40.首を虫に食われたの?
起きたら頭が痛かった。ずきずきする。またベッドに寝転がった僕に、アスティは優しく水のコップを差し出す。がんばって起き上がって、コップからお水を飲んだ。凄く喉が渇いてる。
「あり、がと……けふっ」
お礼を言った最後に咳が出ちゃった。アスティが僕を引き寄せて、ベッドに寄り掛かって抱き締める。僕より冷たいアスティの肌が気持ちよくて、ぺたりと首に頬を当てた。
「……アスティ、これ」
銀色の鱗がある首の少し後ろ側、赤く虫に食われてる。痒かったり痛かったりしないのかな。つんつんと指先で突くと、彼女は笑い出した。
「虫に食われたの?」
「ふふっ。黒くて赤い目で可愛い虫だったわよ」
黒い虫? 硬い殻の虫はほとんど黒いけど、目の色は知らないな。その虫を見たかったと言ったら、アスティが鏡を取り寄せた。僕が覗き込むと、僕が映ってる。
「アスティ、僕だよ」
「ええ。そうよ、あなたがここを齧ったのよ」
びっくりして固まる。僕がアスティを齧ったの? でも歯の痕じゃないね。赤くなった場所を指先でなぞる。腫れてる感じじゃないのに、どうして赤いんだろう。不思議で何度もなぞっていると、アスティがぶるぶると震えた。
「痛いの? ごめんなさい」
「違うわっ、擽ったかったのよ。気にしないで」
もっと撫でてみたいけど、またぶるぶるすると困るな。そう思って指を引っ込めた。午後から、大きな塔のテラスで、ご挨拶がある。昨日来たお洋服をもう一度着て、僕とアスティは集まった人に手を振るんだよ。同じ服なのは、民と貴族は同等という意味があるらしいけど、同等が良く分からない。
普通は同じ服をお洗濯して何度も着るのにね。侍女の人も変なことを言うんだなぁ。着替えの時間はアスティと一緒は無理だった。男の人と女の人は結婚するまで裸を見せないと聞いた。僕とアスティは将来結婚するのが決まってるけど、まだ結婚してないからダメらしい。
将来結婚するなら見ても構わないと思う。それにアスティと僕は一緒にお風呂も入ったのに、変なの。着替えが終わって、迎えに来たアスティに抱き着く。手を繋いで一緒に歩き、お庭の先にある塔へ向かった。壁の向こう側は多くの人の声がする。
「誰か来たの?」
「私とカイを見に来た人達よ」
「アスティと僕?」
アスティは分かる。綺麗だし、強いドラゴンだもの。でも僕はただの子どもだよ。ドラゴンになれないし、汚くて醜い子と言われてきたのに。誰かに可愛いと言ってもらったのは、お母さんとアスティが最初だった。特別な女王様と一緒にいれば、僕も特別になれるのかな。
塔の上から手を振って、皆が振り返してくれるから嬉しくなった。身を乗り出して大きく手を振っていたら、慌てたアスティが僕を後ろから掴んだ。
「落ちるわよ」
「ありがとう」
僕のお腹に手を回してぐっと支えたアスティにしがみ付き、僕はそれでも手を振り続けた。だって、皆が僕に嫌な顔をせず手を振ってくれるんだもの。嬉しくて、疲れて手が上がらなくなるまで振ったよ。
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