第17話 ライトなセイバー対刀

 帝国二つと王国一つ、その三ヵ国対宗教の大戦が始まって半年が経った。

 宗教勢力が有利に動きつつ、呪いで汚染された領土が広がる為、国家は宗教という相手と、呪いによる被害の、内外から軍隊が崩れていく。

 そも、戦場の前線付近に死体が集められたり、戦場の場に怨念が溜まりやすくなるので、呪いが不特定多数の場所で発生する。

 放置すると大惨事なので、宗教側は聖属性のフィールドで浄化しつつ、三ヵ国の外側へと信者や武装勢力が順次撤退していく。

 聖属性による呪いの浄化は効き目が薄く、消したと思っても汚染が残り、そこから呪いが発生しているようだった。

 そこで物理的封印を遂行すべく、三ヵ国を宗教勢力が用意した、鉄材を使って鉄壁の包囲網を築く。錬金術と魔法で、高さ五十メートル、幅は三ヵ国を覆う長さで、円形状な鉄のカーテン。壁の厚さは十メートルもあるが、錬金術で玉鋼を増やしたので量が少なくても何とかなった。

 呪いは鉄壁によって弾かれる。いや、鉄壁の上に撒かれた塩による効果が正しいか。


 鉄のカーテンは地下にも伸びて埋め込まれる。だいたい深さが二十メートル、円形かつ厚さ十メートルの追加増築だ。

 更に、土魔法と錬金術を併用して地中から三ヵ国分の円形に合うよう、底部分が作られていく。厚さは一メートルで、三ヵ国を円形にした面積分の玉鋼の消費は、教団の財政が傾くのに充分な威力だ。

 しかも、蓋部分も作り、一旦空中に浮かせて、円形から球体にしつつ三ヵ国を封印する。また、鉄壁の中に塩を詰めるので、その塩の購入や複製費用も掛かる。

 マリア教の財政がかなり危ないが、資源の枯渇には至らない。

 何故なら、錬金術師と魔法使いが共同で複製する為、人件費と魔力と触媒の費用が、財源の圧迫に繋がっている為だ。

 尚、質量保存の法則は、魔法や超能力とかで無視する。




 そんな大規模な鉄球封印の作業を進めつつ、壁を越えて国外へと向かう特級呪物の集合体を、国内へと叩き返す特殊部隊が編成されている。

 ダメージはあまり与えられないが、作用・反作用、衝撃波は食らうので、壁の上から狙い、登ったり近づくモンスターを牽制する。

 呪いから産まれしモンスターは特級呪物カースと呼称され、魔剣や妖刀、魔弾の掃射で押し留めている内に、封印する。

 カースは死体同士が潰し合い、家や武器が潰し合って、生き残った存在が多い。

 しかも、家と死体が混ざったカースもいるし、カース同士で潰し合い、更に強力なカースが誕生する。

 だが、これは序の口。外縁部のカースが外に出ようともがいているに過ぎない。

 円形の中心部は潰し合いが一段落着いたのか、秩序だった動きが見られる。

 カース同士での強さによるカースト制でも決まったのか、はたまた不死身に近いから潰し合いをしても無意味と悟ったのか、人型や武器、乗り物、建物、植物、血液、ガス状のゴースト、岩や砂。八種類のグループで固まっている。


 そんな地獄の釜の中へと、一人の魔法使いが突入し、牽引していた剣士を放り込むと、さっさと離脱していく。

 剣士は落下しながら、宙空に留まるカースを刀で切り捨て、その切る際の抵抗力と膝のバネの反動を合わせて、少しずつ落下速度を減速させる。

 雑魚はていの良いクッションであり、如何なる形状や巨体であろうと、本命の大将首たる存在以外眼中に無い。

 バラバラに攻撃してくるだけで、無差別な狙いは同士討ちの元だ。いくら頑丈でも、同族ないしは同じ属性の攻撃に対して、カースは無力。

 そして玉鋼で出来た刀を振るう剣士の前で、無意味な防御反応ごと切られては徐々に消失していく。

 地面の上を五転倒置で衝撃を殺しつつ、ほぼ無事に着地した。

 生命反応に殺到するカース達を、散歩するついでに切り捨てていく。

 ガス状のゴーストだろうが、建物の集合体だろうが、鍛え上げた剣技や古武術の前では、等しく一閃すると死んでしまう。

 雑魚を切り払い、消失させていく事しばし、大規模なコロニーのようなグループと衝突した。

 骸骨が多く、金属製の手足や鎖骨がある、スケルトンのカース集団だ。殺し屋のクローンの成れの果てでもある。

 一般的なスケルトンに刀剣はほとんど効果が無い。打撃や刺突、貫通、摩擦、斬撃、衝撃、物理攻撃に耐性を持つので、例え核兵器並みの熱量を、科学的な道具で使用しても一時的な粉砕にしかならず、やがて復活する。

 だが、魔法には弱い。聖属性や光属性、炎と雷、土属性が効く。無属性や闇属性でも削れるが、聖属性がよく通る。

 はず、だったが、カースのスケルトンは魔法も効かない。

 呪力が魔力に聖属性を弾き、超能力にも抵抗力を持つ。

 人や人が作ったモノに宿る霊魂、その負の感情が呪いの根源になり、愛情や欲情が反転して、死んだのにも関わらず動き出す。

 怨みや後悔が生きる原動力となり、生き残ったカースは学習して強くなる。

 そして中心部のカースは、魔法や超能力等の異能を扱える存在へと、進化しようとしていた。


 このままではカースという存在が亜人となり、他の亜人と一緒に人間が家畜となるか、滅ぼされる可能性まである。

 そこで、封印しつつ数を減らすべく、破魔の使い手たるライトを召集し派遣した。

 本人も原理が分からないが、破魔なら呪いにも対抗できる。どんなに不利なフィールドでも、どんなに硬く、不可思議な力場を張っていようと、一刀一閃で雑魚は死ぬ。


 上位の怨念、いや、上位のカースたる不定形なガスや硬い岩、デカい建物、再生力の高い植物、武器に操られる人型達は、数合ほど切り結ぶも、古武術の合理的な人体駆動と、度重なるシミュレーションによる予想の前では無力。

 武器を操るなら兎も角、操られる人型のゾンビやスケルトン、リザードマン等の死体は、生前よりも強いとは言え、武器は肉体のスペックに振り回されるだけである。フェイントや尻尾、羽とかを使わないなら人間と変わらない動きであり、ゴリ押しで勝てる程古武術は甘くない。


 大半のカースを切り伏せるも、ライトは一人なので、物量戦となると討ち洩らしが出てくる。

 その討ち洩らした中に上位のカースが潜み、ひっそりと進化し戦闘を観察していた。

 見た目の種族としては吸血鬼がベースで、影が多いとはいえ昼間でも動ける真祖だ。

 血濡れな剣の光沢に映した自らに名を付け、存在を固定化した受肉を行う。

 呪いと魔力が変質し、吸血鬼としての固有能力が変異を始める。

 環境、敵、自分の力量と味方、それぞれに対して優位に立つべく、理想とする異能を思い描き、武器と味方を増やす。

 まず、武器のカースを従える。素手でライトの相手は無理と判断した。作る手間も省きたい。

 味方は付近のカースを、呪力で編み出した魔法で縛る。手数が足りないなら同胞を使うのみ。

 能力は生存に活かせて、時間、空間、質量が扱える欲張りなモノ。

 十全とはいかないが、準備が整うと、味方の進化や従属化の時間稼ぎに移らねばならない。

 呪力版の魔法は燃費最悪なので、魔力を用いた魔法を習得しながら、異能を使って手持ちの剣を強化する。決して折れない魔剣、離れても戻ってくる上、自律した動きも可能なようにカースを従えていく。



「……準備はいいか?」

「気付いていたのか。あぁ、待たせたな。お前等退け!」

「剣豪、ライト。いざ、尋常に勝負!」

「吸血鬼のミッドナイト。いざ、参る!」



 ミッドナイトの号令により、一対一でライトと決闘を行うべく、カースが引いていくと空白地帯が出来上がる。

 残ったミッドナイトとライトは、短く名乗りを上げ、双方共に構えた。

 ライトは戦場刀を抜き、ミッドナイトは炎と雷の属性を合わせた魔法剣である、セイバーを剣のカースから放つ。

 大気を押し退けるくぐもった音と、振るうか細かく動かす度に短くも重い風切り音を発する。

 剣そのものを高い電熱で纏えば、折れないし、簡単には近寄れない。やがて柄から上が無くなるだろうが、魔法で剣身は作れる。


 状況を簡潔に言うなら、現代的な武士対吸血鬼の騎士だろう。


 セイバーがどのような威力を持つかは、ライトには分からないが、刀を合わせると溶断されてしまう事は、想像にかたくない。

 此方の構えに細かくセイバーを動かす挙動から、未来視か予測魔法とかが使えるのだろう。或いはブラフか。

 いずれにせよ、進化したてでろくに鍛練すらしていない素人。が、カースのスペックで振るう、雷を凝縮した道具頼りでチカラ頼り。

 目前のカースが魔法を使う以上、他のカースも魔法やら異能が使えると見るべき。

 相手の光剣セイバーを掻い潜り、一閃見舞うしか勝ち目がない。

 通常は相手の太刀行きを見極め、間合いを測るものだが、光剣では剣が伸びるだろうし、素人の剣すじは不安定なので読みにくい。

 夢想剣という、生き残るのに必死な農民が振るった剣が、格上な使い手を打ちのめす剣術未満の技がある。

 剣術を習っていても、素人に負ける事がある以上、不規則な剣筋は怖い。なまじ中途半端な分、読めそうだからと受けると、鍔迫り合いになるより先に此方の体勢が崩れる。りきんで踏ん張ると、相手が崩れつつ振り回すから避ける必要がある。

 長期戦をする場合、玄人にとって、素人は何をするのか分からない存在だ。

 中途半端に剣をかじったアマチュアは、御しやすい面もあるが、所々が素人なので、やはり面倒となる。

 今回は道具である光剣も厄介だ。触れただけで融ける。皮膚が焼け、手足が焼き切れてしまう。

 観察に徹し、流派を切り替えて構えを変える。相手は未来がえているなら、構えも変わるし、その構えから光剣を使う流派を読み解く。

 生まれたての剣技と侮るなかれ、此方の構えをベースに光剣に使える構えをトレースして、光剣を振るうに適した構えを見いだす。それが続けば流派となる。中身が無くとも危険なモノとなるし、後から理想を付け足す事で流派の一つにもなるだろう。

 故に、流派や型の押し付けをしていく。

 将棋で言うと、鏡打ちに近いだろうか。その途中で変化をつければ、対応は難しいモノとなる。

 学習しつつ流派の弱点を補い、未来の攻撃を抑止する。成る程、時間稼ぎにはなるだろう。

 いや、それが目的か。


「小癪な……」


 ライトは大上段に構え、示現流の雷耀らいようを繰り出そうとする。

 蜻蛉と呼ばれる独特の構えから、迷いなく一息に振り降ろすことで相手を斬り伏せる。所謂、一の太刀に全てを賭けた技。本来は気迫と猿叫の如き大声を出しながら間合いを詰めるのだが、カース相手に、叫んで怯む事は無いので省略している。

 命賭けの一振り、太刀筋は真っ直ぐ上から下へ。


 ミッドナイトは受けるべく光剣を横に構えるも、違う未来が見えたのか、中段に構えた。


 ライトは振り下ろす途中で、太刀筋を強引に変えて、振り下ろす軌道をずらした。これはかなり難しい事である。

 が、意図的にずらすのは難しくない。振り下ろした瞬間に切っ先を上げて突きに掛かる。

 次は蛇太刀じゃたちを繰り出す。切っ先を正中線から、あえてずらした状態で突きを繰り出し、対象が防御行動に出た直後に、ずらした切っ先を正中線に戻す。もしくは体ごと切っ先を、ずらすことによって軌道を捻じ曲げ、防御を躱す技。錯覚を利用するので、ほぼ防げない。

 また、影抜きという技も使う。相手の刃の下から少しずれた場所に身体を置き、太刀が交錯する瞬間に太刀と身体を動かす事で、相手の刃をすり抜ける。

 まったく関係ない場所を打ち込みつつ、変な場所へ踏み込むので、蛇太刀と影抜きを同時に使うと体幹もブレてしまう。

 足も踏み込む際に内側に力を入れると、親指と踵が一本の棒のようになって安定するが、外側の小指から踵に力を入れると、内側へと力が向かうので不安定になる。

 振るう際の柄への握りも少し離すと、太刀筋はずらしやすい。が、これは虎切や燕返しにも派生しやすいので、握りが甘いとかは流派の解釈や技の用途別となる。


 ミッドナイトはライトの刀に注意する余り、体幹や足捌き、握り具合は見ていない。いないのだが、未来視の魔法で一撃を浴びる事を回避していく。

 三秒先の未来を、一秒間隔で視続ける事で、食らう過程も分かる。

 それでも、見当違いな方向に刀を振るう、ライトの攻撃が此方を捉える瞬間があるので、気が抜けない。

 軸も重心も刀の太刀行きも一見してバラバラなのに、瞬間的に速いのだ。

 当たれば焼き切れるから、刀と光剣は交わらないが、光剣を潜り抜けたら、ミッドナイトは切られる。

 だから、光剣の手元を狙うか、足を狙うと見ている。あくまでも未来視は回避用に使っているので、時間稼ぎも可能だが、攻撃にも使うとなると、ライトの動きが読めないしブレて視えない。

 何通りもの行動が重なって視え、輪郭がハッキリしないし、その後の攻撃行動も視えなかった。

 いや、視えているのに理解が出来ない、というのが正しいか。

 刀を上から振り下ろすのと、下からの蹴りが、上下で同じ場所に向かう動きが重なるのだ。回避行動は前後左右に輪郭が拡がり、刀の位置もブレて一定の位置には無い。例えば、左に避けて刀が左右に四本視える。身体の向きも半身やしゃがみ込み、下段、中段に構えていたり、右に片手、左に片手持ちしている輪郭もあるので、頭がおかしくなりそうだ。

 人間は動く途中で方向転換する事が、難しい人体構造をしているはず。


 ライトは刀を振り回すのを止め、歩く動作のまま近寄り、ミッドナイトの光剣を容易く避けて、首元に刃を宛がう。


 突然、いや、見ていたのに動けなかった。未来視には映らなかった、真っ直ぐ歩いてくるという動作。

 構えてある光剣を紙一重で避けつつ刀を首に添えているライト。


 見ていても動けない瞬間があり、反応が出来ないので防げない。先の先や後の先による予測や予想で、予めその軌道に光剣を振るう事でしか、接近や無拍子打ちは防げない。

 光剣の使い手同士が戦う際、無駄とも言えるくらい小刻みに振るうのを繰り返すのは、実はかなり合理的で、ただの演出やヤラセみたいな尺稼ぎでは無いのだ。


 ライトが使ったのは完全なる無拍子。見えていても回避不可能で、自分ですらどこを攻撃するか分からない、ただの無拍子打ちの改良版である。これが出来ると刀の間合いでは誰も勝てない。と、言われるくらい高い技量を持つ事となる。

 思考とかせず、脊髄反射な反射神経で動く為、未来視で視てから動く事も難しい。

 間合いが詰まった時点でミッドナイトは後退するべきなのだが、その後退する瞬間を切られる為、刀の間合いと言うか、同じ土俵に立った時点で敗北しかねない状況となる。

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