105.バチが当たったんだ
眠ったら一人になっちゃいそうで、怖くてアスティの手を握った。そのまま寝て起きたら、まだ手が繋がってる。嬉しい。離さないでいてくれたんだ。
「起きたのね。抱っこするわよ」
見えないから、何をするのか説明して抱き上げられた。アスティの腕はしっかり僕を支える。落ちる心配もなく、素直に首へ手を回した。
ぺたりと胸やお腹もアスティにくっつけて、僕は首筋の鱗に頬を寄せる。これはアスティの証拠だから。銀の鱗は少し冷たくて、いつも通り綺麗なんだと思う。また見えるようになったらいいな。
迷惑を掛けているのは分かる。でも僕は悪い子だ。このまま見えなかったら、アスティはずっと僕の手を握っているはず。仕事でも離れず、抱っこしたり手を繋いで僕も連れてってくれるでしょう? それなら見えなくてもいいかなと思う。
着替えもご飯も、お風呂や寝る時も。全部ずっと僕だけのアスティでいてくれたらって。いけないことを考えてしまった。だからバチが当たったんだよね。
歩けなくなった。見えないからじゃなくて、足が動かなくなったの。つんつんと触る感覚はあるけど、足に力が入らなかった。
大丈夫と繰り返すアスティに頷きながら、離れなくて済むことより怖さを覚えた。もしかして、何も出来ない僕は捨てられるかも。ちょっと慌てた。
「あのね、治ると思うから捨てないで」
不安で口にした僕に、アスティはキスをくれる。捨てない、大丈夫と何度も繰り返しながら。僕の唇や頬にいっぱいキスをした。アスティは嘘を吐かないから、そう自分に言い聞かせて頷く。
僕、病気なのかな。
ヒスイが会いに来てくれて、手を繋いでお話をする。アスティと形の違う鱗を撫でながら、絵本を読み聞かせてくれるヒスイと過ごした。その間も、アスティは僕を膝に乗せてくれる。
「アスティのお仕事は?」
「しばらくお休みにしたの。アベル達は忙しいけれどね」
ルビアやサフィーは朝の挨拶が終わると、部屋のどこかにいるみたい。声を掛けると返事があった。
次の日、抱っこするアスティに伸ばそうとした手が動かなくて。怖くなった僕は音が聞こえないことに気づく。どうしよう。
抱っこする腕が触れて、初めてアスティだと気づいた。音が聞こえないと声も分からない。
「アスティ、聞こえないの」
ぎゅっと抱き締められた。僕の役立たずの手は首に回せなくて、大好きなアスティの姿も声も届かない。暗くて怖くて、だから呼びかける響きに誘われた。
――こちらに来い。助けてやろう。
どこからか聞こえた声に首を動かす。でも耳は何も音がしなかった。
――こっちだ。
もう一度、響いてくる。僕は真っ暗な目を見開いて、それでも見えない方へ声を出した。
「だぁれ?」
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