43.今からお迎えに行くから――SIDE竜女王
ドラゴンなら、誰もが持っている竜玉。己の魂そのものと言い換えても過言ではない。通常は体内に保管し、他者に見せることはなかった。だが、この竜玉はカイに繋がる可能性を秘めている。口付けや給餌行為で私の番として認識されていたら、方向を示してくれるのではないか?
魔力を込めてカイの姿を思い浮かべる。ぼんやりした霧のかかった風景は、屋外だろうか。鳥の声が聞こえる。だが見えるのは茶色い壁だった。徐々に鮮明になっていく視界は、囚われた場所を示す。カイの見ている景色を借りた形だ。
カイの目と重なっているなら、彼は今生きていて、目が見える状態という意味だった。ささやかな情報だが、安心材料のひとつである。瞬くカイが周囲を見回すように動いた。木壁が続く小屋か、森の中に建っているらしい。
葉擦れや小鳥の鳴き声に重なり、吠える獣の声が響いた。人は見当たらない。
「カイ、聞こえる?」
慌てた様子できょろきょろと視界が動くことに眩暈を覚え、一度目を閉じた。それから気持ちを落ち着けて話しかける。声は届いていた。あの子が私に気持ちを向けている証拠だ。愛されていると感じて、こんな場面なのに口元が緩んでしまう。
「動かないで。カイ。アスティよ、心配いらないわ。助けに行く。だから覚えていることや見える景色を教えて欲しいの。この部屋に誰かいる? いたら声に出さず首を縦に振って」
ふるふると横に振られた。部屋に誰もいないのは間違いない。壁に掛かっているのは、鹿などに使う罠のようだ。仕掛けが数種類ぶら下がっていた。
「そこは小屋みたいね。覚えてることを小さな声で教えて頂戴」
小鳥の声が聞こえるなら、カイの声も届くだろう。そう判じて尋ねれば、声をひそめたカイがぽつぽつと語った。
「侍女の人に頭に袋を被せられて殴られたの。お腹が痛いのに揺られて、硬い乗り物で来た。お日様が沈む方角」
気を失った時間があったかも知れないが、さほど長くなかったようだ。お腹が痛くて揺られるのは、肩で乱暴に担がれたから。硬い乗り物は荷馬車だろうか。がたがた揺れるたびに体を打つから、痛いと感じるだろうし板張りで硬いはず。通常の馬車なら椅子がある。
頭に袋を被せて運んだなら、その袋に仕掛けがあるだろう。おそらく声を出しても聞こえないよう、なんらかの魔法が掛けられた。とすれば、自然と種族が絞られる。魔法を使うのは竜族と魔族だ。獣人や人族に魔法を自在に扱う術はない。
「どこか痛くない?」
「うんとね、手と足が痛い」
縛られている足を見つめるカイのお陰で、手足が縄で拘束された状態が確認できた。可哀想に。今すぐ抱き締めてあげたいと思いながら、出来るだけ優しく話しかけた。
「今からお迎えに行くから、頑張れるかしら」
「うん。アスティを待ってる」
竜玉を体内に取り込み、アベルに地図を出すよう指示する。視界を塞がれたカイが得た「お日様が沈む方角」というヒントを地図の上で探す。ここから日が沈む西側へ指を動かし、森の印で手を止めた。
「この森、木造の猟師小屋を探せ。私も出る!」
「はっ」
敬礼した将軍ボリスが同行を申し出る。頷いて準備する私に、宰相アベルがひそりと忠告した。嫌な予測だが、可能性は高い。頷いた私は庭に飛び出した。もしアベルの予想が正しければ、カイが危ない。
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