64.意地悪されたらカイが守るの

 こっそり覗いていたけど、アスティの右手の方角に立ってたアベルに見つかった。アベルの場所から僕達は丸見えだったみたい。隠れたつもりなのに恥ずかしい。


「休憩にいたしましょう、陛下。番様がお見えです」


「何!? 早く言え」


 お仕事の時のアスティは、騎士の人みたいな話し方をする。僕はカッコよくて好きだけど、普段の柔らかい話し方も好きだよ。どっちもアスティだし。


「おいで、カイ」


「うん。あのね、お友達が出来たの!」


「……友達?」


 不思議そうなアスティの前へ、ヒスイの手を引いて近づく。恐れ多いとか呟いたヒスイが震え始めた。だからアスティの少し手前で止まる。これ以上はヒスイが無理っぽいの。手が届かない位置なので、アスティが不安そうに首を傾げた。


「どうしたの、カイ」


「ヒスイが怖いって。すごく綺麗な鱗があって、目が縦に割れてて……僕、ヒスイと仲良くなりたいの。だから、ヒスイが僕の名前を呼んでもいいか教えて」


 黙ったアスティの機嫌が悪くなる。僕の一番大事な人はアスティだけど、お友達も欲しい。お話したり、一緒に野原を走ったり、お庭の花を摘んだりするお友達が欲しかった。ヒスイがいいよって言ってくれたから、あとはアスティだけなの。


 期待を込めた目でアスティを見つめると、玉座から立ち上がったアスティが近づいた。ずっと話さず無言のアスティが手を伸ばす。動かないで待っている僕を、膝を突いて抱き締めた。


「私のカイだぞ」


「うん。そうだよ」


 アスティは何を当たり前のこと、言ってるのかな。意味が分からなくて、そのまま待った。まだお話の途中だと思うんだ。いつも僕が分かるように話してくれるから。


「その子が気に入ったのか?」


「違うよ。気に入ったんじゃなくて、お友達になったんだ」


 どんなことをしたいのか、アスティに伝えた。お手手を繋いで話をしたり、お勉強や駆けっこも。それから綺麗な鱗を撫でさせてもらうの。にこにこと説明したら、大きく息を吐いて床にぺたんと座っちゃった。


「あまりに幼く純粋な願いですね」


「叶えないわけに行かない」


 アベルがくすくす笑うと、同じようにアスティも笑った。なんだか嬉しくなって僕も笑う。手を繋いだヒスイは僕の後ろに隠れていた。だから怖くないと伝えて頭を撫でる。


「よかろう、今日からカイの学友となれ。それがそなたの仕事だ、ヒスイ」


「女、王陛下が……俺の名を……え? あ、はい」


 混乱した様子で呟いたヒスイは、慌てて返事をした。これで決まりだとアベルが、ヒスイに何かを説明し始める。僕の名前を呼ぶ権利はくれたのかな。


「ヒスイは僕の名を呼んでもいいの?」


「ええ。友人ならば当然ね。ヒスイは立場が弱いから、彼が意地悪されたらカイが守るの」


 アベルも同じような話をしていた。種族の隔たりなく、僕を守って欲しいと。大きく頷くヒスイに嬉しくなる。明日から一緒にお勉強や遊びをするんだよ。アスティがお仕事に行って戻ってくるまで、毎日一緒に遊んでいいって。


 ヒスイにもお休みが必要だと教えてもらい、僕のお休みの日以外を一緒にいる約束をした。休みの日はアスティといるから、ヒスイもゆっくり休めると思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る