第4話 ゴブリン軍VS有志軍-⑥
「行かせはせんさ、一応俺はこいつらの親玉だ。お前みたいな華奢で弱そうな女に散々殺された可愛い可愛い子分共の敵を討ってやらんとな」
「ほう、オーガにもそんな殊勝な感情があるとは驚きだ。ゴブリンより多少は頭が良いようだな」
まるで値踏みでもしているかのように自分を見ながら悠々と歩いてくるオーガに嫌悪感を抱きながらもルナは剣を向ける。
「さてお前達、その女を囲んで逃げ道を塞げ。俺の女にして子を産ますから手は出すんじゃないぞ」
ルナの嫌悪感は悪寒へと正体を変える。
「どうやらその辺の動物の雌では俺の子を孕めんらしくてな。お前ならば華奢とはいえ人間だから可能性はあるだろう。子分共の敵討ちはその後だ」
人間としては大柄に分類されるルナもオーガからすれば細く華奢に見えたのだろうが、甘く見られたと感じたルナには屈辱的な言葉だった。
「貴様、あまり私を舐めてくれるなよ。私が欲しいというならまずは私を倒してみせろ!」
大量のゴブリンに囲まれる中、ルナは毅然と振舞う。
内心では、状況の不味さに焦ってはいるが。
冷や汗をかきながらもじりじりと包囲網を狭めてくるゴブリンにどう対抗すべきか考えているルナが行動を起こす前に、ゴブリンが数体、顔面に真面にバレットシュートを受け倒れる。
「おい、そこの赤デカゴブリン。お前ルナさんに何をさせるって言った。なあ、ナニをさせるって言ったよなあ!」
聞くだけで恐怖がぞわりと背中から這い上ってくる怒気を含んだ声に、ルナもゴブリンも、オーガですら動きを止めて声の方を見る。
声の主は、オーガが投げて地面に刺さった木の上で怒りのあまり息を荒げながら仁王立ちしているクロノアだった。
「随分と食いでも孕ませがいも無さそうなチビガキが粋がっているじゃないか」
「失礼ですね。この体はいらないものを全て削ぎ落としてるんですよ、この為にね」
刹那、クロノアはローブと帽子だけを残して姿を消す。
「クロノア! 一体どこに……」
その場にいた者全員がクロノアの姿を探して周囲を見渡すが、クロノアの姿は見えない。
だが直ぐにクロノアは姿を現した。
ゴブリンの首筋に刃を当て、バターをナイフで切るようにすっぱりと切りながら。
激しく血しぶきを上げるゴブリンを皆が注目した時には、別のゴブリンが同じように血しぶき上げた。
次から次へと血しぶきを上げる仲間たちに動揺したゴブリンはたじろぎ、怯えながらキョロキョロと周囲を見回す。
「汚い噴水をお見せしてすいませんルナさん。ご無事ですか?」
声に驚き隣を見たルナは驚く。
普段のだぼっとしたローブ姿とは対照的な、ボディラインがむき出しの体にぴったりと膜のように張り付いたスーツを着たクロノアが立っていたのだ。
素材はルナのインナーと同じように魔獣か何かの皮らしい。
色は闇夜に溶け込みそうな黒色で、生々しい赤色のラインが全身に走っており、申し訳程度のミニスカートが取り付けられている。
装備は小さな胸当てに腰回りのポシェットと軽装で、速度を重視しているのが見て取れる。
「クロノア、その恰好は一体……」
「見せたくは無かったんですけどね、この姿は。とにかく説明は後です。今はこの場を切り抜けることだけを考えて下さい」
困惑しながらも、クロノアの言う通りにルナは思考を巡らせる。
とはいえ、考えたところで状況を変える手段など一つしかない。
目の前の敵を全て倒し、この戦いに勝つだけだ。
「クロノアはゴブリン共を頼む。私はあの無礼者にマナーを教えてやる」
「了解しました。ご武運を」
返事をした途端に姿を消したクロノアは、瞬く間にルナとオーガの間にいたゴブリンを片づけルナの為の道を切り開いた。
そのままクロノアは次々に高速でゴブリンを倒してゆく。
「チッ、ただのゴブリン共じゃあ数がいても大して約に立たねえか。だがお前を捕まえて俺の子を産ませられたら最強の軍団が作れるかもしれんな」
野望と戦意に溢れてギラついた目を向けてくるオーガに、ルナも殺気を込めて睨みつけた。
オーガは自分の手下のゴブリン達の死体を邪魔そうに棍棒で薙ぎ払いながらルナに突進してくる。
「我が名はルナ! いざ尋常に勝負!」
騎士時代の名乗り癖が出たルナは声を張り上げ威勢よく突進してくるオーガに立ち向かう。
自分の体よりも太い腕が降り下ろす棍棒をルナは真っ向から剣で受け止める。
「おっとやり過ぎたか。……いや、人間の女にしては中々やるじゃないか」
馬鹿な人間が力量差も考えずに自分の棍棒を受け止めたと思ったオーガは折角の獲物を潰してダメにしたと落胆しかけるが、振り下ろし切れない棍棒の感触で落胆が喜びに変わった。
ルナは棍棒の威力で足を地面にめり込ませながらも受け止めていたのだ。
「ち、力比べは私も嫌いではないぞ」
普通の人間ならば熟れたトマトを踏みつけたようになったであろう一撃を受け止めたどころかルナは全身の筋肉を大きく膨らませ、棍棒を押し返そうとする。
人間相手に力では負ける筈が無いと思っていたオーガは、抵抗してくるルナを面白いと思いながらも同時に苛立ちを覚えたのか棍棒に徐々に力を込めてゆく。
「ホラホラ、しっかり押し返してこないと今度こそ潰れちまうぞ」
いくらルナが鍛えに鍛えて常人以上の筋力を持っているとはいえ、オーガと人間では種族としての身体能力の差があまりにも大きく、ルナが押され始めてしまう。
流石に力比べでは分が悪いとルナは力ではなく技術で対抗することにした。
剣で棍棒を受け流しながらオーガの側面に回り込み、飛ぶ。
体躯が大きく皮膚が頑丈そうなオーガ相手に少々切り付けたところで大した効果は望めない。
だからルナは一撃必殺を狙い大概の生物の弱点である首筋を狙ったのだ。
棍棒に込めていた力を逸らされたせいでよろけたオーガにルナの一撃は受け止められないかと思われた。
だがよろけながらもオーガは丸太よりも太い足で地面を抉りつつ踏みとどまると、棍棒を豪快に横に振る。
空中で避けようが無かったルナは真面に受けてしまい、吹き飛ばされてしまう。
受け身も取れず地面に豪快に体を打ち付け、ルナはそのままゴロゴロとゴブリンを巻き込み吹き飛ばしながら転がる。
地面に体を打ち付けた時に頭も打ってしまったのか、ルナの意識は薄れかけるが、直ぐに体の痛みと口の中に広がる血の味が現実に引き戻してくれた。
「……やはり、フルプレートの方が良かったな」
痛む体に鞭を打ち、ぼやきたルナは自分の体の状態を確認する。
全身打ち身に擦り傷だらけ、あばら骨も数本折れてるかもしれない。
だが幸いにも腕と足は動く。
まだ剣を振るうことさえ出来るのならばルナには十分だった。
「ほう、まだ立てるとはお前本当にタダの人間か? まあいい、お前ならば確実に俺の子を産んでくれそうだな」
流石に殺したと思った一撃を与えても尚、立ち上がるルナにオーガはより興味をそそられたのか、舌なめずりをしながらルナに手を伸ばす。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます