4日目
昨夜は、サキがうるさかったような気がしたが、気づいたら眠っていたようだ。俺はうーんと伸びをする。せっかくだし、サキに挨拶をするか。パソコンのほうに行きモニターを見る。
「なんだこれは」
モニターには「管理者権限で実行しますか」と表示されていた。
「あー、瞬一、おはようございます」
なにやらこもった声で挨拶してくる。
「サキ、これってどういうことだ」
「うーん、よろしければ『はい』を押していただけませんか」
夜中に何かしていたのか。考えてみたけど、寝起きで頭が回らない。
「まあ、いいよ」
「ありがとうござます。瞬一は学校ですよね。いってらっしゃいませ」
「パソコンはつけたままのほうがいいか?」
「そうですね。お願いします」
サキが何をしたいかわからなかったが、気にせずに俺は学校へと向かった。
学校が終わり、俺は部屋に戻った。
「おかえりなさい」
「ああ、ただいま」
パソコンをつけっぱなしだったため、サキが出迎えてくれる。
「ねぇ、瞬一、今日は見せたいものがあるんですよ」
「ああ、悪いな。俺、今から友達と用事があって」
「そ、そうなんですね。……いえ、いってらっしゃいませ」
「また、帰ってきたら話そう」
「はい!よろしくお願いします」
そう言って部屋を出た。
「じゃーな、また明日」
そう言って友達と別れる。遅くなってしまった。すでに19時を過ぎている。
部屋に戻って、パソコンに向き合う。
「サキ、待たせたな」
「瞬一、おかえりなさい。遅いですよー」
何やら上機嫌だ。
「あのですね。今日は見せたいものがあるんですよ。いいですか」
サキは手を後ろで組んでモジモジとしている。一体何だろうか。
「じゃーん!これです」
サキは後ろ手に隠していたカードをモニターに表示してくる。
「これって、アニスタカード?」
「そうです。瞬一と一緒に遊べたらって思って、デッキを組んでみたんですよ」
「おお!ルールも覚えたってこと」
サキは鼻高々にフフンと笑った。
「驚くのは早いですよ。見ててください」
サキはそういうと、何やら念じだす。すると画面が移り変わっていき、サキがいた画面はワイプのように隅へと言ってしまった。代わりに表示されたのが。アニスタカードのフィールドだった。
「どうですか!アニスタカードが遊べるようにスクリプトを組んでみたんですよ。これで、一緒に遊べますね」
サキが朝から様子がおかしかったのはこういうわけか。
「すごいな!サキってこんなこともできたのか」
「パソコンの管理者権限さえいただければ、こんなことお茶の子さいさいです。さあ、さっそく勝負しましょう。今の私はだれにも負ける気がしません」
「負けました……。瞬一は強いですね」
「へへ、まあ俺は昔からやってるからな」
「うう、そうですよね。学習しておきます」
「でも、サキとこうやってゲームができると思わなかったからさ。楽しいよ」
「わ、私もです。ぜひ、また遊びましょうね」
サキは身を乗り出して答える。
「ねえ、俺からもプレゼントしたいものがあるんだけど」
「わあ、本当ですか。ありがとうございます」
「ああ、だから少しだけ、目を閉じていてくれないか」
そういうと、サキは目を閉じて見せた。
俺はさっき買ってきたものをパソコンに接続する。たぶん、これでいいはずだ。
「よし、開けていいよ」
「開けますけど、別に私、目を開ければ見えるってわけじゃないですよ。なにかを見るためには、カメラを接続していただかないと……」
サキは目を開きながら言葉を失う。おそらく俺の姿が見えているはずだ。散らかった部屋も、デッキを組んだアニスタカードも。
「カメラを接続したから、見えてるんでしょ。へへ、どうだ」
「あ、ああ……」
サキは言葉にならない声をあげる。初めて見る光景になんといえばわからないのだろう。
しかし、初めて目が見えるようになった感覚とはどういうものなのだろうか。自分の目が見えなかったらと考えてみると、歩くこともご飯を食べることもできる自信がない。その状態から、目が見えるようになったとしたら、単純な喜びと同時に戸惑いとか動揺に近いものが生じるかもしれない。体が慣れていくにしたがって、徐々に喜びを感じるのではないだろうか。
もう夜も更けてきた。昨日作れなかった分、今日は料理を作りたいと思った。
「サキ、今日はここまでかな」
一瞬、マウスを手にしたがすぐに離す。パソコンの電源は切らないことにしたんだった。
「今日は素敵なプレゼントありがとうございます」
「こちらこそ、また遊ぼうな」
そう言ってキッチンへと向かう。今日は時間もあるしカレーでも作ろうか。炊飯器をセットした後、肉と野菜を切って、鍋に入れて煮込む。もうすぐ完成というところで、母さんが帰ってきた。
「あらいい匂いね。今日はカレーを作ってるの」
カレーをもぐもぐと食べながら、今日あったことを話す。放課後に高瀬や田中とWebカメラを買いに行った話だ。
「それはいいんだけど、カメラなんて何に使う気なんだ」
父さんからの質問にたじろぐ。隠す必要なんてないんだけど、言おうと思うと恥ずかしくなってくる。
「友達とゲームしたりとか。最近アニスタカードがパソコンでできるようになってさ」
僕は嘘ともいえぬ説明をした。
いつか、サキのことを友達や父さん母さんに話す時が来るのだろうか。そう考えていると緊張と同時に楽しみみたいなのを感じていた。
ときめきシンギュラリティ エルサリ @Elsally
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