第4話 ゴブリン軍VS有志軍-①

「なんということじゃ。ゴブリンが本当にいたうえに巣を作って大量に繫殖しておるとは……」


 森から息を切らしながら村に辿り着いた二人は、そのままの勢いでモーシュの家に転がり込み状況を説明すると、モーシュは驚き震えながらも二人を椅子に座らせ対応を話し合う。


「それだけではありません。このままでは奴らは今晩にでも襲ってくるでしょう」


「とにかく村人達を街まで逃がして騎士団に来てもらうしかないのう」


「今から避難していては到底間に間に合わないだろう。上手く村から避難できたとしても道中確実に追いつかれる」


 大戦中、この国は東側陣営の中では最前線に位置した国だ。


 だが国境からは遠く離れ、戦争とは無縁の平和な田舎の村で暮らしてきたモーシュの考えはルナからすれば甘いとしか言いようがなかった。


 小さな村で村人が少ないとはいえ、人が集団になると必ずパニックに陥り避難どころの騒ぎでは無くなることを経験上ルナはよく知っている。


 さらに若者だけならばゴブリン軍に追いつかれることなく逃げ出せるだろうが老人に子供、病人まで含めての総避難となると必然歩みが遅くなり確実にゴブリン軍に追いつかれるのは目に見えている。


 せめてもう半日でも早ければ何とか出来たかも知れないが既に時刻は夕暮れ。


 このまま夜になってしまえばパニックと歩みの遅さにさらに拍車が掛かるだろう。


 そのうえゴブリン軍は既に進軍を始めているので圧倒的に時間が足りない。


 せめてもの救いはゴブリン達の足がルナ達程は早くなく、大勢で森を進んでいるので余計に進軍速度が遅くなっているだろうことだ。


「で、ではどうすればいいんじゃ!」


 遂にパニックに陥ったモーシュは机を叩きながら立ち上がる。


 もうすぐ軍勢に襲われるという追い詰められた状況なのだから当たり前の反応だろう。


 寧ろ今までよく耐えていた方だ。


「落ち着いてくれモーシュ村長。ここで声を荒げたところでどうにもなるまい」


 立ち上がった拍子に倒れた椅子を起こしたルナは、モーシュを落ち着かせながら再び座らせる。


「ここは私に任せて貰えないだろうか? 戦いについてはいくらか心得があるので考えがある」


「一体どうすると言うんだい。まさかわしらに戦えとでも言うきか?」


 自虐的な苦笑いで冗談のつもりでモーシュはそう言ったが、ルナが考えていたのはそのまさかだった。


「村人達の中から戦える人間を募って有志軍を結成するべきだ」


 ルナの考えとは、村人達から兵を集めることでこちらもゴブリン軍に対抗出来るだけの戦力をかき集め軍を組織し、徹底抗戦することだ。


「いくらなんでも無茶じゃ。何人かは年を取って隠居した元騎士や冒険者はおるがほとんどは農具くらいしか握ったことのない者ばかり。例えゴブリン相手とはいえとても勝ち目があるとは思えん」


「どんなに無茶であろうともやるしかない。それに戦うとは言ったが何も勝つことが目的ではなく避難するための時間を稼げればいい」


 避難に時間が掛かるとの言うのならばその時間を増やせばいい。


 少々頭の悪い考えかもしれないが、こういう時間の無い時は複雑な策を弄するよりもシンプルな策の方が余程上手くいく。


 実際戦場でもルナはこういうシンプルで力業な策を多用して生き残ってきたので、効果は実証されている。


 有志軍に参加した者全員が無傷とはいかないし、もちろん死ぬ者も出ることは間違いないだろうが、村人全員を避難させるだけの時間を稼いだ後、即撤退すれば犠牲になる者も最低限で抑えれるだろう。


 現状ルナが考え付く策の中ではこれが一番村人の被害が少なく済むのだ。


「モーシュ村長、今は一刻でも惜しい時だ。貴殿がいつまでも決断を下せなければそれだけ村の被害は大きくなるぞ」


 脅すような口ぶりになってしまったのをルナは申し訳なく思う。


 しかし、依頼を受けて来ただけの村人からすれば部外者である冒険者が何を言ったところで村人からの協力どころか避難すらも碌に促せないのは目に見えている。


 だからこそモーシュを脅してでも彼に決断させ、自分達は村長の判断でこの一件の裁量を任されたという看板が絶対に必要なのだ。


 そうすれば多少の反対の声や自分達を信じない者が出てきても無理を通すことが出来る。


 俯き、頭を抱えて考え込んでいたモーシュであったが、覚悟を決めたのか顔を上げた。


「……分かった、全て君達に任せることにする。まずは何をすればいいんじゃ」


「詳しいことは移動しながらだ。まずは村人達を集めるところから始めなければ」


 三人が外に出ると既に太陽は殆ど山に隠れてしまって周囲は薄暗くなっていた。


「皆を集めるのならば物見やぐらの鐘を鳴らすといい。火事の時なんかはそれで村の広場に集まる手筈になっておる」


 モーシュが指さす方を見ると簡素な造りの物見やぐらがあり、鐘がぶら下がっているが誰もいない。


 ルナが慌てて鐘を鳴らす為に走り出そうとするがクロノアが腕を掴んで止める。


「ここは私にお任せください。私なら移動しながらでも鐘を鳴らせますから二人は早く広場へ!」


 一体どうやったらそんなことが出来るのかルナには分からないが、時間が少しでも惜しいのだからとクロノアに任せてルナはモーシュの案内で広場へと走り出す。

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