第4話 剣鬼の家

 ライト達は無事に元居た世界、というか、戦闘していた場所へと転位した。やや戦闘していた位置とはズレている様だが、濁った川とサンドロックが出した岩の柱、傾いた太陽、崖が影を落として薄暗い川辺と森が見える。


「……戻って、いや、帰ってきたのか?」

「どちらでもいいですけど、時計を合わせましょう」


 約三、四時間は異世界に居た。時間の巻き戻しは出来ないのか、そんなアフターサービスは最初から無いのだろう。


「日付も替わってるかもな」

「……やめて下さいよ。年単位で違ったら面倒ですからね?」


 同じ世界の日付が違う、未来の世界線。それは自分達が居た世界とは同じようで、少し違う異世界とも言える。

 つまり、未帰還で行方不明且つ、依頼失敗だ。


「ディープを信じろ。そこまで解離した世界では無い筈だ」

「……未来の世界である事は、否定しないんですか」

「こういう事態に、遭遇した事が無いからなぁ~」


 サンドロックは竜人型を再び造り出し、音魔法の応用でライトやアートと同じ言語を、片言で話し始める。


「とりあえず、人間、会う。時間、場所、判る。たぶん」

「……その最初の一歩を躊躇するんだ。子供なら葛藤とかしないかも知れないが」

「社会に出ると、未知との遭遇が減るか、遭遇しない様に立ち回るんですよ」


 ちょっとした経験則からの危機回避だ。傭兵や冒険者は安全を優先し、危険からは遠退く様に動く。

 まぁ、ライトは失敗して行き倒れていたが。

 今回のドラゴン退治も、前情報がもう少しあれば、もっと早くに別の冒険者が動けたかも知れないし、戦闘時間も短くなったりしたかも知れない。

 そういう意味では、二人でドラゴンと戦ったのは、ある意味失敗だった。勝てるからと言って斥候無し、観察無しでの出たとこ勝負には違いなく、結果としてサンドロックの生身なまみは得たが、魂は封印していない。


「……うん?!」

「……あ、そう言えば。……契約しましょう。サンドロック」

「契約……?」


 進み出したライトがサンドロックの方を振り返り、アートが召喚契約の説明と、古竜の討伐による状況の変更点を簡単に伝える。

 現状、古竜は討伐したが、魂は封印していないので、このままだと依頼は失敗となる。

 だが、召喚契約して仮でもいいから使い魔として、或いはモンスターの使役による召喚対象として、サンドロックの所有権をギルドや村に、明確化しなければならない。

 アートはサモナーや魔法使いでもないが、所謂職業の体系化に伴う、差別化としての専有等は無い。

 槍使いでも剣士を名乗っていいし、魔法が得意な格闘家が居てもいいのだ。

 つまり、見た目で魔法使いや剣士と区別してもいいが、戦闘能力や役割分担はまた別に考慮しなくてはならない。

 血や魔力を魔法陣に流しつつ、お互いの了承、または組織的繋がりによる上意下達や承認があれば、契約の魔法は完了する。

 仮に今回、サンドロックという個体が拒否しても、古竜より上位のドラゴンである真龍という存在が承認すれば、サンドロックはアートと契約が完了してしまう。

 ちなみに、召喚するモンスターや死霊魔法のスケルトン、瓶詰め妖精等の使い魔は地域によって扱いが、モノだったり人権ならぬ魔物権があったりする。

 今アートが居る国ではモノ扱いで、サンドロックはアートの所有物だ。総合金製のドラゴンやら竜人やらは、自己意識が有ってもモノである。


「……モノ、物品。合金、竜人型、魔法、モノ?」

「遠隔操作の系統なら、魔導具にもあるので、モノです」


 ギルドの水晶玉はディープが用意した魔導具。物を取り出し、預け入れ、結界や通話も可能で、ショップ機能もある。大都市等には、行った事がなくても要所への転位が可能な、特別性の水晶玉もある。

 ただ、地域によっては、ゴーレムやオートマトンは魔導具だったり、魔物として扱う場所もある。ディープは水晶玉を埋め込んだ、オートマトンやゴーレムを各地へ解き放ったりもした。

 移動式の自動販売機として造り、手足に意識もあるなら武装も出来る。おまけに瓶詰め妖精も居るとかなりヤバい戦闘力を持ち、各々が自立し、モンスターを倒しては、水晶玉へ収納する。野生の半分冒険者兼傭兵な自動販売機だ。


「お、噂をすれば……いや、これはディープのか。安否確認か?」


 村の水晶玉が露店の木材を材料に、パペット化してやって来た。

 ちなみに、最初から村の水晶玉なパペットが出張ると、冒険者ギルドに依頼料が入らないので、自律稼働は稀にしか機能しない。結界が硬いので、自衛や攻撃としてゴーレムやオートマトンへと、成る必要が無く、駆動するのは村や町が一瞬で滅んだ場合のみらしい。

 今回はディープが直接命令して、駆動状態にしてある。


「ついでだから、報告するか」

「そうですね。思念の映像や記憶の動画化もしますか。あと、古竜の素材を村へ半分寄付して、封印用の道具も返却、と」

「村長への報告も頼む」

「えっと、やってくれるそうです。戻るついでに」


 ギルドと村への報告は完了した。間にディープが居る以上、ギルドはこうした報告でも、依頼は完遂とするしかない。

 本来なら口頭説明と書類、証拠品の提出もある。これも地域差があるので、地方や国で違う。中にはディープに反発するギルドも存在する。

 ともかく、水晶玉は村へ帰って行った。


「依頼完了、お疲れ様。じゃあ解散って事で」

「え、ライトさん。これから何処へ?」

「家まで帰るんだが……刀の整備もしたいし?」


 アートはサンドロックにお願いして、ライトの後方を半包囲する。

 が、回転しながらの居合による一閃で、金属混じりの土壁は崩れた。


「何の真似だ……」

「私も着いて行っちゃダメですか?」

「えぇ? いや、それならアートの家まで、護衛として送るけど」


 アートの顔色が少し曇る。基本的に冒険者は宿に泊まる事が多いので、拠点とする地域はあっても、家は持たない。空き巣や放火が怖いからだ。

 備えとして、遠征や護衛依頼の期間中は、家や宿にも戦力を残すクランや傭兵団だっている。


「持ち家とか、無いんです。サンドロックも家が無いですし」

「ちょっと待て、俺の家はドラゴンは入らない」


 そもそもライトの家がある地域はこの国ではなく、国を二つ跨ぎ、山脈を越えた場所にある。

 無論、帰りは水晶玉による転移魔法だ。どんな辺境だろうと、行った事があるなら転移魔法で行き来が可能。圏外という概念はなく、転移中に行方不明となる事も少ない。

 ただし、ディープが如何に優秀であっても、 失敗する可能性がある以上、不慮の事故は起こり得る。絶対に安全で安心なシステムや魔法は無い。


「まぁ、サンドロックの本体は野宿でもいいでしょう。竜人型は廃棄か売却で」

「変な成形された金属の塊を売るのか……」

「売値をあげるので。ライトさんの家に、行ってもいいですか?」


 ちょっと照れた表情をするアートを見て、ライトはこれが押し掛け女房、等とくだらない事を思った。


「……着いて来てもいいけど、掃除するから待ってくれ」

「泊まる場所の掃除くらい、手伝いますよ?」

「俺の家は、女性が来る事を想定していないんだ」


 アートはかなり汚い部屋か、どスケベな品々があると勘繰る。


「あの……別に、軽蔑とかしませんよ」

「今のアート、吊り橋効果で現地妻みたいなポジションだからな?」

「どっちかと言うと、逆ナンに近いような?」


 そういう自覚があるので、アートはやや開き直って肉食系みたいに、ライトを逃がさないよう立ち回る。

 せっかく拾ったイイ男、追い掛けてでも自分のモノにするし、彼女が居るならまだしも、フリーならば押し掛けて押し倒し、胃袋を掴むまでだ。


 そんなこんなでライトの家へとアート達は転位する。

 やや広い古民家のような家屋があり、近くには畑と林、見渡すと森や山が見える。川から引いた水路と畑方面から先は藪が多い平原で、遠くには森と山。

 家の近くには犬小屋と物置小屋もある。


「ポイッ! ポイッ!」

「ただいま、こいつはフェンリルのリルだ」


 赤い毛並みの犬がライトを出迎え、吠えつつ匂いを嗅ぐ。


「マスター、女の臭いがするっぽい」

「喋る犬かぁ。え、女?」


 アートもリルと同じように鼻を鳴らしつつ、ライトの匂いを嗅ぐ。


「なんでアートまで」

「ポイッ! この女の匂いもするっぽい!」

「あぁ、そう言う。はじめまして、アートです」

「しばらく泊める事になったから、仲良くしてくれよー」

「ポイッ。アート、マスターの女っぽい?」

「うーん、 まだですかね?」


 サンドロックの匂いを嗅ぎ、リルは他の女の匂いと、金属製ドラゴンの匂いを覚えた。


「ポイッ。女喰った?」

「グォ。コルル」

「ポイポイ」


 リルはサンドロックの言い分を聞き、処分済みなのを理解する。

 ついでに、森の方へと案内するべく、ライト達と別れ、サンドロックを先導する。


「おや、リルが騒がしいと思ったら、兄貴が帰って来たのか」

「よぉ、ウイング。帰って来たぞ」

「周りに知らせて来るよ」


 ハーピー族の女性が、リルの吠える声を聞き付け、ライトの家の軒先に止まり、直ぐ様、ライトが嫁を連れて来た、と言う噂が立つ。


「あの女、誰?」

「アート、良く聞け。ハーピーの配達員の一人で、族長の娘だ。卵食うか? ハーピーの無精卵は旨いぞ」

「卵よりハーピー肉がいいです」


 ハイライトが消えたアートを、正気に戻そうと、ライトは色々な話しをする。


「なるほど。ただの雌鳥めんどりですか」

「そうそう、リルはメスイヌで、サンドロックはオス。……オスだったよな?」

「今の肉体は中性みたいです。男の娘ってほぼニューハーフみたいなモノですから、浮気が成立しますよね。今度、竜人型とかは美少女なプラモデルとかに、しない様に言い聞かせておかなくちゃ」


 サンドロックが何故か浮気相手にされてしまう。

 そこでライトは一端会話を打ち切り、家の玄関を入り、土間へと向かう。


「ただいまー」

「おー、お帰り……のう、兄貴。そこの女は誰じゃ?」

「このヤンデレはアート。こっちはオートマトンのヘビーアームズ」

「メイドがいる……。アートです、しばらく泊まりたく、まかり越して来ました」


 アートはやや戻ったハイライトを消して、ライトを睨みつつ、ここまでやって来た上で、厄介になる旨を話す。


「なるほどぉ、そうじゃったか。わっちはアームズタイプのオートマトンが一体、重量ヘビーでありんす」

「わっちは、兄貴と同じ名前じゃが意味合いが違う。軽量ライトじゃ」

「わっちはジェネラルパーパスじゃよ。長いので、きやすくジェネと呼ぶがよい」


 重、中、軽の各機関銃を背負い、和装メイド服を着ている。ヘビーは膝上ミニスカートにガーターベルト、軽量は足首まであるロングスカート、汎用は袖留めにブルマみたいなハイレグでスカート無し。髪型と髪色、は三人とも茶髪でポニーテール、フリルヘッドとエプロンドレスは共通のモノを着けていた。


「和装メイド風セーラー服、バニーガール。メイドって家政婦とか使用人って意味合いなんですけど……。ライトさんの劣情を煽るのはどうかと」

「兄貴がハニートラップに引っ掛かりにくいよう、わっち等のマスターが寄越した服装じゃよ」

「のじゃロリにメイド風な和装で、関節球体、大きな武装としてマシンガン。男の子の欲張りセットとマスターが嘯いておったわ」


 虎、狐、兎のケモ耳カチューシャや付け尻尾を追加装備する三人娘。

 更にパイルバンカーや釘バット、分銅付き鎖鎌を自身の、武装空間から引っ張り出す。

 魔法で作り出す亜空間を、オートマトンでも使えるように改良し、専用の武装や防具を出し入れ可能とした空間魔法である。

 ヘビー達は警備員も兼ねたメイドというポジションで、ライトが留守の間は、リルの世話や畑の水やりと収穫、保存や調理を行う。

 冷ややかな目でライトを見つつ、アートはライトの異性への耐性を考慮し、今後をどう立ち回るかを内心で練る。


「……ま、まぁ、こいつ等を送り込んだのは、名の通った殺し屋だ。ジーザスって名前、聞いた事あるだろう?」

「死んだってギルドが、二回も公式発表してましたよ。生きてるんですか?」

「この前、知り合いの格闘家とヤり会ったらしい。まぁ、俺も会ったら殺し合うんだが、決着は着かん」


 頭部や心臓への精確無比な射撃、狙撃は勿論、機関銃での集弾率も高く、銃の構造について良く知っていると聞いている。

 接近戦ではナイフや蹴り技を使うとか、曲芸撃ちして近寄らせないとかも聞く。


「でも、毎回戦う訳ではありませんよね? たまたま話し込んだりしてそうです。で、こういうのがタイプだと当たりをつけて、三体も寄越したと?」

「言っておくが、性的な機能は無い。口も成分を調べる程度の空洞で、歯と舌も無い」


 ほぼ戦闘用のオートマトンなので、胸部も臀部も装甲は硬い。勿論、髪も硬質だ。


 居間には囲炉裏と吊り下げられた鍋やヤカンがあり、土間にも釜がある。古い生活様式なのは、ライトしか人間が住んでいない為だ。

 一通り家の中を案内され、トイレは汲み取り式、風呂は屋内に木製の湯船と、外にドラム缶風呂がある。

 寝室は布団を敷く、衣類は和服が半分ほどあり、浴衣や長襦袢を借りれる。


「衣類は町で買ったりする。ヘビー達が適当な雑草や樹をほぐして、織ったりしてくれるけど、かなり脆い」

「木綿じゃないんですね」

「木綿とかの布地を使っても、よくほつれたりするんだ。裁縫とかの生産系オートマトンではないから、仕方ないんだけどな」

「戦闘用に裁縫や調理をさせたいのなら、設備をもっと高水準にしましょうよ……」


 お金持ってるのに、外出用の衣類と刀にしか使わない。これは好敵手もテコ入れすると、アートは嘆息する。


「今なら町の宿屋も空いてるはず」

「ライトさん、お腹空きませんか?」

「えっと……ご飯足りるか?」


 若干ゴリ押し気味の選択肢系の話題転換に、ライトは背中へ冷や汗が伝うのを感じる。

 ヘビーに問うと、今調理中との事。また、風呂は入れると言う。


「晩飯は、風呂が終わる頃に完了するぞい」

「……お先にどうぞ」

「わかりました…………覗いたらダメですよ?」

「軽量が待機するから、何か分からない時は聞いてくれ」

「こう言うお約束は、覗かないって言うのがテンプレです」


 軽量に着替えの浴衣やタオルを用意させ、ライトはよく鍛え上げられた新兵の如く、トイレへと向かう。


「トイレも選択肢に入れるべきですかね……」

「飯、風呂、トイレの三択でありんすか。それとも、わ・た・し? とか聞かんのじゃな?」

「……トイレへ追い掛けてもいいんですよ? ライトさんの汗くらい気にしませんし。ただ、私自身が汗臭いのでお風呂に行くんです」

「なるほど、兄貴の入浴時はヘビーとジェネに、警戒させるとしようかの」


 アートは肉食系なあまり、墓穴を掘ってしまったと気付く。

 湯船はそれなりに広く、大人が二、三人は横並びに座っても浸かれる。当然、洗い場も広い。

 お湯は魔道具か、外で薪を燃やしているとの事だ。


「想像以上の田舎生活。いや、設備や備品の古さは、ライトさん個人のみの利用に絞ってあるのかな。輸送や施工費用が高くつくから、仕方ない面はありますけど」


 ボットン便所とか今日日きょうび村でも見掛けない。この家がある地域、ひいては国で一番のど田舎なのではあるまいか。


「ゴブリンやコボルトの集落並み、いや、家政婦三人居るから、マンパワーで生活様式は一段上ですかね?」


 炊事や家事にも手間が掛かる上、自己鍛練に傭兵とか冒険者稼業もする必要がある。軽量達が来る以前、趣味の時間や睡眠時間はどうしているのか、アートはとても気になってしまう。

 まさか、睡眠時間はほぼゼロで、一日二十八時間という狂った生活なのでは。いやいや、趣味が自己鍛練だとしても、リルの散歩で四十キロ以上を動き回る程度だろう。

 近くの集落がどの程度の距離なのかにもよるが、移動と買い物の往復で散歩は終わるはず。または途中で、リルと模擬戦とかするのだろうか。


「……コレがライトさんも使っている石鹸。軽量、リンスとかありますか?」

「残念ながら無いのじゃ」


 軽量にさん付けすると、兄貴と同じなので、わっち等の事は呼び捨てで呼んでくれ。と、軽量から事前に言われたので、アートはヘビー達をヘイ、シリとかオッケーググル並みにきやすく呼びつける。

 まぁ、ライトの家が家なので、備品もたかが知れているのだが。

 これでシャンプーは兎も角、ドライヤーや化粧品があったら、生活様式がザ・武士の家並みな雰囲気がぶち壊しである。

 文明の利器を使いこなす武士が、果たして武士道に沿った存在なのかは不明だが。


 アートは湯船から出て、髪を魔法で乾燥・保湿させつつ、浴衣を着る。

 脱衣室から出ると、丁度入れ替わりだったのか、軽量が報告したのか、ライトが風呂へと来た。


「いい湯加減でした」

「お、そうかい。シャンプーとかは持ってないから、明日にでも買っておくよ」


 土間の一角にはディープが試作品として置いた水晶玉があった。試作品なのでアイテム・ストレージとショップ機能しかないので、転位や銀行機能、ギルドへの報告やゴーレム化を付けるにはディープを呼ぶ必要がある。


「行きましたね……ライトさんの寝室はこっちだったはず」

「あの、わっちが家探しを許すとでも?」

「殺風景でムードも何も無い部屋でしたよね。一緒に寝る準備くらいはしたいんですけど」

「兄貴の横が落ち着くのは分かるが、客間は用意しておる。慣れない場所、知らないわっち等、ポイポイうるさいリル。信頼がないのは承知の上じゃ。我慢してくりゃえ」

「分かりました。でも嫌です。私は一人、軽量達は三体。貴女達はオートマトン、眠らない連中に囲まれて、こっちが寝てる間に何されるか分かりませんし」

「睡眠中は監視しないぞい」

「入浴中はしてたんですね。はっ、まさか、私のスリーサイズをライトさんに教えたり?!」

「いや、それは別に……。着替えは浴衣じゃし、下着を洗濯する際におおよその値は分かるんじゃから」


 特別身長が低い、マンガみたいな爆乳、極端な樽体型とかでない限り、体のラインが平均的になるのが和服だ。帯をしっかり締めるか、摩擦を低減させるべくサラシを胸と腹に巻けば、大抵の女性は寸胴になってしまう。

 露出が減る代わりに、尻や鎖骨の見映えが良くなる。


「ライトさんはドラゴンの首をハネました」

「ヘビーに報告されておられる。行き倒れの所を救助されたとか。兄貴をお助け下さり、わっち等ヘビー・アームズからも感謝の意を」

「それは、もうライトさんと話し合ってます。まぁ、ともかく、強い男の側で寝たい気分なんです」

「……あぁ、雌として下腹部が疼くと?」

「あの。もうちょっとオブラートに言えませんか? 下品な話しはダメでも、猥談は大丈夫な感じって、全ての女性には当て嵌まりませんから!」

「オートマトンに性欲を説くつもりかえ? 百合の雰囲気を見せつけて、兄貴が誤解してもわっちは知らぬぞい」


 ゴーレムやオートマトン等、意志疎通が可能な種族を、纏めて亜人として扱う国は多い。また、異種族間の婚姻も世界規模の宗教が保証している。


「ならば、ライトさんに頼みます」

「そこまで言うのであれば、お好きにどうぞ。と言うしかないのう」


 軽量はアートが本格的に夜這いしかねないと危惧するも、ライトが拒否すれば簡単に制圧できると思い直す。

 ちなみに、会話ログは三人娘と共通化しているので、ライトにアートの処遇を相談して、色々と台無しにも出来るが、客人の気分を害する為滅多にしない。



 ライトは湯船に浸かると、排水溝のネット代わりな竹編みに引っ掛かった、黄色い髪の毛を見かける。


「抜け毛しやすいのかな。まあ、男の俺に言われたくはないか」


 何故か髪の話を独白していた。


「アートの出汁、というか残り湯。いや、洗濯に使うくらいは普通だよな」


 洗濯板とタライでヘビー・アームズが家事を行う。オートマトンというSFによく出る存在を、アナログでコキ使う。早々見ない贅沢な無駄遣い。


「川から水汲みするか? いや、ここでの流儀って事で納得してもらおう」

「兄貴。アート様は今後どう呼ぼうかのう、新入りか、姉貴か?」


 ヘビーが脱衣室から声を掛ける。アートが万が一突撃して来ても、ヘビーという肉壁、もとい鉄壁で防ぐ狙いだったが、流石に出会って間もないからか、そんなエロいイベントは起きない模様。

 尚、軽量が時間稼ぎにアートと長時間会話したりして、ライトが出浴するまで無駄に粘っている様子。


「……アートのあねさんとか、ねえさんとかでいいだろ。サンドロックはアートの子分扱いでいいな」

「リルのぽ犬が、森のテリトリーを教えておるようじゃ」

「あぁ、だから帰って来ないのか」


 新入りのサンドロックに、リルは自分のテリトリーの一部を貸す。下手に広げると、サンドロックと現地の魔物達が争い、ハーピー等の亜人に迷惑が掛かる。


「上がったら飯にしよう。アートを呼んでおいてくれ」

「了解でありんす」


 ライトは着替え、ヘビーに洗濯を任せる。


「ところで兄貴。アートの姐さんから貰った、ドラゴンの肉はどうするのかのう?」

「毒抜きしてから食べよう。鉱毒が抜けるかどうかは知らないが」


 基本的にドラゴンの肉には毒がある。種族や属性によって毒の抜き方は様々だが、微弱でも毒が残ると死ぬ可能性があるので、普通は防具か召喚体の餌、または儀式魔法の触媒とかに使われる。無論、オートマトンは普通に食べれるし、体内のジェネレーターが即座に分解してエネルギー変換と魔力へコンバートする。



 ライトが晩御飯を食べに居間へ向かうと、アートが囲炉裏に火を起こして、川魚を直火焼きしつつ鍋を混ぜていた。

 座ったままの前屈みにより構造上仕方ないのだが、浴衣の胸元が開いている。だが、帯を締め、中に長襦袢を着ているので素肌は見えない。

 顔を横にすると、黄色の髪をポニーテールから三つ編みにして、更に三つ編みを丸めたお団子にしている。 囲炉裏の火によって髪が焦げるのを防ぐ為の様だ。

 若干着崩した様にも見えるが、和服は立ったり座ったりを少し繰り返しただけで、帯を締めていても崩れやすい。


「意外と似合っているな」

「柄を髪色に合わせてありますから」


 鍋の中身は味噌で煮た魚や鶏肉、大根や卵もある。


「石化防止のたがねで鉱毒を中和し、エリクサーで生物と植物由来の毒を消した、ドラゴンの肉もあります」

「サンドロックの生前の肉……本当に解毒出来ているのか?」

「……ライトさんの漢気で、男前な所を見てみたいです」


 にこやかにマッド・サイエンティストなエンジェル・スマイルで、アートはライトへと、焼いた骨付きドラゴン肉を出す。

 こんがり肉と言えるが、紫色の煙が出ている。おそらくは肉汁の湯気か何かだろう。もしくはエリクサーの湯気か。

 受け皿に鎮座する肉の匂いは旨そうだが、ハーブかエリクサーの匂いかも知れない。


「ええい、男は度胸。南無三!」


 意を決して肉ファーストでかぶり付き、血糖値が上がるかもと変な心配が頭をよぎる。


「どうですか、血圧が危ないでしょうか? 熱くて舌を火傷してませんか?」

「……鶏肉と豚肉と牛肉のキメラみたいな、いいとこ取りした肉質と味がする」

「食レポは聞いてません。もしかして、思考が口に出てしまうのでしょうか?」


 アートは手元の小さめなドラゴン肉を見る。食べたら考えた事を言うのであれば、自白剤みたいな効果があると言う事だ。


「次はアートが食う番だな。旨いぞ、しゃぶしゃぶでもイケるはず」

「変な感じはしませんか?」

「してない。まぁ、遅効性だとどうしようもないが、エリクサーとかの解毒薬を飲もう」


 ライトにエリクサーを渡し、鍋の中身をよそう。煮ていた野菜と魚を食べ、エリクサーを飲む。

 ついでにライトにも鍋の中身をよそって手渡す。


「女は度胸です。人間性は投げ捨てるもの!」


 アートは骨付きドラゴン肉を、目を瞑って食べる。口腔内に広がる肉質と肉汁。


「……うーん。少し焼き加減が甘かったかな?」

「食べれないならリルにやればいい」


 最後に残る骨と軟骨はリルの餌だ。多少どころか肉が多めでも喜んでかじりつくだろう。

 鍋の煮魚や焼き魚は普通に食べれるので、雑談しつつ食事する二人。それを無機質な目で眺めるヘビー・アームズ。


「いつもあんな感じですか?」

「少し食べずらいだろうが、アレはこっちが食べ終わるのを、待っているだけの待機モードだ」

「なるほど。あー、ご飯はやっぱり焦げますね」

「全部炭になるよりはマシだよ。ヘビー達はそのダーク・マターを薪と一緒に燃やしたりするけど」

「ヘビー・アームズの動力って何ですか?」

「大気中の魔力や魔石だったはず」


 ヘビーを見ると頷いている。食事中の会話にはあまり参加しないのか、喋るとその分食べ終わるのが遅くなるからだろう。

 無言の圧力を感じるが、おそらくは気のせいだと、ライトは言う。


「お酒飲む? 水晶玉で取り寄せれるけど、キンキンに冷えたビールとか」

「あまり飲めないんですよ。アルコール入りのお菓子とかも食べませんし」

「なら、炭酸水は?」

「ソーダとかなら飲みます」


 ジェネが水晶玉から取り出し、二人の隣へコップと瓶を置く。


「お酒入ってないけど、なんだか火照ってきました」

「帯を緩めたら?  浴衣とか和服は、素材によって通気性が違うし、熱が篭ってるんじゃないかな」

「いえ、雰囲気に酔ってるのかも知れません」

「最初辺りの発言を思い出せ。視姦は、いや衆人環視は慣れないって言ってなかったか」

「えぇ? あ、これがドラゴン肉の効果なんじゃ」


 ありのままの事を言うと、血抜きが甘かったとかチャチな問題ではない。遅効性の催淫とか誘淫とかに近い恐ろしいものの片鱗を、ライト達はしっかりと味わったのだ。

 つまり、ドラゴンの肉を食べた事によって自制心がなくなり、強制的に発情している状態に近い。

 バッド・ステータスやデバフを警戒するあまり、状態異常とみなされない異常は、エリクサーでも治らないのだ。


「ちょっと隣に失礼して」

「アート、気を保つんだ。この程度で理性をーー」

「ーーやっぱり横が落ち着きますー」


 酩酊状態でも発熱もしていないのに、アートはライトの肩や腕へとしなだれ掛かる。その自然体な動作にライトは言葉を詰まらせて、アートの目的を察するも性急に動くと興醒めし、態度や好意が悪くなるだろう。


「スンスン」

「待って、建前があるからって、急にパーソナル・スペースを詰めすぎじゃね!?」

「男の人って、下半身が本能に忠実で、そんなに我慢が効かないんですよね?」

「偏見だからな。男は皆が皆、狼なのは」

「ヤる事ヤって、さっさと賢者になりたいって見た、いや、聞いた事がありますけど」

「どんだけ性欲に忠実なんだよ……」


 脇や太ももの匂いを嗅ぐアートを手で宥め、ライトはスリム・ブックから得たであろう知識に突っ込む。


「お風呂も食事も終わりましたね。あぁ、なんだかいい匂いですー」

「……はぁ、ヘビー達。片付けていいぞ」

「アートの姐さんもかえ?」

「わざとらしいなぁ。火の始末とかだ」


 そう言って、アートを立たせた後、ライトは腕に寄り添わせたまま寝室へと向かう。




「あ、待って下さい」

「どうした?」


 途中でアートは立ち止まり、笹でくるんでいた竹の筒を懐から出す。


「これを、朝まで頑張れます」

「まだ盛るの!? と言うか、アートは朝まで持つのか」

「いえ、失敗しない為にも。具体的には中折れしないようにですね。……あ、私は朝までするつもりは無いです。寝不足は良くないので」


 そんないらない世話を焼かれ、ライトは少しイラッとする。アートから筒をやや強引に奪い、中身を嚥下してその辺に捨てた。どうせ、ヘビー達が片付けてくれる。

 そして、アートが再び腕へと寄りかかった瞬間、壁へと押しやりつつ腕を顔の横に突く。

 要するに壁ドンだ。普通なら傷害や恫喝になるが、ライトの家ではライトが法である。

 まぁ、アートは少し瞠目しただけで、ライトの顔が近くにあり、見下ろされてまんざらでもない様子。


「しゃぶれ」

「え……」

「お仕置きとして、ここでのキスは無しだ。そんなにオスの匂いが好きなら、しゃぶれるだろう?」

「わ、分かりました」


 正直、アートはそのまま少し会話してのキスも考えていたが、やや困惑しつつもライトの帯や浴衣をはだけさせる。

 これはこれでご褒美なので、アートは指先と舌を使い、ライトが制止しても止まらず二発抜く。


「く、止まらねぇ。吸引力も落ちねーし」

「ねぇ、今どんな気持ち? 射精ってすぐの亀さんやカリ首の回りを攻められて、無様にも無駄射ちさせられた気持ちはどう?」

「俺は止まらねからよ。お前が潮噴こうが、絶頂こうが止まらずにハメてやるからよ……」

「……ふっ」

「部屋入って帯を掴んで回してやる」

「定番っちゃ定番な奴です。ライトさん、お主も好きよのぉ」


 ライトが脳裏に希望のお花畑を見ていると、アートはメスガキの如く煽ってくる。何やってんだよ兄貴とばかりに、ジェネが出ば亀しており、ライトの返答に対しアートは不敵に笑う。

 ライトは宣告通り、寝室にてアートを、いけません、悪代官様、あーれー。とコマすシチュエーションをする。どうでもいいが、独楽の様に回すには相手とタイミングを合わせ、尚且つ、目が回らない程度の繊細な力加減と足元の布団が捲れたり、足袋が摩擦熱で破けたりしない等の注意がいる。


「ちょっと楽しかったです」

「そうか、でもあんまりやると帯とか足袋が傷むぞ」


 回って乱れたアートの浴衣姿に内心興奮して、ライトの息子は臨戦態勢だった。

 目敏く気付いたアートは、更に挑発するポーズを見せつける。

 ライトはゆっくり近づき、おもむろにキスしながらアートの浴衣や長襦袢を脱がせて、アートもライトの浴衣を脱がせていく。

 しばらくフレンチ・キスやボディー・タッチをしては、くすぐる一歩手前の刺激でアートを少しずつ昂らせる。

 そうしてメスガキぶるアートをわからせる準備が整うと、ライトは指先の腹や掌で攻め、バード・キッスで上体にも断続的に刺激する。

 性感帯が分からずとも、優しく緩急をつければ、大体の女性は軽く絶頂する。で、何度も軽めの絶頂を繰り返し、時に寸止めをして焦らしていく。絶頂の波がやや遠くなった時に激しくGスポットを擦ると、不意打ちされた感覚で昂り、やや強く絶頂してしまう。

 目線は相手の目線を見て、唇や舌で肌、或いは神経が多い場所や視覚的に目に止まる場所を攻める。


「あの、ライトさん。ちょっと軽くイッてるので」

「え、本当? 女性は演技が上手いから、分かりにくいんだよなぁ。まだ余裕そうだし、もう少しこことか、こっちをつつくぞ」

「待て待てっ! 待っんん!!」


 自己申告はキスで黙らせ、メスガキわからせを続行していく。

 アートが天国に逝って放心状態が続くと、漸くライトは愚息を挿入する。

 その刺激で現実に帰ってきたアートだが、ライトは繋がったまま動かない。いや、キスやフェザー・タッチの場所を首筋や掌に集中させている。特定の場所を指圧したり、掌を女性器、指先を男性器に置き換えて刺激すると、感情が昂りやすくなるし、挿入後の異物感に慣れやすい。

 妙に女慣れしているというか、端的に言うと、ライトはベッドヤクザだったのだ。

 三十分くらい経ち、その事に気付いた時にはもう遅い。スローよりやや早めでゆっくりと一定のリズムで動き、アートが膣全体をインナーマッスルで締め付けたり、子宮付近、Gスポット、入り口付近の三段階で締めても、ライトは指圧を続け視線を逸らさない。


「……もしかして、遅漏ですか?」

「そ、そんな事は無いはず。ギアを上げていくぞ」


 正常位で延々とボーリングされ、アートは知らず知らずのうちにだいしゅきホールドをしていたが、ライトが背中を支えながらゆっくり立ち上がる頃に気付いた。

 脚を外してアートも繋がったまま立つ。爪先や踵を上げる動作でまたボーリング作業が始まる。今回は少しずつ早くなっていき、そのまま段々とアートは壁とライトに挟まれつつ立位でポルチオとGスポットを攻められ絶頂する。

 ライトがアートの片足を上げていくと、より深く刺激が強くなった。I字バランスでの立位、しかし維持がキツイのでY字になり、ライトの肩にアートの片足が引っ掛かる形となる。


「あふっ、アン。これ、子宮口に刺さってません?」

「子宮の中までは入らないだろ。そろそろ、射精すぞ!」


 子宮頚に亀頭が少し埋まり、ライトの精液が子宮内へと入る。

 念願の、というか、メスとして強いオスを求めた結果だが、漸くの子種汁にアートの卵巣が疼く。


「はぁはぁ。頭、真っ白です」

「悪いな、変な体位で射精して」

「いえ。騎乗位とか、後背位を想像していただけに、マイナーな立位は不意打ちでしたね」


 ライトの息子はまだ元気なので、そのまま布団の上へ移動し、今度は後背位へ移行する。

 しばらくアートの乳首や首の裏を攻め、背面騎乗位になり、アートが背中越しに視線にて挑発してくるので、ライトはアートの手を後ろ向きで恋人繋ぎしつつ、気遣いながら分からせようと、尻に力を入れて息子へ我慢を強いる。

 ならばと、アートは向き直り、騎乗位をしばらく行い、近づいて対面座位に近くなるくらい肌を密着させていく。

 アート主導でのキスや手セックス、アートの形が良い胸や乳首がライトの視覚や嗅覚、触覚を刺激し、フレンチ・キスの合間に囁くような淫語で味覚と聴覚に自律感覚絶頂反応を叩き付ける。

 五感を総動員したアートの責めに、ライトのチルドレンはたかが女体すら押し返せずに屈した。四発目だというのに、ライトは一発目並みの精を出す。

 それにつられてか、挿入れたままアートは潮を吹く。


「はぁ、はぁ。今のコンボは反則だろう」

「……むぅ。そんな事を言うなら、もっと凄いのをしてあげます」

「待って、少し休憩。いや、水分補給とか、ローションとか塗ろう」


 長時間の交尾により、お互いの肉体は疲弊している。そこで軽量やジェネが水分補給や軽食、潤滑油としてのローションや肌荒れ予防のベビーパウダーを持って来た。ずっと廊下で待機しており、ライト達の会話を盗聴していたので、タイミング良くノックをしていたのだ。


「……盗聴?」

「気にしたら負けだぞ。まぁ、盗聴なのか、オートマトンの聴覚なのか分からないんだが」

「まぁ、いいです。……それはそれで好都合ですし」


 ライトとしては、周りに聞かれるとかの、軽めの羞恥プレイが出来ない。ただ、ヘビー達の目の前で交尾するとか、実況をヤらせるとかの、アブノーマルなプレイは出来そうだと考えている。

 一方、アートは少し違う。どうせヘビー達に聞かれていると言う事は、音声のみを録音でもして闇ギルドにでも流しているのだろう。また、この家の主であるライトよりヒエラルキーが上になれば、アートがライトの胃袋どころか玉袋も掴めるし、ヘビー達を通じて恥態を流す事で精神的に外堀を埋められる。


「休憩終わり……うふふ。さぁ、ライトさん。さっきより凄い事しますよー」


 繋がったまま水分補給したり、抜ける寸前まで動いてローションを塗ったりしていた。

 ライトはアートの卑しい笑い声を聞き、金玉が縮こまった錯覚に陥る。

 まず、アートは先程と同じように密着し、ディープ・キスをして両手は精巣をマッサージし出す。

 この程度かと拍子抜けした瞬間、尻穴に魔の手が延びる。ライトの臀部をマッサージしつつ穴にローションを塗っている様だ。


「そ、そこはーーんンっ!」


 ライトの舌に舌を絡ませて無理矢理黙らせ、尻の穴にローションまみれの人差し指を問答無用で入れる。肛門括約筋をほぐし、ライトの抵抗が緩んだ瞬間に中指も入れてゆく。舌の抵抗が上がるが、二本の指で直腸を擦る。更に玉をもう片手で転がす。

 酸欠と精巣への刺激、そして前立腺をつつかれ、息子がパワーアップする。生命の危機に精巣はフル稼働で精液が溜まっていくも、前立腺が押し込まれたままになっていたので、射精は出来ず空射ちの如くチンピクを繰り返す。

 精輸管が押し潰されたまま、何度もドライめいた感覚でイくライト。


「ぷはっ……はぁ、はあぁ!」

「どうです、ライトさん。射精したいですか?」

「だ、射精しぃ! だシっ!」

「カウントダウンしますよ。ゼロで射精させてあげます」

「ヒャあ!」

「……さーん……にー……いぃ~……」

「……ま、まだ?!」

「……ち~ぃー……いぃー……」

「長いよってか、くどい!」

「………………」

「ごめん! ちょっと魔が差したっ!」

「まぁ、許してあげましょう。あっと、三本目が!」

「ガバガバになりゅう?!」

「ゼロ」


 その声を聞いた途端、条件反射的にライトは射精した。押し潰されているとはいえ、詰まった訳でなく下からのみ圧迫されていたので、許容量を越えれば自然と射精は可能だった。が、カウントダウンという半ば催眠めいたプレイで気付かない。


「ゼロ……ゼロ……ゼロ……」

「はうぅ! カウントを止めてくれ」


 ゼロと言われる度に、ライトは射精する。薄い精液を間断的に放出してしまう。女性でいう軽くイきっ放しな状態。精巣と前立腺で作られる精液は、満タンでは無いのに出ていく。PC筋と肛門括約筋が職務放棄していた。


「ンんっ! 凄かったでしょう?」

「……催眠魔法と併用されると、腹上死待った無しだぞ」


 しばらくして満足したのか、アートは入れた三本の指を抜く。

 この性技、前立腺を刺激する事で男性機能が回復するものの、感じやすい体質だと返り討ちに合う。諸刃の剣であり、絶倫相手だと分が悪い。


「漸く、ライトさんの泣きを見れました」

「それはどうかな?」

「ひょっ?!」

「俺のターンはまだ終わっちゃいないぜ!」

「……あれ、萎えてない」

「という事は、どうなるか分かるかな? ん~?」

「…………甘いですね。玉を握られているんですよ?」

「おい、それはダメだろう……人の心が無い選択肢だぞ」


 そう、硬くした息子はアートを喘がせられるが、手中にある玉を強めに握る事で、ライトは悲鳴に近い断末魔をあげる。


「え~、仕方ないなぁ……もう一回だけですよ?」

「めちゃくちゃネチッこくーー」

「ーーもう遅い時間なので、巻きでお願いします。オナホみたいに雑に腰振っていいですから」

「唐突に、マグロになったな」

「イキ過ぎて、疲れたんですよ」


 ならばと、ライトは心を鬼にして、離れるのを嫌がる息子を抜く。向こうが退くと言うなら、こちらも退かねば無作法と言うものだ。


「大丈夫ですよ? 正常位なら動いても、負荷は少ないですし」

「いや、無理して付き合わせるのも、何か違うだろ」


 諸々の後始末をして、ピロートークに移行するも、アートの視線はライトの怒張と目を行ったり来たりしてしまう。

 が、ライトは無視して、アートと雑談したり、お互いに水分補給をする。

 腕枕してあげると、アートは二の腕に頭を乗せたり、ライトの顔を覗き込む。


「次は魔法も使います」

「催眠魔法は無しで」

「カウントダウンはしますよ。ただのカウントダウンで、堪えたらお尻でもヤりましょう」

「堪えられなかったら、俺の尻が狙われるのか……」

「ふふっ。既に金の玉は我が手中にあります」

「それはやっぱりダメだぞ。だったら、俺は子袋でも握ってんのか?」

「……もう少しで子宮口の奥に、行けたかもしれません」

「どうかな。俺のは長くないから、構造的に厳しいでしょ」

「え、でも半分は入ってましたよ?」

「あんだけトロトロにして、子宮が降りて半分だろうに」

「初めてですから、相性良くても限度がありますし」


 なおも怒張は治まらない。

 アートは前立腺を刺激しすぎたと反省し、ライトを手で慰めるべく伸ばす。

 だが、ライトによって遮られる。


「もう寝よう。別に出さないと死ぬ訳じゃないんだから」

「でも、辛そうに見えます」

「気のせいだって。俺が許しても、息子が許さない様なのは。と言うか、薬のせいだろう」

「……そう言えば、飲んでましたね」


 この精力剤は当たりか、とアートは胸の裡に秘める。

 ライトがガッツいて、アートの意識が飛ぶくらい激しいのを期待したが、実際はかなりネチッこくて、意識が飛んでもすぐに戻されている。

 キライではないが、個人的には気絶する様に寝落ちして、ライトにこれでもかとマーキングされた状態で朝を迎えたかった。そうして、責任を取って貰うのだ。まさに役満な押し掛け女房案。

 しかし、このままではライトに都合がいい、女止まりとなるかもしれない。

 そんな危惧を覚えつつ、アートは意識が遠退いていく。

 その後を追うように、ライトも腕枕のまま寝た。




「あ、おはうございます」

「……あの、心臓に悪い起こし方は止めてくれる?」

「起ったら、出したくなるんじゃないんですか?」

「それ、偏見だから」


 股関から水の音がして、目覚めると布団が膨らんでいたので、素早くめくると、アートが朝立した息子を慰めていた。

 執拗に舐めては、胸で挟んでコネ繰り回す。玉は揉むし、匂いを嗅いだりもしている。


「出さないと治まらないわーーウッ、射精く!」

「……はむっ! ご馳走さまですした」


 ミルクを飲んだ後、興が乗ってきたのか、アートは布団をどかして跨がり、ライトに秘部を見せつけては亀頭を掌で擦りつつ手コキしてくる。

 ちょっと面食らったがライトもクンニしたり、アートの尻穴にローションを塗ってつつく。このままでは敏感な息子が更に過敏に反応してしまう。何とかしてアートをイかせないと、また雑魚雑魚とメスガキムーヴしてくる筈。朝っぱらから分からせていては、日中や夜間も挑発してくる事が予想出来るので、息子が燃え尽きてしまうかもしれない。

 少し強引に荒っぽく手マンやクンニ、豆を責めたりするも、ライトの息子が音を上げる方が早く、男潮を吹いてしまう。


「くっ、寝ている間も攻めていたんだろう。卑怯な」

「えへへ、下の口にもミルクを下さいね」


 流れるような動作で、ライトのマラをあてがい側位で合体する。ライトでなければ見逃しちゃう程の恐ろしい早業だ。また、キレのある膣の収縮性、今度はライトがマグロとして一本釣りされる番なのか。


「どうです、まだやりますか?」

「くふっ、げ、元気いっぱいだぜ」


 まな板の上のマグロ、いや、ライトが強がるので、三段締めで三枚に下ろす。しかし、締め付けるとおのずと密着するので自然と弱点が擦れ、アートは反動のような感じで快感が流れる。

 息子の硬度や膨張率が勝り、辛くもアートは達する。だが、女性の絶頂と男性の絶頂には差があり、偶然にも同時に達した。

 一緒にイくのは、相性が良くても難しく、促されたからと言ってイくのは女性側がやや早い場合が多い。また、イくのにも波があるので、絶頂までが遅い時もあるとか。


「……ライトさん。しゅき」

「俺もだよ」

「責任取って下さいね」

「おう。こんな所にまでホイホイと着いてきたんだから、簡単には帰さないぞ」


 告白めいた発言を耳元で囁かれ、ASMRの如く耳が孕んだ錯覚をしたその時、アートの子宮に電流が走る。脳裏に家族計画と新婚生活の妄想が流れていく。


「頑張って沢山産みますね」

「ちょっと何言っているのか、分からないかな」

「最低でも五人は欲しいです」

「なんか、ニュアンスが違わないか?」

「もう一回、もう一度、アンコールをお願いします」

「待ってくれ、せめて朝食をーー」

「ーーはい、増精剤の口移しですよ~」


 その辺に脱ぎ散らかした浴衣の懐から、ドーピング・アイテムを探し出して、ライトへベロチューしつつ口移しで呑ませ、精巣や息子が元気を取り戻す。

 ある程度出さないと玉が秘孔を食らったように破裂するか、効果が切れるまで垂れ流し状態となる。

 息子の未来が掛かっていると本能的に悟り、ライトは容赦なく腰を振るって、アートを白濁まみれにしていく。

 最初こそ軽食やら水分補給に手間取ったが、アートが搾り取るように膣を動かし、回転と収縮を繰り返して邪魔をする為、ライトは水分を摂る端から子種を出すハメになった。

 流石にキレたライトは、アートの尻にも息子を突っ込む。子宮の裏側を何度もノックしてはアートの絶頂を寸止めし、そのくせ自分は吐精して滑りを良くする。

 そして、変化球として前の勝手口の奥の方へ、イマラでミルクで満たすと、誰も居ないので、玄関口を責めたかと思ったらピンポン・ダッシュで再び裏口に息子を向かわせ、交互に子種汁を蒔く。

 アートはなぶられては絶頂の梯子を巧く外され、それでも何故か潮を吹き、胃や大腸、子宮までもが液まみれとなり、時に精液をゲロったりもした。

 ライトが正気を取り戻して気付いた時には、輪姦に近い有り様で、アートのハイライトもログアウトしているが、息子は猛り、尚も怒り狂って許さない。

 精液で膨らんだ腹部を押すと尻穴から出て、子宮を腹パンにも似た刺激が襲い、反射的に息子が締め上げられつつ降りた子宮口に完全に埋没する。

 ライトは実感が湧かないが、アートは子宮姦の衝撃で現実に戻って来た。行き止まりを越えた先をつつき回され、尻から裏側を執拗に掘削し、腹に近い部分は圧迫された子袋のライフはゼロである。今なら水のように薄い精液でも快楽に浸れるが、薬の効果がある内は特濃なので子袋は溺れてしまう事だろう。

 一瞬、危機感を覚えたアートだったが、快感が一周して絶頂し再び失神する。まぁ、射精された瞬間に三度引き戻されるのだが。

 斯くして、アートは半日程めちゃくちゃにされ、しばらくの間、ライトに触れられるだけで軽く絶頂したり、時には失禁したりする体質へと変化してしまう。

 故に、アートはライトに対し接触禁止をお願いしたが、自業自得なので却下され、紙オムツ着用の元、ライトの鍛練に付き従う事になる。

 やがて体質が元に戻っても、撫でられただけで頬を紅潮させる、撫でポなチョロイン属性を引きずるが、赤ちゃんプレイはしていない。

 共産主義の如くーー生まれた瞬間は何でも出来そうな全能感に浸れるし、親が一緒に居て、こちらが不機嫌でもかまってくれるーー赤いのが赤ちゃんの特権だが、ゆくゆくはかかあ天下を目指すアートは、ライトを尻に敷くべく策略を練るのに忙しく、その都度撫でられて行動を制限されてしまう。

 アカい赤ちゃんになっている暇は無いのだ。

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