼン、カタの三人。

 本当にバランスが取れてて、隙がなかった。

 三人の圧倒的な実力を押しつけるんじゃなくて、チームワークで勝負する戦闘スタイルが主体なんだよ。


 せっかくだし立ち回りの勉強を、なんて考えてたそのとき。

 鼻孔をくすぐる花の匂い──あのときと同じだ!


「ぐ、あああああ……ぁぁぁあああ……」


 先頭で槍を振り回していたリーゼンの手が止まり、急に頭を抱え始めた。


「おい、どうしたリーゼン!」

「う、があああああああぁあああぁぁあァァァァァ!!」


 唸り声をあげ、声をかけたバドさんを突き飛ばしたリーゼンは、そのまま槍を振り回しはじめた。

 無造作に振るってるように見えて、確実にバドさんとカタを狙ってた。


 きっかけがあったってことは、私たち以外に絶対誰かいる……!


「あ、あの人……!」


 辺りを見渡してみると、ほとんど姿が見えなくなったけど、確かに私たちから走り去るおじさんの姿があった。


「あいつがなんか知ってるみてえだが、と!」


 今すぐにでも追いかけたいところだけど、リーゼンの槍がそれを許さなかった。

 バドさんも避けるだけで精一杯で、それどころじゃなかった。


「バドさん!」


 タイミングを合わせ、リーゼンが振るう槍をノルくんの剣が受け止める。

 本人の意思とは無関係に振るわれたものだったけど、もともとの冴えがここで活きてる。


 グラさんのバフがかかってるにも関わらず、ノルくんは苦痛に顔を歪ませてた。

 それでも、しっかりと受け止めてる。

 少しでも流れをよくするために。

 

「ここは俺たちが! 早くアイツを追ってください!」

「わりィ、頼むわ!」


 言われて、駆け出すバドさん。

 たったひとりで、自分たちをハメようとしていた元凶に少しでも近づくために。


「──ッ!」


 だけど、それはダメ。

 このあと、バドさんにとってよくないことが起こる。

 絶対に、この人をひとりにしちゃいけない。


「ノーブル、グラフィス! ごめん! 私、バドさんを追いかける!」


 気がついたときには、私の足は動いていた。


「コヤケさん!?」

「わかりました。バドさんのこと、任せましたよ! 貸しイチです!」


 ノルくんは驚いているけど、グラさんは私の考えを察してくれたみたい。

 ほんと、いつもお世話になってます!


「ありがとう! また、あそこのシュークリーム奢るね!」


 あ。


「また!? 今、コヤケさんまたって言ったよな!? お前たち、ふたりだけであそこシュークリーム屋に行ったのかよ!?」


 わああああ、グラさんほんとにごめん!

 私の背中をめっちゃ睨んでる気がするし、言いたいこともあるだろうけど、今はこっちを優先しなきゃだから!


 バドさんのバフで強化された脚のおかげで、おじさんに追いつくまでそこまで時間はかからなかった。


暴焔ランペイジフレイム!」


 ずっと先に狙いを絞って放った大爆発。

 おじさんに当たらないか冷や冷やしたけど、なんとか足止めになったみたい。

 火力のコントロールはまだできないからね、うまくいってよかった。


「逃がさねえぞ、とォ!」


 バドさんが足を振りぬくと、勢いをそのままに彼が履いていたサンダルが飛んでいく。


 サンダルは見事おじさんの頭にクリーンヒット。

 そのまま、地面に倒れ伏した。


「おい、アンタがウチのモンにちょっかいかけてきたのか? ええ?」


 おじさんの胸倉を掴み、バドさんが自分の方へ引き寄せた。


「ま、待ってくれ! 私にもなにがなんだかわからないだ! そもそも、アンタたちは誰なんだ!?」

「は……? どういうことだ、それ」


 驚きの声とともに、胸倉を掴んだ力が緩む。

 むせながらも、男性が答え始めた。


「俺はただの大工だ! 気がついたらここにいて、アンタらに追いかけられて……訳がわからない!」


 冒険者でもなんでもなくて、大工……?

 じゃあ、なんでダンジョンの中にいるの? 見たところ魔法の心得があるようには思えないし、武器だって持ってない。


 丸腰で、わざわざこんなところに来るなんて考えにくい。

 しかも、本人の意思とは関係なく来てるみたいだし、リーゼンのときと状況が似てる。

 

 アニメでもこの状況がよくわからなかったけど、本当になんなの……?


「よく見たらアンタ……サグズ・オブ・エデンとかいうチンピラ集団の親玉じゃないのか?」

「ああ、そうだよ。それがどうした?」

「こうやって私のことを追いかけ回したのも、金目のものが目当てなんだろうが……そうはいかないからな!」


 怒りを露わにしたバドさんを前にしても、おじさんは態度を崩さない。

 それどころか、口調がどんどん強くなっていった。


「アンタみたいな奴ら、私はずっと気に食わなかったんだ。最初から街にさえいなければ、こんなことにはならなかったのに!! クズばかりでパーティーなんか作って、仲間ごっこをするのがそんなに楽しいのか!?」

「あ?」


 さっきまで黙ってたバドさんだったけど、サグズ・オブ・エデンみんなの名前が出た瞬間に纏った雰囲気が一気にピリついた。

 本当に少しの変化だったけど、このままじゃマズい……!


「バドさん、ここは私に任せてください」


 私の言葉に振り返ったバドさんの顔は、本当に怖かった。

 普段笑顔を浮かべている人だから、余計にそう感じるのかも。


 でも私の顔を見てすぐ、顔中に悲しみの色を浮かべて目を伏せてしまった。


「わりィ……」


 私の言葉の意味をわかってくれたみたい。

 冷静さを取り戻して、一歩後ろに下がった。


「ねえ、おじさん。詳しく話を聞かせてもらえませんか? 私たちにとって、すごく大事なことなんです」

「さっきも言ったが、俺にもよくわからないんだ……。ここに来るまでの記憶がすっぽり抜け落ちてやがる。ついさっきまで、普通に仕事してたってのによ──」


 そのあと、おじさんから色々と話が聞けた。

 私の頭の整理がてら、少しまとめてみるね?


 いつも通りに仕事をしてたら、急にいい匂いがして気がついたらこの場所に来てたみたい。

 で、次に意識を取り戻したのがこのダンジョンのど真ん中。

 私たちから逃げたのは、気が動転して体が勝手に動いたからなんだって。


 おじさんの言葉をそのまま信じるなら、匂いがきっかけでなにかが起きてるってことだよね。

 それこそ、私たちがさっき嗅いだ花の匂いみたいな。


 誰かに操られていたのかも、って考えられないこともないけど……そんな魔法、聞いたこともないもんね。

 グラさんなら知っているかもしれないし、あとで聞いてみようかな。

 

 そんなわけで、今日のダンジョン攻略は一旦撤退。おじさんを街まで送り届けよう、という話になった。

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