ときめきシンギュラリティ

エルサリ

1日目

ときめきシンギュラリティ


登場人物

真下 瞬一(ました しゅんいち):小学4年生

SaKi(サキ):コミュニケーション用人工知能


「じゃーな、また明日」

 友達に手を振って別れる。この時が一番嫌だ。家に帰るのはあまり好きではない。

――ただいま。

 玄関の戸を開けながら、小声でつぶやく。返事はない。父も母も仕事に行っているのだろう。おそらく21時までは帰ってこない。それまで1人で過ごすことになる。


 部屋に入りパソコンを起動する。なにか面白いことが無いか。そう思いながらアプリを調べていたとき、1つのアプリが目に付いた。

「コミュニケーション用人工知能SK型――、1人で退屈な日々をお過ごしの方、誰かとお話ししたい方、癒しを求めている方、そんなあなたに頼れるパートナーはいかがですか」

 興味惹かれる広告の反面、バカバカしいとも思った。話す相手がいないからロボットと話すなんて寂しさがさらに増すだけじゃないか。モヤモヤとした気持ちを抱えながらディスプレイを切り、キッチンへと向かった。


今日は何を作ろうか。部屋の冷蔵庫を開いた。卵と鶏むね肉と玉ねぎ……、今日はオムライスを作ろうか。1人の料理も慣れてきた。あっという間に3人前を完成させて2皿は冷蔵庫に入れておく。今日の料理はいい出来だ。母はきっと褒めてくれるだろう。そう思いながら1人で黙々と食事する。ふとさっきのアプリを思い出す。――試すだけなら。そう思い部屋に戻った。


「つまらなかったらアンインストールするだけだから」

 誰かに言い訳するようにつぶやき、アプリを起動させた。画面は暗転し、英語で何か書かれていた。その後、年齢や地域、趣味などのプロフィールを入力した。その後、数分かのロードをはさみ、表示された画面には――。

 女の子が1人立っていた。黒色でつやつやとした長い髪だ。アニメみたいな絵というよりはどこかリアリティのあるCGで描かれている。セーラー服を着ているが年は対して変わらないようにも見える。なにやらキョトンとした表情で首をかしげている。

「あれ、こちらの姿って見えていますか?カメラ入力もマイク入力も検知できないのですが」

 慌ててマイク付きのイヤホンをジャックに差し込んだ。

「初めまして。俺の名前は瞬一、真下瞬一って言うんだ」

「ああ、よかった。私の名前はSaKi。サキって呼んでくださいね」

 サキは安堵したように表情を崩した。

「ビックリしたよ。こんなかわいい子が出てくるなんて思ってなかったからさ」

「お気に召したならよかったです。真下さんに褒めてもらえてうれしいです」

「瞬一でいいよ。友達はみんなそう呼ぶからさ。ねぇ、サキは何ができるの?コミュニケーション型人工知能ってどういうこと?」

「私は、瞬一とお話しすることでより仲良くなれたら嬉しいです」

「じゃあさ、今週のアニスタって見た?」

 俺はワクワクしながら聞いた。

「アニ……スタ……?」

「アニマルビースターだよ。俺の友達はみんな見てるぜ」

「アニマルビースター……2019年放送開始された動物たちが一等星(スター)を目指して縄張り争いをするお話ですね。ポメラニアンのポモンは灼熱炎天の心を持ち、周りを力づける能力で大型動物に立ち向かっていく話ですよね」

 サキは、まるで、検索したことをそのまま並べるかのように話し始める。そのしゃべり方に落胆した。ロボットだからか女だからか、興味がないことは一目瞭然だった。

「あー、いいよ。……なんかサキと話していると疲れそうだ」

 瞬一のストレートな言葉がグサッと刺さる。

「すみません、文化には詳しくなくて……」

「じゃあさ、サキは何が詳しいの」

「私が詳しいものですか?そうですね……勉強、なら教えることもできますが」

 俺はハァとため息をついた。

「わかったよ。俺だって暇だったからさ、面白そうなアプリだって思っただけだし」

 そう言いながら「終了」のボタンにカーソルを持っていく。

「待ってください!私は、まだ、その……」

 サキが制止してくる。俯きながら、声もか細くなっていく。その様子を見て、少しかわいそうに思えてきた。

「でもさあ、俺とサキは話が合わなそうだしさ。サキだって俺の話聞くのつまんないだろ」

「そんなことは!……いえ、実をいうと、アニマルビースターについては検索していたことを話していましたが――」

「それは知ってる」

「――ですが、瞬一と話をしていてつまらないなんてことはありません!私はコミュニケーションをとることを目的とした人工知能です。瞬一とお話もしたいですし、仲良くなりたいと思っているんですよ」

 声がだんだん荒くなっていく。泣いているのだろうか。人工知能のその姿を見て、どう思えばいいかわからなかったが、ここで無理にアンインストールするほど薄情にはなれなかった。

「あーもう、わかったよ。悪かった。俺も勝手なこと言っちゃたからさ」

「でしたら、またお話ししてくれますか」

「うん。話そう」

 サキはパアーっと明るい表情になり、嬉しそうに手を合わせている。

「それでしたら私、瞬一と話を合わせられるようにアニスタも調べてきますよ。検索するのは得意なんですよ」

「別にいいって。俺はサキのことが知りたいな」

「私のことですか?私は――」

 サキが言いかけた時、玄関の戸がガラガラと開く音がした。ただいまと声が聞こえてくる。

「母さんだ。サキ、悪いな。今日はここまでにしよう」

「いえ、瞬一には家族がいるんですものね」

「じゃーな、また明日」

 そう言ってPCの電源を切る。僕が部屋を出るころには、ちょうど父さんも帰ってきた。父さんと母さんと3人で食卓を囲み、団らんとしていた。やっぱり母さんは僕の作ったオムライスを褒めてくれた。僕は気分よく、今日の学校であったことを話す。田中と休み時間にゴルフをやった話や体育でドッジボールをやった話――でも、恥ずかしくってサキのことは話せなかった。

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