67.人を指差しちゃいけません

 アスティと出掛ける先は、海じゃなかった。今度海に行くときは、ヒスイも誘ってみよう。僕ね、お友達と出かけるのに憧れているの。お休みの日じゃなくていいから、一緒に出掛けられたらいいな。


 僕とアスティは人の都に行くんだって。サフィーやルビアも一緒だし、ボリスが僕達を乗せてくれる。アスティの背中も好きだけど、アスティにすっぽり包まれてボリスの背で飛ぶのも好き。


 海に行くよりずっと近い距離で着いた。上から見るといろんな色の屋根があって、ドラゴンの街と違う。海辺の国は青い屋根が多かったし、ドラゴンの家は壁も屋根も白かった。もしかしたら、いろんな国や種族の人が住んでる街かも知れない。


 下に降りて買い物や見物をするのかと思ったら、真っ直ぐにお城へ向かった。赤じゃなくてオレンジ? レンガみたいな色の屋根で塔があった。これはお城だ。僕が住んでた町から見えるお城は、屋根の色があまり見えなかった。


 海の近くにもあったし、お城はあちこちにあるのかな。ドラゴンはお城を作らないんだって。空を飛べるし強いから、大きな建物を建てて「凄いんだぞ」と脅かさなくても平気みたい。お城がある国は、弱い国なのかな。


 お城の上の方へひらりと舞い降りたアスティが、僕に微笑みかける。僕も笑い返したら、耳を手で覆うようにお願いされた。聞いちゃいけない大人のお話があるんだね。ちゃんと聞かないで待っていられるよ。


 両手で耳を塞いだ時、ボリスやサフィー達も人の形になった。空に浮いてるドラゴンの状態から、一気に小さくなって落ちてくる。振動があったけど、耳を塞いでて聞こえなかった。お城の床が壊れたけど、3人とも気にしてない。それに一緒にきた別のドラゴンは、あちこちへ飛んでいっちゃった。


 お買い物や休憩するのかも。見送りながら手を振ろうとして、慌てて耳を押さえる。心の中で挨拶しておいた。


 お城の中から出てきた人は、先の尖った棒を両手で突きつけてくる。それをボリスが手で払った。全部折れちゃうの。でも人を指差す形に似てたから、あの人達が失礼なんだよね。礼儀作法のリリア先生が、人を指差しちゃいけませんと教えてくれた。こういうことみたい。


 怒った顔でボリスが何かを叫んで、お城の人はさっと逃げ出す。少し待つと、年老いた男の人が来た。今度は棒を持ってない。おじいさんを守るみたいに、剣を持った人が何人も付いてくる。アスティの顔を見上げるけど、笑ってるから平気だね。


 アスティが怖くないなら、僕も怖くない。サフィーとルビアは強くて、二人より強いボリスもいる。安心してアスティに寄りかかった。


 怖い顔をして、何が始まるんだろう。僕はお耳を押さえたまま、おじいさん達を見つめた。

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