8話 花の香りが紡ぐ出会い


 と、いうわけで私たちは早々に朝食を済ませ、ダンジョン内へと足を運んでいた。

 昨日と同じ層だから、メインになる相手はゴブリンだと思う。

 戦った経験のある相手だから、私でもある程度は対応できるはず。

 

「よ……っし」


 無意識のうちに、私の口からは声が漏れていた。

 時間は待ってくれないんだもん、今日得られそうなものはなんでも持って帰るんだ。


「いいな、コヤケさん。やる気満々じゃないか」

「気持ちが入りすぎて空回りしないといいんですがね。私たちのカバーにも限度というものがありますから」


 ふたりからそれぞれ声をかけてもらい、気を引き締めた同時。

 ふわり、と私の鼻孔をくすぐるのは、花のような香り。

 今にも寝てしまいそうなその香りに一瞬、くらっと意識を持っていかれそうになるけど、ここはダンジョン内。

 気を確かに持ち、辺りを見渡す。


「ん……? あ、あの人たち!」


 ちょうど、私の視界の端。

 大柄な男ふたりが、女の子ひとりに迫っていた。

 どう考えても、普通じゃない。


「仲良くダンジョン攻略、というわけではなさそうですね」


 グラさんの言葉通り、どう考えても人が人を襲ってる。

 しかも、一方的に。

 とてもじゃないけど、おいそれと見過ごせるような状況じゃないよね。


 ノルくんがぐっと腰を落とし、そのまま剣に手をかける。

 その動きに合わせ、グラさんが背に手をかざす。


「グラフィス!」

「もうやってます!」


 ノルくんの健脚に、グラさんの補助が加わる。

 そのままノルくんは一瞬で距離を詰め、対象のもとへ。


「はっ!」


 ノルくんが割って入り、一閃。

 剣ではなく鞘による打撃で、ふたりの延髄を叩いて昏倒させた。

 やっぱり、ノルくんもグラさんもすごいや。ナイスコンビネーション。


 私とグラさんが追いかけている間、ノルくんは呆然と立ち尽くしていた。

 どうしたんだろう、とは思わない。

 あの匂いを嗅いだときから、嫌な予感がしていた。

 

 人を攻撃したことをどうこう、とか。

 目の前の女の子が、ノルくんが到着する前に傷ついてた、とか。

 そういう理由じゃない。もっと、他の──


「どうしたんです、ノーブル?」


 グラさんが、心配そうにノルくんの顔を覗きこんだ。


「この、ふたり……!」


 ノルくんも気がついたみたい。

 さっき気絶させたのは、昨日、私が接触したカタ=パッティーノとリーゼン=ツッパリーニのふたりだった。


 ちょうど今朝、ノルくんが話してくれたばっかりだよね……?

 サグズ・オブ・エデンの人たちは、人情を大切にするパーティーだって。

 人を襲うなんて考えられない。私だって、作品としての〝あんきも〟を通して知ってる。


 でも、目の前にいるのは紛れもなくサグズ・オブ・エデンのメンバー。

 なにがどうなってるのか、全く理解が追いつかなかった。


 アニメを見てる私でも、一切理解できなかった。

 この光景を見るのは初めてじゃないけど、やっぱり辛いものは辛い。

 

 ただ、私以上にショックを受けているのはノルくんだと思う。

 自分が憧れていたサグズ・オブ・エデンのメンバーが、無抵抗な人を襲ってたんだもん。

 理由はどうあれ、受け止めきれないよね……。


 そんなときだった。

 どかどか、大股で近づいてくる人物がひとり。


「あ? なにやってんだ、お前ら」

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