78.お熱が下がったからお勉強したい

 知らない人に怒鳴られてから3日、やっとベッドを出る許可をもらったばかりの僕は、まだ詰まる鼻を啜る。風邪を引いたんだって。風邪と言うのは病気で、頭やお腹が痛くなったりお熱が出たりするの。


 僕もお熱が出て鼻が詰まり、喉が痛かった。苦しいけど、ずっとアスティがいてくれたんだよ。お仕事も全部お部屋に持って帰って、アベルが通ってきたの。おじいちゃん先生に貰った苦いお薬を飲んで寝た。目が覚めると、見える位置でお仕事するアスティが駆け寄って撫でる。


 凄く幸せ。お母さんは体が弱くて、僕がずっとお母さんを守った。でもね、本当は守ってもらえる他所の子が羨ましかったの。お母さんには言えなかった。抱っこだけじゃなくて見守られるのが嬉しい。いっぱい愛されてるから幸せだよ。


 ヒスイもお部屋にいて、熱が高い僕の額に手を当てる。鱗があるヒスイの手は冷たくて、ひんやりして気持ちよかった。病気用のご飯も一緒に食べて、二人で「味がしない」と笑った。食べさせてたアスティが味見して、同じように笑う。やっぱり味があまりしなかったみたい。


 寝込んだ分だけお勉強が遅くなる。だから治ったと聞いて、僕はすぐにお勉強がしたいとお願いした。アスティは迷ったけど、許してくれた。代わりに僕のお部屋でお勉強して、具合が悪くなったらすぐ寝る約束だよ。ヒスイも、僕の様子を見て休ませる約束をしていた。隠すとヒスイが怒られるから、ちゃんと言うね。


 お休みする前の順番通り、今日は礼儀作法のお勉強から。久しぶりに会ったリリア先生は浮かない顔をしていた。何かあったのかな。僕が聞いて嫌な気分にならないといいけど。心配しながら尋ねた。


「リリア先生、何かあったの?」


「ごめんなさい。女王陛下にご相談があるんだけど、先にお勉強しましょうね」


「うん」


 アスティが忙しいから、会えるか心配なのかも。僕は侍女の人に「アスティに、会いたいって伝えてください」とお願いした。すぐじゃなくて、お勉強が終わる頃に伝えてもらう。それなら先生も気にしないで済むって、ヒスイが教えてくれた。


 僕はすぐ来てもらおうとしてたから、そういうお話は助かる。呼ばれたアスティも、僕の具合が悪いと勘違いしたら大騒ぎになっちゃうし。僕は元気ですって付け加えてもらおうかな。


「言葉遣いも綺麗になりましたし、挨拶もご立派でした。ヒスイはまだ挨拶の種類を勉強しましょうね」


 後から学び始めた所為みたい。あと、ヒスイは使用人の礼儀作法が違うからそれを覚えるんだって。僕と同じじゃダメみたい。礼儀作法って難しいね。立場や人によって全然違うの。あまり賢くない僕は、ヒスイほどいっぱい覚えられなかった。


 僕と違うお作法も覚えてるなんて、ヒスイは凄いな。褒めたら照れて可愛い。緑の鱗のお手手も素敵だし、ヒスイはお名前も綺麗だ。お勉強が終わったところで、おやつが用意された。手を拭いてお座りして待つ間に、アスティが顔を見せる。


 相談はすぐ終わって、リリア先生は挨拶するとすぐ帰っちゃった。手を振って見送った僕は、難しい顔をしたアスティのお膝で丸いドーナツを齧る。


「アスティ、あーん」


 ぱくりと食べて「甘い」と驚いた顔をするから、笑っちゃった。ちゃんと見ないで食べてたけど、中は赤いジャムが入ってたんだよ。

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