47.宣戦布告と見做す

「我が一族の番を傷つける行為は、宣戦布告と見做す。隣国アンドルーズを滅ぼせ!!」


 アスティの号令で、皆が一斉に動き出す。僕はアスティと一緒だった。手を繋いで黒っぽいドラゴンの上に乗る。周りの人達は、つぎつぎとドラゴンになって空へ舞い上がった。


「乗せてくれてありがとう」


 お礼を言うと、ぐるると喉を鳴らしたドラゴンは笑ったみたい。アスティに聞くと、どういたしましてと返事をしていた。この黒いドラゴンは、前にご挨拶したボリスさん。今日のアスティは軍の指揮というお仕事があるから、ドラゴンにならない予定だった。だから僕も連れて一緒に出掛けるの。


「どこへ向かうの?」


「海へ行ったのを覚えている? あの国よ」


「変なおじさんがいたとこ?」


「ええ。そのおじさんに用があるの」


 ふーん。いきなり話しかけてきた知らない人、僕は顔をよく覚えていない。ボリスさんが飛ぶ動作をしたので、僕はアスティにしがみついた。まだ包帯がついた僕の手はあまり力が入らなくて、動かすと痛かった。だからアスティがしっかり抱っこしてくれる。


 座ったお尻の下で、ボリスさんの背中が大きく動いた。舞い上がった空の上は気持ちが良くて、厚着をした僕はアスティに背中を支えられて旅を楽しむ。こないだより低い位置を飛んでる気がした。森がもっと近い距離にある。


 また変な匂いがしてきた。潮の香りと呼んでた匂いだ。あっという間に、先に飛んでいたドラゴンとの距離が近くなった。追い抜いてボリスさんが先頭に立つ。いっぱいのドラゴンが来たから、下で町の人が騒いでいた。


 指さして興奮した様子の人達が追いかけて走るけど、海岸には下りないと聞いた。上にある王城という大きな建物に用がある。僕は本当はお留守番でもいいんだけど、また攫われるといけないからアスティと一緒にしてもらった。


 僕が攫われるとアスティが泣いちゃう。アベルさんにそう言われたの。アスティは真っ赤な顔で「違う、いや違わない」と慌ててた。アベルさんはアスティの親戚みたい。従兄弟って、どのくらい近い親戚だろう。お仕事は宰相だから、今回のお出かけは残った。


 代わりに将軍のボリスさんと、部下のドラゴンの人がいっぱい。皆強そうだし、女の人もたくさん混じっていた。ドラゴンは男女ともに強い種族だから、軍人も女性が多い。僕が前にいた国は、衛兵と呼ばれる兵隊さんがいた。そこは男の人ばっかりだったのにね。


 アスティも強いから、僕は強い女の人が好き。僕が弱いけど、守ってくれるでしょ? そう笑ったら、赤い髪のお姉さんや黒い髪のお姉さんに優しく撫でられた。アスティが睨んだらすぐ離れたけど。たくさんの人に褒められて嬉しかったと伝えたら、口にキスされたよ。


 ボリスさんがこっそり教えてくれた話だと、ヤキモチなんだって。僕を誰かに取られたくない気持ちなんだとか。アスティが本当にそう思ってくれるなら、嬉しいな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る