2日目

「じゃーな、また明日」

 友達に手を振って別れる。今日は昨日より気分がいい。サキと話すのが少し楽しみだったからだ。

「ただいま」

 大きな声をあげながら、玄関の戸を開ける。もちろん家には誰もいない。でも部屋に戻ってパソコンを起動させれば――

「ただいま、サキ」

 黒色でつやつやとした髪で、セーラー服姿のコミュニケーション用人工知能SK型のサキが昨日と同じ姿で――

 ――膝を抱えながらモニターの隅でうずくまっていた。

「瞬一……、申し訳ありません……」


「……なにしているの?サキ」

「私はどうしようもない人工知能です。瞬一と約束したこともできない愚か者です」

 サキはひざに顔をうずめながら、暗い声で答える。

 ――約束?なんか約束してたっけ。

「私、調べようとは思ったんです。だけど、パソコンが動いていないと、なにもできないんです」

「もしかして、アニスタのこと?」

「はい、昨日約束したので、調べたかったのですが」

「それは別にいいって言ったじゃん」

「でも瞬一が好きなものを私は知りたいのです。私は瞬一のことを何も知らないので」

 昨日言ったことを気にしているのかもしれない。俺が「話が合わなそう」って言ってしまったから、サキなりに努力したいと思ったのだろう。

 でも、それは俺が思っていることと違っていた。

「だからそうじゃないんだって。調べなくたっていいじゃん。友達と話すときって、知ってることや知らないことを話し合って、それで楽しいんじゃないか。サキだって、コミュニケーションをしたいって言ってただろ。だから、俺がアニスタのこと教えてやるよ」

 モニターの隅でうずくまっていたサキが顔を上げてこっちを見る。泣きそうだった顔が一変して嬉しそうな顔になった。

「瞬一!ありがとー!!」

 そういいながら、画面いっぱいまで近寄ってきた。明るく立ち直ってくれて俺も安堵した。

 それにしても極端なやつだな。


「――そこで目覚めたのがポモンの灼熱炎天の心なんだよ。倒れていた仲間を照らしてパワーアップさせて勝ったんだ。だけど、その闘いでポモンは心を燃やし尽くしてしまったから、心を回復させるためにモロッコを目指すんだ」

「1話で命を懸けてポモンを守ってくれたビスタの息子を、今度はポモンが守ったのですね。泣ける話です。ああもう、どんどん話が気になってきます。続きは?続きは?」

「わかんないよ。まだ放送されたのここまでだからさ」

「そんな……」

 サキはとても楽しそうに耳を傾けてくれる。ここまで興味を持ってくれるとは思わなかった。

「アニスタのこと知れば知るほど、興味がわいてきました」

「本当!だったらさ、これ見てよ」

 俺は引き出しをガサゴソとあさり、箱を取り出した。

「これ、とは一体何でしょうか」

「アニスタカードゲームだよ。それでこれが俺のデッキ。見てよこれ、SSR引いたんだぜ」

俺はポモンのカードをサキの目の前に見せた。サキは茫然とした表情を見せた後、モジモジとしている。

「あ、あの、すみません……。カードを見せてくれていることはわかるのですけども、私は瞬一のほうの様子はカメラがないとわからないんです」

「え、そうだったのか。じゃあ、俺のことも見えていないんだ」

「はい。ですが、瞬一が見せてくれたカードはこちらですね。『灼熱炎天ポモン』攻撃力500HP500、このカードのHPが減少後100以下のとき、自分のフィールド上のこのカードを除く全てのアニマルカードの攻撃力を+500、HPを500回復させる」

 そう言いながらモニターにカードを表示させる。俺が持ってるカードと同じだ。

「すごい!そんなことできるんだ」

「えへへ。ありがとうございます」

 サキは誇らしげに笑っている。


 いつの間にかサキとの会話に夢中になっていた。だいぶ夜遅くになって、晩御飯を作っても食べてもいないことに気が付いた。

「俺はそろそろ晩御飯食べるから。また明日ね」

 そう言ってPCの電源を落とす。今日はハンバーグを焼いて付け合わせの野菜を茹でて添えた。ちょうど完成したことに母さんと父さんが帰ってきた。

「あれ?今日は焼き立てだね。まだ食べてなかったんだ」

 3人で食卓を囲みご飯を食べた。学校のある日の夜に家族で食事をするのは久しぶりだ。今日も学校で起きたことを話す。田中が近所の家にボールを飛ばしちゃってそれを取りに行った話だ。

ああ、あとこれを聞きたかったんだ。

「母さん。俺、ほしいものがあるんだけど、買ってもいいかな」


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