12話 不穏の足音

 

 あのあと、無事にバドさんとのダンジョン攻略は終わった。

 後日また、別のサグズ・オブ・エデンのメンバーとも、あいさつがてらダンジョンを攻略をする約束をして数日後。 


「やっとあのシュークリーム屋にいけるなあ。楽しみだ」

「そ、そうだね」


 私、グラさんと行っちゃったんだよなあ。

 なんだか、ノルくんのことを騙してるみたいで気が引けちゃう。


 そのことを察してか、グラさんが鬼のような形相でこっちを睨んでる。

 大丈夫、大丈夫。そんな顔しなくたって言わないから。


 さて、そんなわけで今日は数日に一回のオフ日。

 たまにこうやってみんなで出かけて、気分転換と親睦を深めることが主な目的だったり。


 ノルくんとデートと思ってたんだけど、なにやら人だかりができてる。どうしたんだろう?


「コヤケさん!」


 昨日私たちが助けたお下げの女の子──セイマネが声を飛ばしてきた。


 一番後ろで様子を見てたみたい。

 ものすごく慌ててるし、なにか知ってるかも。

 

「セイマネ、なにかあったの?」

「それが……」


 ちらり、と視線を人だかりの奥にやるセイマネ。

 小柄な体じゃ上から見るには、背伸びしたって無理だよね……。


 隙間からギリギリ様子を窺ってみると、男の人に怒られてるバドさんの姿があった。

 と、その横にいたのはたびたび見かけるリーゼン=ツッパリー二だった。


「ウチのがご迷惑おかけしちゃったみたいで。ほんっとすんません」

「すまんで済んだら、ウチも商売成り立たねえんだよ! あんたらにはいつも世話になってたけど、こんなことされたんじゃたまったもんじゃねえ!」


 言われて、バドさんがリーゼンと一緒に再び頭を下げた。


「さっき、お店番をしてたサグズ・オブ・エデンの人が暴れたみたいで。お店の商品をめちゃくちゃにしちゃったみたいなんです」

「そんな……」


 さらに話を詳しく聞いてみると、こういったケースはここ最近珍しくないんだって。

 サグズ・オブ・エデンといえばダンジョン攻略以外にも、色々手広くやってるって話はノルくんも言ってたっけ。


 それこそお手伝いからなにから。

 そのほとんどで、今日みたいなことが起きてるんだって。

 

 幸い、人がケガするような大きな事件にはなってないみたい。

 まだ商品や物だけの被害で済んでるのはバドさんが止めるなり、周りのメンバーが引き留めてるからこそ。


 でも、この数週間で信用もガタ落ちしてるんだとか。

 実際に会ったのがあの1回だけだし、そんなに知ってるわけじゃないけど、ノルくんの話を聞いたりアニメを見る限りそんなに悪い人たちには見えないんだよね。


「これだから嫌なんだよな、チンピラ集団ってのは。そのリーダーがアンタみたいなチャラチャラした男なんて、なあ?」

「言わせておけば──!」

「やめろ」


 怒るリーゼンを引き留めて、バドさんは謝罪の言葉と一緒にもう一度頭を下げた。

 店主さんがその場を去ってからも、しばらく頭を上げることはなかった。


◇ ◇ ◇


 ただ、その光景が見ていられなくて。

 騒動が落ち着いてからも私たちはバドさんとリーゼンの姿から目が離せなかった。


 いったい、どれくらい頭を下げてたんだろう。

 再び顔を上げて、足を進めたふたりの顔には悲しみ──というより、悔しさで満ちていた。

 でも私たちの姿に気がつくと、無理やりに笑みを作ってみせた。


「わりィ、ダサいとこ見せちまったな」

「いえ……それよりも、どうしてこんなことに?」

「それが、なんにも覚えてなくてよ。急に頭がフワフワして、気がついたら店の中を荒らしちまってたんだ……。情けねえぜ、不意打ち食らってこのザマなんだからよ」

 

 ノルくんの言葉を聞き、リーゼンが悔しそうに答える。

 実際、サグズ・オブ・エデンのダンジョン攻略担当、ということで腕には自信があるんだと思う。

 そんな彼が抵抗することもなく不意打ちされて、意識を奪われて。

 今、こんな結果になってる事実。


「俺たちがそばにいてやりゃよかったんだけどよ。あいにく全員別件で離れててな」

「アニキらはなんも悪くねえよ! 悪いのは全部──」

「俺だ、とか言うんじゃねえぞ。いいとこも悪いとこも、全部俺らのもんだ。手前ひとりで背負い込むことは許さねえ。……つってもな。このまま黙って見過ごすわけにはいかねえ。ウチの奴らがそう何度も悪さするとは思えねえからな」


 長い年月、ふたりのことを見て、人となりを理解しているバドさんが言うんだから間違いはないと思う。

 それに、私だってふたりのことは作品を通して知ってる。

 だからこそ、こんなことを繰り返すのはおかしい、って私も思ってる。


「なあお前ら、俺らに手ェ貸してくんねえか? 憶測に過ぎねえが、なんかしらの手段で俺らをハメようとしてる奴がいる。そいつを炙り出してえんだ」


 唐突に告げられたのは、バドさんからの提案だった。


「もちろんですよ! そんなの、俺たちも納得できないですし。ふたりもそうだろ?」


 はい、以外の選択肢が用意されてないような問いかけだけど、もちろん私の答えは決まってた。


「うん、行くに決まってるよ! グラフィスも、ね?」

「わかってますよ、昨日の話を聞いて引き下がれるほど私も腐ってはいません。それに、サグズ・オブ・エデンに貸しを作っておいて損はないでしょう」


 グラさんの動機が少しズレてるのは気のせいとして。

 バドさんたち、サグズ・オブ・エデンの人たちがなんの理由もなく暴れ出すなんて、とてもじゃないけど考えにくい。

 きっと、ノルくんが死んじゃうきっかけにも繋がってると思う。

 そのきっかけが少しでも知れるなら行かない手はないよね。

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