5話 フラグへし折る第一歩


 駆け出し、私が向かっているのは冒険者ギルド。

 冒険者たちが仕事をもらったり、その仕事に応じた報酬受け取ることができる施設だよ。

 ってことは、当然冒険者がたくさん集まるってこと。

 私が探している人たちも見つかるってわけ。


 エールの香りで満たされたこの空間。

 人がたくさん集まる中で人探しって、骨が折れると思うでしょ?

 実はそうでもないんだよね、これが。


 この時間帯なら、ダンジョン攻略を済ませてエールを呑みながら一息ついて……って、いたいた。


「こ、こんにちはっ」

「あん? なんだ、お前……?」

「なんか用でもあんのかよ?」


 私の声に反応したのは、トゲつき肩パッドを装備したスキンヘッドと、隣に立つのはリーゼント頭のツッパリ。

 カタ=パッティーノとリーゼン=ツッパリー二のふたりだ。

 確か、サグズ・オブ・エデンでも名物コンビだったよね。

 改めて実物と対面すると、迫力あるなあ。


「え、ええ。あなたたちのリーダーに会わせてもらえない?」


 この人たちが私の探していた人──に、関わりのあるふたりなんだよ。

 見た目が見た目だから、まずは目立つこの人たちを探そう! っていう作戦だったけどうまくいってよかった。


「リーダーにィ? どういうつもりだ、あァん?」

「バドさんはそう簡単に会えるお人じゃないんだぜ?」


 ふたりが所属するパーティー〝サグズ・オブ・エデン〟。

 この街でも、知らない人の方が少ないパーティーだと思う。

 それはパーティー攻略以外にも色々やってたからで……って、この話はまた今度ね。


 で、私がこの人たちに関わった理由。

 それが、この人たちがノルくんの死に直接の原因になってるから。

 私が部屋で最後に見た光景、ノルくんをボコボコにした人たち──それがサグズ・オブ・エデンのメンバーだったんだよ。

 

 だからこそ、行動あるのみ! と思ってここまで来たけど、やっぱり警戒されちゃうよねー……。

 ここからどうしよ……。


「やれやれ、誰かと思えばコヤケさんじゃないですか」


 聞き覚えのある声を聞いて振り返ると、ローブ姿にメガネの男の人──グラさんがそこにいた。

 ぐ、グラさあああああああんっ!

 ちょうどさっき、ファンの子たちの対応を終えて疲れているはずなのに……。

 

「ぐ、グラフィス! どうしてここに?」

「それはこちらのセリフです。あなた、ノーブルといたハズですよね。なぜ、サグズ・オブ・エデンの方と一緒にいるんです?」

「ちょっとこの人たちに用があって、それで……」


 ノルくんが死なないためにこの人たちから情報を~って話、できるわけないよね……。

 グラさんを仲間にできたらこれ以上ないくらい頼もしいけど、別の世界から来た、とかそんな突飛な話急にされてたらどうだろう?


 少なくとも私だったら、すぐには信用できないと思う。

 だからこそなにか他の理由を考えてはいるけど……ダメだ、なにも出てこないや……。


「まあいいでしょう。私とノーブルに黙って行動していたんです。なにか話せない理由でもあるんですよね?」


 図星である。

 で、多分私めちゃくちゃ顔に出てたんだね……。

 グラさんは、はあっとため息をつき、言葉を続けた。


「詮索はしないでおきます。ですから、あなたが話してもいいと思ったら、キチンと事情を話してください。いいですね?」


 言って、グラさんはカタとリーゼンの方へと歩を進めた。


「あん? なんだお前」

「私はそこの女の子と同じパーティーに所属しているグラフィス、と申します。以後お見知りおきを」


 言って、丁寧に頭を下げる。

 ザ・他人行儀スイッチの入ったグラさんだ。


「先ほどウチのコヤケさんがご迷惑をおかけしてしまったようで、本当に申し訳ございません。ここはひとつ、私の顔に免じて手打ちにしません?」


 グラさんの丁寧な対応で、さっきまですごんでいたふたりも落ち着きを見せた。


「お、おお。別に俺らだってそこまで怒ってるわけじゃねえさ。急にリーダーに会わせろ、なんて言われたからついな。こんな時期だし……」

「こんな時期?」

 

 時期、という単語。グラさんが聞き返した言葉に、リーゼンの隣にいたカタが肩を小突いた。

 なにか、マズいことだったのかな。


「あーいや、ただの独り言だ! つーわけで、俺らはもう行くわ! あんたも、あんま人選ばずに絡むの、気をつけた方がいいぞ!」


 最後が一息に色々言葉を吐き、ふたりはその場を去っていった。


◇ ◇ ◇


「やれやれ、嫌な汗をかきましたよ」

「……お手数おかけしました」


 お詫びとお礼を兼ねて、シュークリームを奢らされた。

 あ~……ノルくんとの初デートのときにお店に入りたかったけど……背に腹は代えられない。

 なにより、グラさんに助けられたことは事実だもん。


「まあ、構いませんけどね? 理由はわかりませんが、あなたのおかげでこうして甘味にありつけているわけですし」

「本当に、なにも聞かないの?」

「なんです、聞いてほしいんですか?」


 私は、全力で首を横に振った。

 グラさんが相手でも、こればかりは言えない。

 多分、彼なら受け入れてくれる可能性はある。


 けど、余計な混乱は招かないに越したことはない。

 もし伝えるにしても、それはきっと今じゃないはずだから。


「でしょう? 無理に聞いても、欲しい答えが返ってくるワケでもなし。今はのんびり待たせてもらいますよ」


 やっぱり、この人の空気を読む力はすごい。

 きっとこの先、グラさんの目に見えない気遣いに何度も助けられるんだろうなあ。

 助けてもらう前提なのが、本当に申し訳ないところだけど……。


「あ、コヤケさん。あのドーナツ屋さんも美味しいと評判なんですよ。私、とても興味がありますねえ」


 本当に邪気のない爽やかなスマイルを見せてグラさんが言う。

 彼の本当の姿を知らない人からすれば、絵になる光景なんだろうね。

 でも、私にとってはあと何軒ぶんの甘味を奢ることになるんだろう。ひしひしとこみ上げる恐怖しかなかった。

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